「一軒の家 一本の樹 一人の息子」

野良猫救済プロジェクト公演(2007年1月19日新宿サニーサイドシアター)

別役実が1978年に演劇集団円の為に書き下ろした作品だそうです。物語はある公園のベンチで偶然出会った男女 の触れ合いから始まり、女は結婚相談所で紹介された相手と会う為に待ち合わせしていること。男は家族との 新居として買った建売住宅の頭金を騙し取れられ、会社の寮も出る羽目になって路頭に迷っていること等が明ら かになって行く。やがて行き場を失った男の荷物と家族が届けられて、地面に敷いた絨毯の上に荷物が山積みにされる。 女は向こうのベンチに待たせている紹介相手の後姿を気にしつつも遅れて来た男の父親と妻、それに妻が「娘です」と言い 張るキティちゃんの人形に巻き込まれて即席の「家族ごっこ」に付き合わされて行く。そこへ女が待っていた結婚相談所 に紹介された男も加わって奇妙なお茶会がはじまり、やがて男は警察に追われていること、やがて逮捕される瞬間が迫って いることが明らかにされて行く……。別役作品の展開は相変わらず靴の上から足を掻く様なもどかしいイライラ感に 引っ張られて行くのだが、男が時おり見せる狂気の言動が「家族を失いたくない」と言う叫びになって行く様が徐々に 観る者の胸を締め付けて行く。物語は結局最後まで男が何故警察に追われているのか、何故妻はキティちゃんの人形を 娘だと言い張ってあやしたりしているのか、等は観客に伏せられたまま終わってしまう。途中男は女に「かつて 英国では、人はその生涯に、一本の樹を植え、一軒の家を建て、一人の息子を持たなければならない。と言われてきた」 と語り聞かせることで男が心底から幸せな家族の暮らしを守りたいと思っている心情が伝えられる。でも何等かの現実 問題が発生して男は何等かの犯罪を犯したらしく、男が必死で守ろうとしている家族の暮らしはやがて崩壊の時に向って 進んでいることが分かる。男が必死に守りたい物、それは人間にとって普遍的に失ってはならない物の様に思えて来る。 そして人間は現実問題の中で嫌でもそれを失わなければならないことがある。この戯曲はそのニュアンスが上手く浮き 上がって来ないととんでもなく酷い物になると思うんだけど、このプロジェクトは素晴らしかったですね。特に今回 主役の男を演じて役者に徹したスタンディングコメディアンのコンタキンテさん。本当はこの役はこの人の様な キャラ立ちまくりの人よりも、佐藤B作みたいなよくいるサラリーマンのオジサンみたいな役者の方が良いのかな…とも 思ったけど、コンタさんの汗びっしょりの熱演振りは素晴らしかったですね。達者な芸人さんと言うのはキメ細やかな 芝居が出来るので特に舞台では映えるんでしょうね。あの落ち着きのない神経質なお喋り振りはふとロバート・デニー ロの初期作品を思い浮かべました。頬にシワを寄せて笑うところとか顔も似てましたね。この人のお笑芸も好きなんで すけど、役者としての活躍ももっと見たいと思いました。



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