「ハート・ロッカー」
ご存知今年のメガヒット作ジェームス・キャメロンの「アバター」を抑えてアカデ
ミー賞をさらったキャメロンの元妻監督作品!
アカデミー監督賞を女性監督が取ったのは始めてというのは意外でしたね。他にもジ
ェーン・カンピオンとかミミ・レダーとか活躍している女性監督はたくさんいるのに。
この作品はひとことで言うとかつてベトナム戦争での戦場の様子を描写した「地獄の
黙示録」や「プラトーン」。またエルサルバドルの混沌とした状況を描いた「サルバドル」
に継ぐイラク版といったところでしょうか。
撮影場所は全然違うらしいけど、本当にイラクの街中で目撃している様なリアリティが
ありますね。そこでの爆弾処理班の様子がスリリングに描写されるのは圧巻。
導入部からいきなり状況設定に引き込んで爆発!〜殉職した軍曹に代わって後任に
来た無鉄砲な主人公〜という流れが編集といい見事な流れでした。
そこから後はイラクにおけるアメリカ軍の爆弾処理班の日常をリアルに描きながら、
そこにどんなドラマを盛り込むのか……というのが見所だったのだけれど、そちらはどう
もお粗末でしたねぇ。
冒頭の字幕で「人間にとって戦場は麻薬の様な作用を及ぼす」みたいなことが出て、
そのまま主人公がそうなって行くのだけれど、それってすーごく陳腐ですよねぇ……そ
んなのいままで他の映画で散々やってたじゃないですか。
それとその肝心の主人公を演じた俳優が容貌も表情も凡庸だし、演技が下手で
す! 登場シーンから何だか硬くて「演じている」のが見え見えだった。
観客に「演じている」のを感じさせる様では二流ですよ。ビックリしました。
死と隣り合わせの戦場にいるうちに危険が麻薬の様に染み付いてしまった……ってな
設定は古くはかのドン・シーゲル 「突撃隊」 のマックィーンを思い出しますけど、あ〜の
鋭い眼つきの形相はキョーレツでしたよ。
普通じゃない状況に陥って精神がおかしくなってく人間なんだから、役者はもっと考え
て作り込めよ! と思った。
でもあの役者はキャスティングされて演技にOKを出されてるワケだから、究極は監督
の責任ですけどね。
だ〜からこの映画、結局はイラクの街の混沌とした状況と爆弾処理の様子をリアルに描
写したということ以外は、物語を分析してみると昔の戦争映画がやって来たことをなぞって
るだけじゃないか〜と言う印象です。しかもヘタです。
それとドキュメンタリータッチを意識した手ブレカメラ(コレも意味無くズーミングしたりする
のがうっとおしい!)で誤魔化されてしまうけど、ところどころ演出が極端でわざとらしいシ
ーンがありましたねぇ。
特に軍医の出て来るシーンは全部、作為が先に見えてしまって、なかなか爆発しないの
が返ってイライラしてしまった(苦笑)。
ありがちな戦場ドラマ……ということからしてもシナリオの構成も演出もヘタですよ。
最初は対立してた無鉄砲軍曹と軍務に忠実な黒人とにやっと交流が生まれる、砂漠で
遠くの敵とこう着状態になる件はまぁまぁでしたけど、終盤身体に爆弾を巻かれたイラク人
のお父さんを助けられない件は決定的な転機としては唐突で、それ程重要なエピソードに
は思えなかった。なのであの後急に黒人が弱気になるのにも違和感があった。
ドラマの転機にするならそれなりにあのお父さんの前振りを入れたり、主人公たちの事
情に伏線を張ったりするべきじゃないかな。
ラストは本国に戻った主人公が「離婚したいのに女房がしてくれない」なんて嘯いていた
クセに可愛い赤ちゃんを抱っこして、「人間は歳を取ると好きな物が減って行く、俺の歳に
なるともうコレしか残っていない…」とか言ってまた戦場へ戻って行くのだけれど、それまで
の主人公が全編ヘタなので人物にリアリティが無く、な〜んだか鼻白んでしまった。
でもまぁそれ等をぜーんぶ差し引いても、イラクの街〜爆弾処理の描写だけでも十二分
に楽しめる作品なので、決して観て損をしたと言う気はしませんでしたけど。
街で暮らすイラクの人々は誰が敵なのか全く見分けが付かなくて、あの状況はやっぱり
恐いです。
それが経験出来ただけでもこの作品は評価されて然るべきだと思いますね。
アカデミー賞もきっとそこを汲んでのことなんでしょうかねぇ。