「アキレスと亀」
主人公は幼い頃から天才肌で、勉強も何も出来なくっても、絵さえ描いていれば周り
からその存在を認められると思って育って来た。
でも突然裕福だった家庭が崩壊して、親戚に預けられた主人公は世の理不尽な仕
打ちを受けつつも芸術への思いは捨てず。
やがて職場の女性と結婚し、娘が出来ても淡々と金にもならない芸術活動を続けて行
く……。
こうなるとやがては成功する偉大な芸術家の不遇な時代を描いてるみたいじゃない
ですか、それがこの映画では、結局最後まで主人公は売れないまま終わる(笑)
薬物中毒になった娘は死に、奥さんも出てっちゃう。それでも本人は最後まで芸術を
貫こうとして自ら火を点けた小屋の中で燃えながら絵を描こうとして黒こげになって自
殺未遂(笑)それで初めて自分の何たるかを悟ると言う……。
いや〜面白かったですよ。北野監督作を見てまず「面白かった」と言う感想が出るの
って今まで無かったんじゃないかな。
音楽も感傷的な久石譲さんじゃなかったしね。冒頭アニメで説明される「アキ
レスと亀」の比喩は先に走っている亀を後から出発した何倍ものスピードで走るアキレ
スが追い越すことが出来るだろうか? と言う命題で、時間の論理からするとアキレス
は永遠に亀に追いつくことが出来ないのだと言う。
この例えは人間が生涯のうちに自分の人生とは何かを知ることが出来るだろうか?
と言う問いに思えた。
つまり人間はどんなに走っても(生きても)最後まで自分の人生
の何たるかを知ることは出来ないのではないか。と言う命題なのだ。
映画の最後に「アキレスは亀に追いついた」とあるのは、主人公は一生かかっ
てやっと自己の人生を知ることが出来た……と言う解釈で良いのではないかな。
彼は結局売れもしない芸術を志して生涯を無駄にしてしまったのかもしれないけれ
ど、それでも彼は生涯を賭けて自分の人生を知ることが出来たのだから、勝者なのか
もしれない……と言う感想を持ちました。
北野映画はやっぱし変わってて面白いですよ。今回特に新しい展開な感じがしまし
た。樋口加南子さんと夫婦で芸術活動する件とか最高でした。