「あなたへ」
田中裕子演じる妻は、健さんに絵葉書みたいな2通の遺書を残した。その1通には「私の
遺骨を故郷の長崎の海に散骨して下さい」と書いてあり、もう1通は長崎にある郵便局留め
で郵送されてしまうので、それを受け取るには長崎の郵便局まで行かなければならない……。
んで老齢の健さんが妻の遺骨を持って、自分で改造したキャンピングカーで旅立つ訳です
よ。
んで道中で出会う、元教員といいながら実は車上荒らしのビートたけしや、全国を「イカ
めし」の実演販売で飛び回っている草薙君と佐藤浩市コンビ等、出会う人々との交流が描か
れていく。
いや〜老人のロードムービーというのは何故こんなにも切なく、味わい深いのか。キャン
ピングカーでの旅というので思い出したのはジャック・ニコルソン「アバウト・シュミット
」でした。あの映画も最高でした。
他にも「ストレートストーリー」や「ハリーとトント」等、切ない映画が沢山ありますね。
それにしても、高倉健さんの、85歳にして謙虚な態度には頭が下がりますけれど、6年振
りの映画出演って、何でもっと健さんの映画作らないんだ! こんな凄い人を何年も出演作
品が無いなんて、どれだけの損失なんだ!
だってもう、見てても歩き方とか本当老人ですよねぇ……今回の役は何歳の設定なんでし
ょう。刑務所の看守で定年後に委託された技術教官みたいな役職だと言っていたから、61〜
65歳くらい? とてもそんな歳には見えませんでした。なにせ実年齢は81歳だそうですから、
やっぱ違和感がありましたよねぇ。
それと物語の結末ですけれど、最期わざわざ長崎の郵便局を訪ねてまでして手にしたもう
一通の遺言なのに、ひとこと「さよなら」だけって……それじゃ裕子奥さんあんまり不親切
じゃああーりませんか。そりゃ健さん二枚とも海に投げてしまいたくなりますやねぇ。
健さんと一緒に観客にもその意味を考えさせる……って趣旨なのかもしれないけれど、あ
の無骨な健さんじゃ考えることさえ放棄してしまいそうですやね。なんだか無骨な健さんを
オチョくってるみたいで、ちょっと反感を持ってしまった。
何度も出て来る健さんの回想の中の田中裕子さんが素晴らしいだけに、何だかなぁ……と
思ってしまった。
旅の情緒や人生の意味……みたいなしみじみ感は、美しい旅の景色と共に充分伝わってく
るんですけど。なんか最期がスッキリしない感じでした。前提として提示された疑問に答え
が出ていないと思う。
まぁしっかり結末が明瞭に終われば良いという物ではないとも思うけど。
途中で知り合う人物の一人の佐藤浩市の話の方が、本筋よりもキチンと因果関係が描かれ
ていました。でも健さんの物語と有機的に結びついているともいえず、なんか中途半端な印
象だった。
健さんの「自分がハトになりました」と言う台詞も、作品全体のオチになっていたとは思
えませんね。
なんだか、本当は監督の出したいテイストはハッキリとあったのに、それが上手く表現出
来ていないのではないか……なんてつい勘ぐってしまった。
とはいえ、そ〜れは健さん。あの佇まい、妻の遺言を果たしに行く旅ですよ……そりゃ映
画として気持ち良くないワケがありません。
観ている間は本当に心地よく映画の世界に浸れました。