「勝手にノスタルジー」

サニーサイドウォーカー第1回公演(2003年10月12日阿佐ヶ谷・かもめ座)

これも作家仲間の辻野正樹氏オリジナルの戯曲で初演出作品。面白かった! これは事前に辻野氏の書 いた台本を拝聴していたのだが、その時のイメージのほぼそのままに楽しいちょっとホロリとさせる4畳半青春 バカ騒ぎが展開された。小さな劇場でオレのやっている様な芝居にかなり近いスタンスだったので親近感もあり、 本も良かったので期待もあったけど、本の印象で「これはそーとーリアルなアパートの部屋のセットを組まない とシラケルかも・・」と言う心配も、狭い空間に緻密に建てられた文字通り「貧乏アパート」の見事な出来をひ と目見た時点で不安はなくなり期待が膨らんだ。ストーリーは高校時代の同級生の男3人が刑務所から出所する 仲間の一人を皆で迎えて祝おうと集まるのだが、3人ともおバカで待ち合わせの場所をかつて一人が住んでいた アパートの一室にしてしまう。それはもう8年も前のことなので今は当然違う人物が住んでいる訳だが、そんな ことお構いなしに集まった3人は懐かしさにバカ騒ぎを開始し、なんの関わりもなく乱入された現在の居住者で ある司法試験を目指す苦学生とのやりとりが展開していく。この芝居のメインの楽しさはこの3人のおバカな遣 り取りと、それに多大な迷惑をこうむっている苦学生とのドタバタ騒ぎ、その中でこの3人がかつてどんな仲間 だったのか、それに照らして今の苦学生の友達の問題とかがあって、そして刑務所から出てくる問題の友達が何 をやって捕まったのか、またその事件に関して彼が好きだった女の同級生が登場する。要するにこの物語の核心 はここに集まった仲間たちと、女子生徒、刑務所から出てくる仲間の過去、その事件がどんな事件だったのか・ ・・・になって行くのだけれど、この過去の事件の設定が実に良くハマっている。この芝居の印象はこの仲間が 刑務所に入った事件が何だったのかによってかなり左右される重要なファクターだ、これがありがちで安易な設 定だとシラケルし、またあまりに特種で心情的に解かりづらいとついて行けなくなる。ここが辻野氏の作者とし ての資質と言うことになる。ホントこゆのってサラリと最初からアイデアがあったりそもそもの設定としてあっ たりしたものならスンナリ行くのだけれど、これを後付けで考えるとなるとなかなか出て来なくってニッチもサ ッチも行かなくなるものだ。しかし実に良く、不自然でもなく、それでいてある種の感慨も、恋に絡めたノスタ ルジーもあって、コアな部分を支えてよくハマっておりました。



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