「がんばれ! ケサマツ婆ちゃん」

はやびと 第四回公演(2009年2月13日池袋シアターグリーン)

 老人性痴呆症になったケサマツお祖母ちゃんと家族との人生の終期の日々 を綴る物語。

 自身の祖母を重ねて見たりして涙する方もおられると思うので、ここであまり辛いこと を書くのも気が引けるのだけれど、一観客として感じたことを書かせて貰いますねぇ。
 物語としてはすごく退屈しました。「さもありなん」な痴呆性老人を抱えた家族の諍いが 類型的に羅列されるだけ(それもウンコやオシッコ、ゲロのことばかり)で何が本筋なの か、最後まで何処にドラマの焦点が当てられているのか分からずに終わってしまいまし た。

 オシメをするしないと言う葛藤等は老人なら誰しも突き当たることと思うけど、そんなの は既に前提としてあるべきで、ドラマはもっと深く突っ込んだ個々の事情とか登場人物の 本質を描くべきじゃないかな。
 一体描きたいのはケサマツの人生なのか、痴呆性老人を抱えて暮らす家族の葛藤な のか、人間の生き死にの哲学的考察なのか、結局作者はこの芝居で何がやりたかった のか、全てと言うならどれも中途半端だし、アレコレ描きすぎたせいで全体として散漫な 印象になってしまったと言うことかな。

 一番気になったのは何より本筋であるべきケサマツ婆ちゃんとスミ子が実の母娘には 見えないこと。
 実の母と娘としての葛藤はあんなもんではないのではないか。スミ子には生まれてか らずっと母親であるケサマツと過ごして来た日々があるはずなのに、ひたすら今のケサ マツがしでかす事態に翻弄されて怒っているばかりで、娘としての思いが見えない。
 むしろスミ子の夫の方が実の息子でスミ子の方が嫁に来た他人なのではないかと言う 印象だ。
 スミ子は物語としては全く 「役が立っていない」 あれだけギャンギャン罵ったり辛い目 に遭ったりしていたのに、何か人間的に光る一瞬とか、最後にはお母さんと情を通わせ る救いのシーンとかあるべきじゃないかな。アレではまるで人でなし娘みたいで、せっか く素晴らしい演技をしていても役が報われませんよ。
 終盤ケサマツが喉に饅頭を詰まらせて一瞬スミ子が見殺しにしようとした件なんて、実 の母子だったら全てのテーマに繋がる程の激烈な葛藤があると思うのに、この心情はあ まり掘り下げられない。肝心なところをスルーしてしまった感じだ。
 またスミ子が昔降ろしてしまった水子霊の女の子が出てきてケサマツと交流するのだけ れど、コレもただ交流すると言うだけで、何ら訴える事も描かれるべき心情も無く、物語に 影響することもないので蛇足に終わっている。
 降ろしてしまったスミ子の悔恨の念を出すのなら、後にこの水子霊とスミ子に何らかの 決着を着けないのではまるで "放りっ放し" だ。
 ケサマツと幽霊になって出てくる旦那さんとのやり取りも、話題にされるのは今起きて いる家族とケサマツの些細な諍いのことばかりで、夫婦の人生がどんな物であったのか は全く見えてこない。
 旦那さんが生前していた仕事とか子育てのこととか、もっと夫婦の間でしかし得ない語 るべきことがあるのではないかな。ハーモニカの意味づけにもハッキリした事情が含まれ ていないので感慨にならない。

 小学生と浪人生の子供二人がひたすらケサマツの味方をするのにも、お婆ちゃんに対 する思いの裏づけとなるエピソードが無いので違和感を感じる。
 現実の子供たちってこんなお婆ちゃんがいたら逆に毛嫌いしてしまう方がリアルではな いかとさえ思った。

 ……そんな訳でケサマツにも夫婦にも子供たちにも、個々に特有な設定やキャラ付け が無いので、人間的な厚みがまるで感じられず、全て作者の都合で動かされている感じ でした。
 辛うじて終始酔っ払っているスミ子の夫にそれらしき物はあったかと思うけど、最後に スミ子が見捨てようとしたケサマツを俄然助ける行動には、前にそれを予感させる伏線 が貼られていないので、感動と言うよりは唐突で違和感があった。

 死神一派は面白いけど、何らドラマの本筋に絡むこともなく、と言うかそもそも本筋が 何なのかがハッキリしないので絡むべくもないのだけれど、出番が全体の半分くらいを 占めるにしてはさしたる意味も感じられない。

 心中した煙草屋の夫婦の件の方がずっと物語性があるけれど、コレも何ら本筋であ るべきケサマツのドラマには絡んで来ないので、作品の中の彼等の存在理由が分から ない。
 絵本の中にケサマツが飼っていたヤギ太郎? がいるとかって意味あり気なキーワ ードが出て来るのだけれど、一体どう言うニュアンスなのかは伝わらなかった。

 そもそも前提としてこの台本は起承転結がぼんやりしていて、ドラマの本筋が明確で ないので、何を描きたいのかハッキリしなかった。

 主人公のケサマツ婆ちゃんを演じるのはこの作品を20年越しの3回目の再演と言う 男優さん。上手いし存在感があるとは思うけど、オレには最後まで本当の老婆に見え ることは無かった。

 それもこれも全ては台本の問題で、演出&役者さんたち個々のお芝居は本当に素 晴らしかったと思います。ドラマの本筋がハッキリしていれば、全ては変わって来ると 思うのだけれど。



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