「インビクタス 負けざる者たち」

 前作 「グラントリノ」 でまさかの玉砕死を果たした我等がイーストウッド兄貴の新作が観られる!

 けど内容的にスポーツ物で史実の映画化やし、中だるみしたり、地味だったりするかなぁ、と思ってた。
 それがあ〜た、始まったらもうファーストカットから次々と的確にテーマを紡ぎ出して、流れる様な展開が始まっている!
 仕事終わってメシ喰ってから映画観る時は、ツマンナイとすぐ眠くなるんだけど、本作はち〜っともそんな心配はいらなかった。さすが〜イーストウッド兄貴! と言ったところか。

 始めて誕生した黒人大統領の警護を担当するSPが、大統領の命令で黒人と白人混合部隊でやれということになるのだけれど、それまでの立場が逆転した白人たちと黒人たちが対立して嫌々任務に就くという縮図からテーマを前面に押してくるところなんざ実に上手いですよ。

 それとラグビーってオレ全然見ないしルールもよく知らないんだけど、本作の試合描写は途中の駆け引きとか変遷の見せ方にドラマチックなこだわりを見せるのではなく、その試合における当人たちの心情に重きを置いて描かれるので、全然ラグビー知らなくても映画を味わうことに支障はありませんでした。

 後から考えると全然ルールが分からない人の為に前振りでそれとなくルールを分からせておいて、ラストの試合にドキドキ感を持たせる運び等、本当上手く作られていますよ。
 聞けばイーストウッド本人さえ企画が登った時点ではラグビーというスポーツを殆ど知らなかったらしいですからね。
 それにオレはラグビーのワールドカップなんて全く知らなかったので、この映画が描く実際の試合の結果も勿論知らずに観てたので、結末まで充分に楽しみましたよ〜。

 この不屈の大統領を演じたモーガン・フリーマンはウルトラリアルで素晴らしいと思いましたけど、本作の本当の功労者はマット・デイモンではないかと思いますね。
 如何にもスポーツ選手らしい寡黙な中に大統領の意思を汲み取って闘志を燃やすという様は、演技者としてそう簡単に表現出来る物ではないと思う。
 最初の家族の中にいる登場シーンからもうすっかり人物造型が出来てると思った。

 それにしてもモーガン・フリーマンはニカッと笑うと本当いかりや長介みたいですね、さすが生前長介さんが ”和製モーガン・フリーマン” と言われてただけあります。

 本作は人の信念の勝利とスポーツの試合が相まって、素晴らしい歓喜の中でエンディングを迎えます。ただ……まぁコレは好みということもあるのかもしれないけれど、エンドロールの音楽だけは、いつものイーストウッド作品らしく静かなジャズが淡々と流れて余韻に浸っていたかったですねぇ。
 あ〜のラストの歌……そりゃ分かりますよ、国境を越えて人類が仲良く暮らそうって、そりゃ映画のテーマだし、心情的にも充分そんな理想が素晴らしいって気持ちになってる訳だけど、あーして言葉に出して高らかに歌われると、どうも鼻に付くというか、白けるんだよなぁ〜人間って不思議。
 ブチ壊し……とまでは言わないけれど、嫌だったな……。

 連日テレビで政治と金の話ばかり聞かされていると、本作の様な晴れやかで粋な話もあるもんかと思いました。
 こ〜の不屈の大統領の信念の素晴らしさには何度も胸打たれて涙を流しましたけど、一方では日本の現実が虚しすぎるという悲しい涙であったのかもしれません。
 いっそ日本の政治家さんも皆さん何年か刑務所に入れてあげた方が良いんじゃないんですかね。



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