「十三人の刺客」

「おおおおお〜〜〜!!! やれやれぇ! やっちまええぇー!」と拳を上げて叫び出し たくなった(笑)日本の観客って大人しくって嫌ですねぇ。

 昨今の名作時代劇リメイクは「椿三十郎」にしろ「隠し砦の三悪人」にしろ皆さん非難ゴー ゴーですし、なんせ監督が三池さんですから(失礼)全然興味無かったんだけど、観た方た ちのレビューがことごとく「面しれえ面しれえ……」って書いてるので、ホントにそんなに面し れえのかよ? と行ってみた。

 いや〜まぁそりゃオリジナル版の台本の魅力と言ってしまえばそうなんでしょうけど、名作 リメイクがこんなに評価されるってのはやっぱ監督の力量でしょう。
 何年か前に同じ様な面白さになるハズだったハリウッドの「300(スリーハンドレッド)」 の酷さに比べたら、こうなるべきだという手本を示したと言えるのではないかな。

 し〜かし三池監督「ジャンゴ」の時は妙なモノ作ってないで日本人にしか出来ない本格時代劇 でもやれよ! と思っていたらその声にマンマ応えてくれた感じですね。
 この感じで三池監督も徐々に巨匠への道を歩き始めるのでしょうか。

 本作は「ジャンゴ」みたく自分で台本書いてないのが良かったのかな。専業監督として台本は 本屋に任せた方が良いタイプなのかもしれませんね。
 世界の第一人者であるスピルバーグでさえ自分で台本書いてるのはかの傑作「未知との遭遇」 の他は詰まらなかった「A.I」と「ミュンヘン」だけですからね。
 まぁそう言えばクロサワが如何に凄かったのかが分かりますけど。なにせ共作にしろ全作自分 で書いてる訳だから。

 本作はオリジナル版を観ていないのでそちらとの比較は出来ないのだけれど、クロサワ繋がり で集団時代劇の元祖といえる「七人の侍」を彷彿とさせるところがたくさんありましたね。

 何しろ13人のキャラクターの中に七人の侍が全部いましたものねぇ。まぁ終盤は皆さん血み どろのどろんこになって誰がどれやら分からなくなってたけど(笑)。

 菊千代丸出しの伊勢谷友介を筆頭にリーダーの名前が勘兵衛と同じ島田なのは偶然か?
 五郎兵衛は松形弘樹。一人だけ東映時代劇な立ち回りで刀が軽そうでしたけど、さすが流麗で他 の人たちとは一線を画していました。
 久蔵の伊原剛志はがたいが良すぎる印象だけど、この律儀さとストイックなクールさはまさしく 久蔵のそれだ。
 その弟子で今回初めて人を斬ったと言ってビビッてた若侍が勝四郎ですね。

 七郎次と平八はまさかのキャスティングだった六角精児と古田新太。いや〜今回この二人が一番 美しかった!
 普段怪演や弾けた演技で派手な印象の役者さんが、グッと抑えてリアルな芝居をすると実に良い 味が滲み出る……というやつですかね。
 こ〜のキャスティングは素晴らしかったのではないかな。

 今回役所広司は全編誠実な芝居で作品に筋を通していましたけれど、コレだけは勘兵衛のイメージ と違いましたね。オイラやっぱし勘兵衛はビートたけしにやって欲しいな。

 山田孝之は当てはまる役が無いですね。本作では事の全貌を見届ける語り部的なポジションだった からかな。

 キャスティングの他にも柵で囲った宿場という限定された中での戦闘。たくさんの刀を地面に突き 刺しておいて引き抜いては斬るという描写等……もし「七人の侍」がリメイクされたらこんな感じな んだろうな、というイメージが目に浮かぶ様でした。
 で思ったのは、アレはやっぱしあの時代、モノクロで画面のサイズも小さくて、音声は同録出来ず、 そして役者さんたちの育ち方や監督・スタッフのその時代の人生観……等が相まっての産物だったの だなぁと、思ったのでした……。

「七人の侍」のリメイクは誰がどうやろうとオリジナルを超えることはあり得ないと思うけど、もし やるとすれば「どれだけ真剣に取り組めるか」に勝負が掛かっているのではないかな。
 当時作家三人でシナリオを書いていた現場の空気は殺気に満ちていたらしいけど、そこまで本当 に現場を追い込んで突き詰めて行くことが出来れば可能性はあるのではないか。

 本作でいうと全体に漲る映画の美学は感じるのだけれど、終幕のしまりのなさとか、笑っちゃっ たけど伊勢谷友介と岸部一徳の、全体の流れからすると違和感を感じるお下劣シーンとか、あまり考 え抜かれているとは思えない描写が出てくると、やはりクロサワ程の志の高さは無いのか……と思っ てしまう。

「コレがオレの映画なんだ!」と言われてしまうのかもしれないけれど、オレ的にはせっかく夢中に なって観てるのに、途中で「ああ、やっぱり三池監督作品なんだな」と思わせるところを全てカット して欲しかった(笑)。
 冒頭の手足も舌も切られた女の描写にしても、哀れと言うより奇怪な感じが先に立ってしまい、意 図からするとちょっと違和感を感じた。

 伊丹十三の「お葬式」や「静かな生活」を観た時も、どうしてこんな格調高い作品の雰囲気を ブチ壊してしまう下品なシーンが必要なのか? と思ったアレと同じですね。

 まぁ〜いろいろ書きましたけれど、コ〜レは本当時代劇の醍醐味を堪能出来る久々の快作ですよ ! 次回の日本アカデミー賞は是非総舐めにして欲しいものです。



リストに戻る