「月光の夏」

劇団東演(2005年8月15日紀伊国屋ホール)

ピアニストを目指していた特攻隊員とその同僚が「出撃の前に一度で良いからグランドピアノを弾かせて下 さい」と言って訪ねて行った小学校でベートーベン「月光」を弾き、名も告げずに去って行ったと言う本当の話がベース になっている朗読劇。戦後そのふたりの消息を調べたところ、一人は立派に特攻戦死しており、もう一人の方は特攻 に失敗して生きていることが分かるのだが・・・・特攻に生き残った男は出撃前に小学校にピアノを弾きに行ったこ とは全く覚えていないと頑なに口を閉ざしてしまう。何故か・・・と言う物語が展開して行く。特攻隊で出撃しながら 途中で飛行機が故障して不時着したり、海に落ちたりして助かった方がいると言う話は聞いたことがあるけれど、その 後その人たちが辿った運命までは知らなかった。彼等は決して好きで生き残った訳ではない、ばかりか友たちと一緒に 死ねなかった後ろめたさに苦しめられていると言うのに、こんな酷いことがあったなんて・・・本当戦争の事実は堀り 返せば掘り返すほど酷いことばかりが出てきますね。始めは「特攻前にピアノを弾きたかった」なんて、なんだか作り ごとめいてベタな美談だなぁ・・等と思っていたのだけれど、後半生き残ってしまった隊員の舐めさせられた理不尽な 辛苦が描きだされて行くにつれて胸が締め付けられてしまった。朗読劇と言うことで、素舞台の真ん中にグランドピア ノを置き、前に男女4人の役者が立って本を手に登場人物たちを演じ分けて行くと言う構成に退屈しそうだなぁ、と思 っていたら、物語が進むにつれて引き込まれてしまった。ラスト「月光」第三章まで弾き切ったピアニストの方も素晴 らしかったです。これからも終戦期にはこうした舞台がたくさん上演されて行くべきだと思いました。



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