「五ヶ瀬村大字三ヶ所谷下ル」

TOKYO ROCK'N PARADAISE Vol,21(2007年4月27日THEATER BRATS)

この芝居は素晴らしかった! 御存じ布施博さんが主宰するこの劇団はオレ縁あって旗揚げからず〜っと観 てるんだけど、第21回目となる本作は今までの作品の中で突出した大傑作になりました。当初はこの劇団 布施さんの趣味? である皮ジャン反抗期みたいな架空の話で酷かった(失礼)んだけど、途中から役者でもある井上 和子さんが座付作家として脚本を担当する "アットホーム路線" が登場し出して、布施さんも本来? 持って いるどこかお人好しで暖かい男、なキャラが活かされた作品が多くなったのですが、オレはこっちの方が好きで した。近頃は再演も 含めもっぱら井上和子作品が毎年上演されていた訳ですが、本作はかなり前に高田の馬場アートボックスホール での初演をオレも観てるハズなんだけど、正直何度か爆笑する場面があったのと、大家族の兄弟の話で、長男役の布施さ んが風呂に入るシーンで素っ裸でウロウロ歩き回ってた……くらいしか印象が無かったのですが、今回はそれが ええ〜こんなに泣ける芝居だったっけ??? と言えるくらい心に響いた。客席は身につまされて鼻を啜る音があ ちこちから聞こえてました。展開はいつもの様に前半は集団マシンガントークで一気に物語の中に巻き込み、適当 にギャグで笑わせつつ人物関係や物語の状況設定を説明して行くと言うもの、コレが良く練習してあって皆の息も ピッタリで楽しいんだけれど、いい加減ちょっと長いかなぁ……と思ってしまった。時計を見たら30分以上も続く んだもんね、そりゃやる方は大変だろうけど、観てる方も「そろそろちょっと落ち着こうよ……」と思い始めても まだまだ続くのであった。まぁ後から考えて見ればそれだけ派手なドタバタがあったせいで後半のしんみりさが倍返しに なって迫って来たのかな……とも思うけど、計算だとしたらさすがです。高田の馬場での初演 はそれ程ウェットな印象は残ってなくて、内容もうろ覚えなくらいで、一体何が違ってたんだろう……と考える に、今回は台本も勿論なんだけど、作者であり主役を演じた井上和子さんの芝居が良かったのではないかと思い ます。本人は「私が作者だから」等と言う驕りは微塵も無い人で、いつも謙虚に参加 している姿勢の方なので、今回もブッ千切りの主役と言う意識はまるで無かったのではないかな。本人としては あくまで一出演者として、公演を成功させる為に一生懸命にやった結果なのでしょう。正直今までこの人が役者としてこ んなに輝いていた作品は観たことが無い。こんなに芝居の上手い人だったのか(失礼)と思ってしまった。初演の時 も同じ役だったのかな? それも思い出せないくらいなんだけど。 恐らく違う人だったか、それともこの人の役者としての技量が格段にアップしたかの どちらかなのでしょう。話の筋は田舎で暮らしていた男女6人の兄弟がいて、その兄弟とは他人なんだけど、一人っ子で 貧しい家庭に育った主人公の女の子は、その大家族の 暖かさに惹かれてずっと兄弟の一員の様に育って来た。大人になって兄弟たちは皆家を出て行ってしまったけれど、 その子は一人残ってその家のお父さんの面倒を看ている。ある日お父さんが行方不明になってその子は兄弟 たちを呼び集め、一体何故お父さんは家出したのかを皆で考えるうちにお父さんの遺言状の存在が発覚し、欲に目が くらんだ兄弟たちは醜く争いを始める、果たしてお父さんの財産は全て赤の他人でありながら面倒を看てくれている その子に譲ると書かれていたことから、兄弟たちはその子を敵視したり、遺産の分け前を貰おうとご機嫌を取り始め たりする。そんな兄弟たちにその子の怒りが爆発し「私はお金なんかいらない!」 と自分が今まで如何に皆の心の 暖かさに助けられて来たのかを訴える……。 それらがギリギリまでドタバタコメディの様に展開し、最後に爆発した主人公のウェットな芝居で一気に深い情感の中へ落とし 込まれる。この主役はともすれば自分だけ良い子になって……な印象になってしまいそうな展開が、ここでの井上和子さんの 芝居が真に迫って素晴らしく、涙がこぼれました。コレはきっと当然だけど作者と役者との間に解釈のズレが無いので、 例えればミュージシャンが自作の歌詞を歌う様に自然な芝居になったのと、そこへ持って行くまでの構成や他のキャストが的 確な芝居で 周りを囲んでいたお蔭ですね。いや〜本当に素晴らしかった。オレなんか付き合いもあっていろいろな芝居を見ていても、 「芝居がフィクションを超える瞬間」ってそう味わえるものじゃありません。 つかこうへいさんなんかは力ずくでそこまで持って行ってしまう凄い演出家でしたけど。たまにはコレがないと一生懸命 芝居やってる意味が無いし、観客も観に来て本当に良かったと思えますね。これまでやって来たこの劇団の芝居に対する 姿勢の成果ではないでしょうか。観て来た甲斐がありました。これからもずっと応援して行きたいと思います。



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