「イングロリアス・バスターズ」
オモシロかったぁ……歴史上の時代背景がしっかりしていて、ディテ
ールが丁寧に再現されているので、今までの暗黒モノみたいな絵空事感が無い。
その分リアリティが加わって実にスリリングだ。
例えばヒトラーやチャーチルが普通に違和感無く登場するというのは見事だった。
特にヒトラーは「ちょっと似ている」というお茶ラケなレベルでなく「どうだ! 俺がヒ
トラーだ」と言わんばかりにアップで堂々と喋り倒す様は圧巻。
ナチスに占領されたフランスという状況を最大限に活かした設定の中で展開さ
れるエピソードがオムニバス的に展開されて、やがてクライマックスに収束されて
いくのだけれど、それぞれのエピソードが一過性の舞台を観ている様な緊迫感で
非常に面白い。
ユダヤ人に対して残虐な行為を行なったナチスに鉄槌を喰わせる為に潜入する
バスターズたちも、ブラット・ピットを先頭にナチスに負けないくらい残虐な集団であり、
観客は残虐者対残虐者の戦いを高見の見物するという、この辺がタランティーノなら
ではの娯楽仕立てになってる。
特に前半の趣向は舞台劇的なので、より俳優の芝居の技量に左右されるところが
大きいのだけれど、いや〜役者さんたちが皆さん上手いですねぇ。
特に今回注目されている ”ユダヤ・ハンター” との異名を持つドイツの将校役
の人は、劇中語るフランス語・ドイツ語・英語・イタリア語をちゃんと自分で喋っている
そうで、その存在感たるや凄いと思うのだけれど、如何せん同じタラ作品でブレイクし
たティム・ロスと被りますよねぇ〜容貌といい芸風といい。
他にもゲシュタポの将校とか狙撃手として英雄になった若造とか、顔も見たことの
ない脇の役者さんたちが素晴らしく良くって、大スターのブラット・ピットの作りすぎな
芝居が一番ヘタに見えてしまったくらいだ。
そ〜れと二人の女優さん! なんという綺麗! 今までタランティーノは女の趣味
がそれ程良いとは思ってなかったので、本作の女優二人の美しさには驚いてしまっ
た(笑)。
バスターズ対ナチスの抗争劇に絡めて描かれるユダヤ人ヒロインの復讐劇の顛末
は、歴史背景にタラ特有の映画的情緒が相まって、素晴らしく情感を盛り上げました
ね。
一瞬だけど監督がタランティーノであるということを忘れて観れた。そりゃタランティ
ーノ作品はタランティーノ作品として観る楽しさなのだけれど、本当に面白い映画とい
うのは誰が監督したとか途中で忘れて夢中になって観るものだと思う。
本作はもし毎度の他の映画のサントラ楽曲使い放題でなく、一人の映画音楽家に
依頼して統一したスコアーだったとしたら、きっとこれまでの妙チクリンなタラ映画とは
違う王道的な作品になっていたのではないかな。
タラ的にはここだけは譲れないところだったのか。逆に言えば「今度はどんな選曲
してるんだろう?」というのも、オレも昔やってた自主映画の様で楽しいのだけれど。本
作の場合は作品の質という意味では邪魔になってた気がする。
だってオープニングからいきなりの「アラモ」ですぜ。それに「荒野の1ドル銀貨」等、
それもちょっとしたBGMではなく、前面に出てベタに流されてしまうと。知ってる人はど
うしてもその映画のことを思い出してしまいますよねぇ。
タラ的には曲の意味合いというよりは単に場面と曲の雰囲気があっている
から……という選曲方法なのか、それとも昔の香港映画が勝手に他の映画の
サントラ使い放題だったことを踏襲しているのか。
キューブリックの映画も結構クラシックとか既成の楽曲使ってましたけど、例えば「時計
仕掛けのオレンジ」のラストに流れる「雨に唄えば」なんて深遠なニュアンスを感じさせ
て恐いくらいだった。
そう思えばまだそんなにベタな音楽の使い方をしていなかった「レザボア・ドックス」
は「パルプフィクション」以降の作品しか観ていない人が観てもタラ作品とは思わないん
じゃないかと思うくらい突出して洗練されてましたよねぇ。
あと脚本的には後半例のユダヤハンター将校が自分だけ保身の為に敵であるバスタ
ーズとの交渉に走るところは如何にも「こうなってああなって……」という図式が短絡的
で安易な気がした。
タランティーノ流のキテレツな展開といえばそうなのだけど、今回はリアルな時代背景
だけにちょっと興が醒めてしまって残念だったな。
彼の存在はナチの思想に凝り固まった狂気という不気味さだったのに、そもそも敗戦
が決定する前に後の戦争裁判や「ナチスの残党狩り」のことまで予測して行動した人な
んている訳ないんじゃないか、と思ってしまった。
とはいえオリジナル脚本で次々と面白い映画を作って行くタランティーノはやっぱし僕
等の英雄だし、大好きですよ〜。