「暴走機関車」
コレはかのクロサワがアメリカ映画として企画していながら、シナリオも出来てロケ地も決定していながら、監督の著書によると「脚本の作り方の違い」から折り合いが合わず流れてしまったのだとか……。
後に出版されたクロサワのオリジナル脚本は冒頭からいきなり機関車が暴走を始め「さぁ大変だ」となってから徐々にその機関車に乗り合わせている男たちが刑務所から脱走して来たこと等が明らかになって来て、後はもうひたすら暴走する機関車に乗ってる人たちと、止める方法を何とか伝えようとする外部の者たちとのスリリングなやり取りが怒涛のごとく展開して行く……みたいな内容でした。
ところが当時ハリウッド側の意見は冒頭でいきなり走り出すのではなく、その前提として暴走を始めるまでの経緯をきちんと描いてから暴走を始めろ。と言うモノ。結局この諍いが原因でクロサワは降りちゃったって言うけど、ホントにそんなことだけで? と思うけど、真相は分かりません。
それから20年を経て本作は完成したワケですが、冒頭シーンはきちんと刑務所から囚人が脱走するとこから始まって、彼等が逃亡の為に乗り込んで機関車が暴走を始めるまでの経緯が順々に説明されてます。
映画の作り方としてコレは観客の好みにもよると思いますが、果たしてクロサワ流とハリウッド流のどちらが良いのか、クロサワ版はシナリオ
しか無いので判断しかねますが、どうなんでしょうね?
で本作にクロサワ脚本から引き継がれている部分は、クロサワ曰く「暴走する4重連の機関車の設定以外は全く違う」と言っているごとく、オリジナルでは乗り込んでいる4人(3人?)は全て男で、本作品の様に男2人に女1人と言う構成ではない、それに何より違うのは囚人のジョン・ボイトと相棒の男が脱走した刑務所の署長の存在!
脱走したジョン・ボイトたちを捕まえようと復讐の鬼? みたく追いかけて来るマッチョなこのオッサンの存在が脚本的には決定的に違いますね、なにせこの人、ほっといてもこれから激突する機関車に、ジョン・ボイトたちに復讐する為にわざわざヘリコプターから宙吊りになって命がけで乗り込んで来るんですぜ(笑)しかもやられてしまうと言う(大爆)。
こうして内容だけ書いてみると巨匠クロサワの名には到底価しないとんでもないB級なのですが、この映画を「面白かった!」「傑作!」と言わしめているのは他でもない主演のジョン・ボイトの圧倒的な存在感! コレは凄い!
ジョン・ボイトと言うとそれまでは「真夜中のカウボーイ」で田舎から夢いっぱいで都会に出て来たのに映画館でジイサンにフェラチオされて泣いちゃうお兄さん役とか、「チャンプ」では息子の夢を叶える為にボクシングの試合に出たけど死んじゃって子供に号泣されるお人好しボクサー役とか、どちらかと言うと優しいヒューマンな役柄が多かったのだけれど、本作では一転して社会と受け入れない荒くれ男の壮絶な生き様を演じます。
暴走する機関車から「コレは俺のものだぁ!」って怒鳴り散らす様は凄まじく圧倒されましたね。確か本作を最初にテレビ放映したとき解説の今は亡き荻昌弘さんが「男のロマンですね」なんて言ってました。本作でアカデミー賞取るのでは? なんて噂も出てた程。でもさすがにこんな映画(失礼)で受賞ってことは無いんでしょうけど。
しかし本作は全く1役者の力で駄作もこんな凄い作品になる! ってことの例なんじゃないでしょうか。全くジョン・ボイトは本作品で新境地を開いてグッと役の幅を広げてしまいました。