「ダンケルク」

 観客を否応なく戦場へ導く冒頭から一気に引き込まれました。でまんま止まることなくラストまで突き進んでいく。ず〜っと戦場のサバイバルの中に身を置かれて、途切れることなく圧迫されるので、1時間40分の上映時間が3時間くらいに感じてしまった。

 あんなにだだっ広い海岸線なのに逃げ場が無い! 広いのに閉塞感があるってのも凄い表現ですね。

 でもこの映画戸惑うんですよ、まずは大勢の兵隊が船を待って並んでいる桟橋にテロップが出て「1週間」って1週間前? と思っていると場所が変って自家用の釣り船で兵士たちを助けに行こうとしているおじさんにテロップ「1日」へ? と思っていると今度は空を飛ぶ三機の英軍機スピットファイアにテロップ「1時間」?? ってなんぞやと思っていたら、以降この3つの時間軸が複雑にカットバックしながら進行していくのだけれど、どうやらコレ、同時進行の話じゃなくて、同じ現場に絡んでいるけど1週間・1日・1時間という3つの違う長さの時間を1時間40分の流れの中に納めているという……新しくって面白いんだけど、何の意味があるのか? と考えてみるに、現実に起きた出来事を時系列に沿って描いても展開的に退屈するのでこんな風に工夫したのかな? と思いました。確かにそれで面白かったし。

 しかしてそれ以外は極力作りもの的なドラマ要素を排したドキュメントタッチに徹した作りには、退屈してしまった向きもある様ですね。釣り船のお父さんのエピソードには一番ドラマが仕組まれていましたけれど。

 あとスピットファイアのパイロット=英雄を演じたトム・ハーディさんは「ダークナイトライジング」の時もそうだったけど、マスクで顏が隠れる役が好きなんですかね、ラストまでこの人がこの人だったとは分かりませんでした。

 こうした映画でこういう言い方は不謹慎と思われるかもしれませんが、メッチャ面白かったです。鮮明な戦争描写。何しろ一番燃えたのはスピットファイアとメッサーシュミットの空中戦ですよ! かつて「空軍大戦略」を思い出させる。近頃戦争映画を娯楽として観る向きには抵抗があるけれど、ハイ正直に言います。子供みたいに燃えてしまいました。

 オレ不勉強で知らなかったのだけれど、ダンケルクの大救出作戦というのは実際にあったことなんですね。まるでその時のその場に居合わせた様に圧倒的なリアル感で、上映時間中ずっと死ぬか生きるかのサバイバルに放り出されます。

 でも終わってみると映画としての着地点はハッキリしませんでした。救出作戦の成功を祝うのか、それともやっぱり戦争の虚しさを表現したのか? そのどちらとも取れる描写で終わったことに意図があったのでしょうか。

 一部には現在イギリスがユーロから離脱して、フランスも後に続けという政治的な情勢になぞらえたのだとする解釈もある様ですが、そんな意図でこの映画を作ったのなら当時を生き抜いた人たちが怒るかもしれませんね。



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