過去の会報から
〜女性リレーエッセイ その12〜 猫に関する恐ろしい話 柳津 昇子
「チェス、またはチェスクラブに関することであれば何でもいいので1200字強、書
いて下さい」と依頼されて原稿用紙を前にしたとたん、いきなり固まってしまった。
原稿用紙に向かうなんて、一体何年ぶりだろう。読書感想文や作文を書かされていた中
学校の時以来?
あの頃は(まるですごく昔みたいな言い方になってしまったが、そうでもない、ハズ
)、何の苦労もなくシャラシャラっと書いては提出できていたのに。
とにかくおとなになると、余計なことを考えてしまうものだ。
チェスの上達が遅いと
「私ってバカだったんだ、実は。そりゃ、それ程賢いとは思ってなかったけど、ここま
でひどかったとは...」
などなど。
さて今年3月、突然にチェスがしたくなって書店へ急いだ私がまず驚いたのは、ゲー
ムコーナーにおける「マージャン本」の多さ。チェスの十倍?もっと、かもしれない。
それだけ競技人口がいるってことだろうか。私の周囲にその趣味の人がいなかったので
少しも知らなかったが、そうだったのか。
そして、自宅でチェスの駒を持つようになって、気づいたこと一つ。
「うちの猫、ちっともチェスに興味を示さない!」
これは意外だった。今まで、例えば将棋をしていると必ず近寄ってきて、猫足で駒を「
チョイ」と落としては、怒られていたのに。
だいたい猫は、人間が何かに夢中になっているところにやって来ては、それにチョッ
カイ出すことに歓びを感じるものだ。新聞を広げて読んでいれば、その上にどっかりと
座りこんでしまうし。
それに、鉛筆など適当な大きさの物をテーブルから「落とす」ことも大好き。
こんな恐ろしい話を聞いたことがある。近所の盆栽好きのおじさんが、大切にしてい
る植木をノラ猫(うちのポゴではない、念のため)に棚の上からいくつも落とされて頭
にきていたある日、そのノラ猫が今度は池の魚をのぞきこんでいるところを見つけ、後
ろから蹴とばして「池に落としてやった」そうな。こわいこわい。蹴られるまで全く気
付かないその猫も、相当な間抜けである。
つまり猫が「人が集中しているところを邪魔でき」て、「それを落とすことのできる
」チェスに無関心でいられる訳はないのだが。将棋の駒よりもチェスの駒に魅力を感じ
ている私にとって、本当に不思議である。
それよりも、これは私がチェスに集中してないことの証だとしたら...
―― 恐ろしい話である。
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最終更新日: 1997年05月10日