「一枚のハガキ」
日本映画史上最高の脚本家と言っても過言ではないのではないか、もちろん日本で最高齢! 大御大95歳にして自ら「遺作である」とした新藤兼人監督の大傑作!
オイラもあんまし歳取ってくると、姿勢を正して謙虚な気持ちで観ようと思う作品ってななかなかないですからねぇ。本当嬉しかったですよ。
戦争の悲劇をテーマにしながら、こんなに前向きな気持ちで映画館を出て来た映画が他にあるか!
も〜う泣いたり笑ったり! 面白さと情熱に溢れたドラマの何というボルテージ!
新藤監督のことを知らない人が観ても、まさか監督が95歳だとは思わないでしょう。
達人の極みですよ、お手本ですよ。何しろこ〜の脚本! どんなに悲しいシーンにもほんのりと漂うユーモア! 突然感情を爆発させる絶叫! 新しい門出を祝う大蛇のお神楽! 苦しかったことも愛しかった人も戦争の記憶を家ごと焼き尽くす炎! そして畑一面に稔った麦穂!
特に豊川悦司さんが出征してる間に父親と「デキている」女房をキャバレーで責める場面は、二人の苦渋の表情に酔客の笑い声が響いて鮮烈でした。
他にも要所要所のエッジの効いた演出に応えた俳優陣も凄い、何しろ大竹しのぶさんって、テレビドラマから映画まで、よくもこんなに出てる時間があるなと思うのに、そのまたどれもが拍手喝采したくなる程の素晴らしさ! こ〜の豊川悦司に「何故あなたは生きてるの」と感情を爆発させるシーンの長回しはどうですか!
柄本明さんは映画「悪人」からドラマ「それでも生きて行く」そして本作と、子供に死なれて号泣するお父さんの印象が出来上がってしまった感がありますけれど、本作でも言葉と心情を醸し出す佇まいが素晴らしい。
義母を演じた倍賞美津子さんも、死ぬ直前に芋粥を食べた幸せそうな顔が忘れられない。
大杉漣さんは美味しかったですねぇ(大笑)なんだか一人だけたけし軍団がいるみたいで、コメディリリーフを一手に引き受けて、なにしろこの脇役なくしては成立しないストーリーですから。
他にもデフォルメした表現やカメラアングル、カット割、音楽のタイミング、暗転の効果等々……ノートを取りながら観たいくらいでした。
しかしこんな素晴らしい映画を全国でたったの20館、都内では僅か2館でしか上映してないんですよ。
んでも映画館は平日の昼間だというのに爺ちゃん婆ちゃんで超満員! 受付のロビーは座る場所もありまへん。
もっと上映館を増やして日本人よ! もっとこういう映画を観ましょうよ!
金券チケット屋で「一枚の葉書下さい」って言ったら「普通の官製葉書でいいですか?」と言われてしまった。