「007/私を愛したスパイ」

 これこそが007映画の完成品だぁ!

 なんと言う楽しさ、なんと言うカッコ良さ! 貫禄アリ過ぎの悪役! ユーモアアリ過ぎの殺し屋!
 最近の007に不満なオレとしては原点であるショーン・コネリーを経てのシリーズ中で「007はこうだったじゃないかぁ〜」って見本として押さえて欲しい一本なのです。

 まずいつも言っている様に悪役は大金持ちね、ありあまる財産の使い道に困って、暇だしちょっと世界征服でもしてみようかと、自分の思う様に世界を作り直してやろう……とか思ってる。

 本作の優雅で貫禄アリまくりのクルト・ユルゲンスと言う人はかつて「眼下の敵」や「史上最大の作戦」にも出演しているドイツの名優です。

 その部下で殺し屋のジョーズは身長2メートルでキラリと光る金属の歯が凄い! でもこの表情や動作のユーモラスなこと!
 ジョーズを演じたリチャード・キールと言う人は本作でブレイクし、かの「ロンゲストヤード」(オリジナル版)やクリント・イーストウッドの「ペイルライダー」等、当時いっぱい映画に出ました。
 しかもシリーズ史上唯一2作品に同じ役で出た悪役と言う人気者!

 007の殺し屋はユーモアですよユーモア。原点は「ゴールドフィンガー」のハロルド坂田さんが演じたヨロズヤですよね、ジョーズはその魅力をしっかり踏襲してるから楽しいのだ。

 ボンド・カーの原点は初代アストン・マーチンですけど、本作の公開された頃はスーパーカーブーム真っ盛り、007はその時々の時勢を取り入れますから。
 本作のロータス・エスプリはロジャー・ムーア版ボンドの象徴とでも言うべきスマートなカッコ良さ!
 少年だったオレは海に落ちたロータスが潜水艦になるTVCMで完全につかまれてましたね。
 CGで消えちゃう様なリアリティの無いボンドカーより、アナクロでもちゃあんと潜水艦になるロータスの方が100倍カッコ良いに決まってる!

 ボンド・ガールのバーバラ・バックも演技はドヘタ丸出しでしたけれど(失礼)何だかしっとりと美しくってね〜冒頭シーンで自分の恋人を殺したボンドへの憎しみから始まって、その後のやり取りの中でやがて協力し、愛が芽生えて……な展開がスリリングかつロマンチックで素敵でした。

 ボンドガールは作品ごとにメインとなる女優さんの他に何人かサブ的な人がいて、毎回3〜4人のボンドガールたちとのキスシーンがあるんですけど(うちの親父は怒っていた)中でも本作で忘れてならないのは、何故か半裸のエッチな格好をしてヘリコプターを操縦し、ボンドのロータスを銃撃してくるオッパイ姉ちゃん(キャロライン・マンロー)。
バリバリ銃撃しながらふとボンドと目が合ってウィンクするカットは神でした(って実際顔なんて見える訳ないんだけど)。
 その後潜水艦になったロータスが放つミサイルで破壊されてしまうという非情な描写にゃ痺れましたねぇ。

 音楽はジョン・バリーではないんだけど、本作でシリーズを唯一担当したマービン・ハムリッシュのビートの効いた音楽もディスコ全盛だった当時の世相に乗って溜まらなくカッコ良かった。

 何よりオレにとっては小学生の時友達と初めて映画館で観た007映画でね、もう〜嬉しくって嬉しくって、お年玉でサントラ買ってロータスのプラモ作ってお風呂に沈めて遊んでました(笑)

 この作品は第10作目ってことで異様に力が入ったのかもだけど、シリーズの魅力である、格闘やチェイス、ユーモアのある殺し屋、秘密兵器、スケールのデカイ悪役、美しいボンドガールとの駆け引き、等々が絶妙に上手いブレンドで、究極の007の完成品と言って良いんじゃないかと思いますね。本当に楽しい楽しい映画でした。

 シリーズも10本も続くともう原作も無いしやることもやり尽した感がありましたけど、この作品の成功がなかったらその後の007は無かったのではないかと思いますね。



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