「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」

 こぉ〜れ以前からずっとTV放映されないしビデオもDVDも発売禁止 (そりゃあれだけ放送 禁止用語の代名詞みたいなのを連呼してたら放映出来ませんやねぇ。ワザと言ってんのか? と 思ったくらい) と言うことで、たまに名画座でしか観られない希少作品として噂になってましたねぇ。

 オレも昔 「気狂いピエロ」 を観て以来 「開いた口が塞がらないラスト……」 と言われるとビビッと反応 してしまうんで(笑)ついに観て来ましたよ。

 本作は "江戸川乱歩全集" と銘打っている通り、様々な乱歩小説の中から設定やエピソードを 抜き取ってストーリーに当て込んだ様な構成なんだけど、その中でも大きな構成要素として取り込 んでいる 「パノラマ島奇談」 ってのは最初に乱歩の名を世に知らしめた作品だし、オレ的にも読ん だ中では一番好きですから〜その意味では不満を感じましたね。

 何より "パノラマ島" の描写が違いますよ〜原作のパノラマ島ってのは科学の粋を集めて作られ た絢爛たる総天然色な夢の世界な筈ですよ。そ〜れがこのパノラマ島は汚い!
 まぁ本作では設定が "パノラマ" ではなく 「奇形人間の楽園」 なのだから〜ニュアンスが違って もしょうがないのかもしれないけれど、それにしたってありゃ奇形人間と言うよりは何だか粘土とか 食べかすを顔に塗りたくった様な汚らしさしか感じなかった。
 奇形と言うならせめて 「ドクターモローの島」 くらいにやって欲しかったですねぇ。まぁそれを望ん でも当時の邦画の規模や技術の限界と言うことを考えれば酷と言うことなのかもしれないけど。

 そして噂の場内が爆笑に包まれると言うラスト、オレは全く笑う気にはなりませんでした。そりゃ チープと言えばチープですよ。マネキン丸出しの生首が何故か水平を保って飛びながら 「おかーさー ん!」 と叫ぶソレそのものは可笑しいですよ、でもそれまでの物語展開にちゃんと浸かって観てい れば笑える筈はありません。むしろ子守唄に乗って夕陽をバックに二人が花火と共に飛び散って行 く光景は映画的美しさに満ちていた。

 コレまるで低レベルのエログロ作品みたいに言われてるけど、どうして本作の構成は脚本的にも 結構練られていてなかなか見応えがありました。
 最初のうちは主人公が精神病院を脱走した途端に偶然物語の重要人物に出くわしたり、次に汽 車に乗って裏日本に行くんだけど 「なんでお金持ってんだろう」 とか突っ込みどころ満載で、段 々 「ああ、この映画はどうでも良いんだな」 なぁんて思って観ていたのだけれど、後半になってちゃ んと最初からの謎が解かれて行く様にゃ 「ほほ〜ちゃんと考えてたのか……」 と思わされました。

 ここも笑うポイントになっているらしい終盤唐突に登場する明智小五郎の件も、コレは "明智小五 郎" と言うキャラクターを既に映画を観る前から 「観客たちは知っているだろう」 と言う目論見の元 に書かれているのは斬新な展開だったんじゃないかな。

 一体どんなおバカ映画なのかと思って来たのだけれど、観終わってみると 「こんな創意に溢れた 作品を撮れる監督が他にいるか!」 と言いたくなりましたよ。おこがましいけど観ててオレも高校〜 大学時代せっせと作ってた自作の8ミリ映画を思い出した(苦笑)。

 こう言う作者が意図したこととは違う意味で 「笑える」 作品が人気を呼ぶ風潮ってのは古くはか の 「死霊の盆踊り」 辺りから始まりましたね。
 かのエド・ウッドの作品がリバイバルされた時にゃ大人気で場内爆笑に包まれていましたけど、エド ・ウッドだって別に観客を笑わせようと思って作ってた訳じゃないでしょ。
 もし今上映会場にエド・ウッドがいたとしたら、きっと不愉快な気持ちに襲われて深く傷ついてた んじゃないかな。と思いましたね。

 とは言えそんな私もかのクローネン・バーグがリメイクする前に夜中にテレビ東京で 「ハエ男の恐 怖」 観た時ゃ涙流して転げ回った口ですから〜あんまし人様のこと言えないんですけどね(自嘲)。

 エド・ウッド繋がりじゃないけれど、「パノラマ島奇談」 はティム・バートンの 「チャーリーとチ ョコレート工場」 みたく絢爛たる総天然色な世界観で映画化が実現すればどんなに素晴らしいだろう と思いますね。ハリウッドでしか出来ないのかもしれませんけど。


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