号泣号泣また号泣のお涙ちょうだい! 上げちゃう! 芝居。韓国でベストセラーだったらしい原作本の舞台化作品。 ストーリーは女房に逃げられたヤモメの父親が白血病の息子タウムを治す為に必死の努力の末、息子の命と引き換えに自分が 死んじゃうと言う文字通りの展開。オレこの原作を読んだ時は正直「男性版ダンサー・イン・ザ・ダーク」だな、と思ってし まった。そんなに自分だけ良い子になりたいのか? あまりに何でも自分で背負い込んで満足して死んで行く父親像に途中か ら鼻白んでしまった。なのでこの舞台もあまり期待はしていなかったのだけれど・・・とにかく皆泣くんだよなぁ! 観客席はもうすすり泣きと言うレベルではない、しゃくりあげ、嗚咽を漏らして号泣ですよ号泣! それに釣られて こっちもウルウルしてしまったじゃんか(笑)原作に舞台が勝ったと言っておきましょう。原作はとにかく嘘臭い、 余りにも優等生の父親、小学生なのに全て悟り切った様な偉すぎる白血病の少年。絵に描いた様な悪い母親。 何故ここまで主人公に好意を寄せるのか分からない後輩の出版社の女性。等々、不リアルな点が目立つ。何より白けた のは父親が息子の手術費用の為に自分の肝臓を売ろうとするのだけれど、その時自分が肝臓癌に犯されているのを知り、 変わりに片目の角膜を売る。まぁそこまでは許す(?)としても、周りの誰にも自分の死を隠して息子と別れなければ ならない理由付けが弱い。別れた妻に息子を託すなら、せめて妻には伝えるべきではないのか? 妻にしたってそれで なければ急に父親が息子を自分に託すと言う気になった動機が理解出来ないままだ。ここが一番気になったな、自分だけ 良い子になりやがって、と思った。しかし舞台ではこれら不自然な点がさほど気にならず、何より父親、息子、それぞれ を演じた役者さんがリアルに人物像を体現していて素直に観れた。特にこの少年を演じた若い女優さん。よくぞこの 人をキャスティングしたと言う感じ。ハーフの様な顔の出で立ちと少年の様な発声で原作の絵に描いた様なタウムをリアル な人間像に仕立てていた。それに舞台装置、物語は最先端の医療現場から人気の無い山奥まで舞台を移すので、抽象的な装 置にするより手は無いのは勿論だけれど、これが逆に人々の芝居と心理を浮き立たせる良い効果になっていた。観ていて 小説世界のリアリティと舞台のリアリティと言うモノの違いに付いて考えてしまった。この芝居は原作を舞台用に 脚色し、キャスティングし演出した平田康之さんのセンスの勝利でしょう。ただ、セリフも出番も無い場面 で役者さんたちが舞台隅に椅子を並べて黙って座ってるところが何度かあったけど、アレだけは意味不明で異様だし、絶対 止めた方が良いと思ったな。この劇場は袖が無くて仕方なくそうしてるのかと思ったら、他のシーンではちゃんと皆掃けてた もんね。だけどこの客席の号泣ぶりは今までで一番かもしれないな。浅田次郎の映画「ラブレター」と良い勝負かな。