「かぐや姫の物語」

 話題になっている水彩画のタッチは「日本昔話」の豪華版と言ったところか。最初は「ほほう〜」と目を奪われるけど、慣れてしまうとやはり面白さの本質にはならない。

 同じ水彩画タッチでやはり長い年月を掛けて作ったという13年も前の前作「となりの山田くん」が途中で熟睡だっただけに、今回も危惧はあったのだけれど、なるべく予備知識なしに観ようと思って、あらすじとか読まない様にして行ったんだけど、終わってみればほぼ知ってたまんまの「かぐや姫」の物語でした。

 改めて検索してみると、大まかでなくかなり細部に至るまでそのままなのが解る。詳しく知ってる人は退屈するかもしれません。

 でもオレ的にゃ充分新鮮で、少し長いとは感じたけれど、大略退屈しませんでしたよ。って言うか、今コレをやることで作者は何を云わんとしているのか……という興味で最後まで引っ張られました。

 今更ながら……というよりは「古きをもって新しきを…」って感じ?(その言い回しも古いか)月に宇宙人がいるなんて子供でも想像しない現在にあって、昔はこうした寓話に心動かされてた時代もあったのになぁと、幼少の頃を思い出させることに涙が出た。

 かぐや姫が生まれたのと同じ竹藪で黄金を得た翁は、成長したかぐや姫を連れて都に引っ越すのだけれど、そこからの姫の婿探しの出口の無い閉塞感は凄い。こんな都の暮らしより、あの田舎の野山が忘れられないかぐや姫は全くもって希望がもてず、観ているこっちも息苦しくなるくらい同情してしまう。

 人間の幸せは地位や豊かさではない……なんて今更な感じするけれど、この絵でやられると新鮮に感じられますね。

 突っ込みどころとしては、だったら仏様は翁に黄金なんか与えなければ良かったのではないか。あの黄金が無かったらかぐや姫は都に出ることも出来ず、翁たちと貧乏に暮らして捨丸アニキと幸せに暮らせたかもしれないのに……。

 最期に月から雲に乗ってドンチャカ太鼓鳴らしながら飛んでくる仏様たちには、神秘というより郷愁を感じさせられた。

 群衆たちの描写や月の使いたちの雲の上でのパレード、また姫がひとりで唄う姿等に、45年前の高畑監督のデビュー作「ホルスの大冒険」を彷彿とさせる物がありました。

 かぐや姫はオレたちに何を伝えにやってきたのか、何を今更……なんて斜に構えて気取ってる自分たちに、それでも忘れちゃいけないことがあるんじゃないのか? って問い掛けが、監督が作品に込めた思いの重さのままに迫って来ました。


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