「小さいおうち」
編集・アングル・音楽の入れ方・演出〜ああ、これが映画の心地よさだったな。と再確認しました。安心して身を任せられる心地よさ。なんでもないシーンでも涙ぐんじゃう(笑)
なんか時々宮崎アニメがよぎるなぁと思っていたら、音楽が久石嬢だったのね。そいや可愛いお家のデザインもそれっぽいし。
現役監督では紛れもなく第一人者でありながら、こんな小品も気取らずに撮ってしまうところがカッコ良い。むしろ巨匠が力を抜いて撮ってるところに抑制が効いて何とも味わい深いですよ。それに前作の「東京家族」もそうだったけど、紛れも無く巨匠なのに、未だに小津を手本にしてるところが逆に新鮮。
オレ等は戦前〜戦中のことを劇中の妻夫木君みたく歴史の教科書でしか知らないから、当時はさぞ殺伐とした時代だったのかなぁと想像するけれど、それでも人々の日常はあったワケで、不穏な時代でも生活には楽しさとか笑いがあったのだという視点が実に新鮮でした。
「山田監督初めてのラブストーリー」って宣伝文句になってるけれど、コレは達人の間違いでしょう。ここにある恋愛のトキメキはずっと寅さんや他の作品にもあったモノですよ。
定番ならば当事者たちが生きていて最期は感動の再会〜みたいに考えるけど、主人公も亡くなってしまい、生きていた当時を知る者はお坊ちゃんだけというのも、サジ加減が効いていて良いと思いました。
悲恋の話なのに観終わって大きな感動というより、映画館を出て歩いていると胸の奥がホッコリ暖かくなる様な、ああ映画ってこうあるべきだよな。と思いました。
役者の中では松さんの素晴らしさ勿論だけれど、夫を演じた片岡孝太郎さんという方は知らなかったけど歌舞伎役者で、かの「終戦のエンペラー」で昭和天皇を演じたその人だったんですね。
本作での、夫振りは、悪びれず、憎からずのサジ加減が絶妙で、目立った見せ場は無いけれど、本作を成立させるにはこの人の役割は非常に重要でしたよ。本当はこういう役者さんに最優秀助演男優賞とかあげて欲しんですけどねぇ。
最期に泣き伏す倍賞千恵子さんの「私は長く生き過ぎたのよ」というセリフにはどんなニュアンスがあったのでしょうか。それは皆さん映画をごらんになって考えることなんでしょうね。
オレはあの時代から遠く離れてしまったことへの寂しさなのかなぁ、と思いました。