「木に花咲く」

SSTプロデュース(2008年1月16日新宿サニーサイドシアター)

 今回の演目は別役実の80年代作品。

 加藤久美さん演ずる主人公の老婆は、学校で苛められている孫息子のことを心配して いる。息子夫婦は孫の状況を「事なかれ主義」で乗り切ろうとするのだが、老婆は許さず 「憎むべき相手は絶対に許すな!」と孫にけしかける。
 老婆の孫への叱咤はまるで自分の報われなかった人生へのあて付けの様に見える。 時に姿を現す今は亡き老婆の夫(コンタキンテ!)のことをも「ふがいない男だった」と嘆 く老婆。
 やがて孫息子は学校で受ける苛めと両親の板バサミになって、老婆に叱咤される中で 精神に異常を来たす。そしてナイフで老婆を刺して、自分も自殺することで、もう老婆にも 自分にも誰のことも憎むことが出来なくしてしまう……。
 平たく書くとそんなストーリーに感じたんだけど、題名にもある時おり語られる「花が咲く のは狂っているから、堪らなくなって、咲かずにはおれないから」と言うモチーフが、人の 生き死にの不条理を思わせて感慨を呼びます。

 特に浮かばれない人生だったかもしれないけれど、時おり姿を現し老婆に和み? の 空気をもたらす亡父役のコンタさんの老けた演技はディテールの濃さが良い効果にもな っていて実に良いインパクトだった。
 この人前々から言ってますけどロバート・デニーロに似てるんですよ。それが今回の老 けメイクでもう激似でした。演技の作り方も似てるので、やっぱしネタにして欲しいと思い ますね(笑)

 芝居の方は重くて現実にある少年事件のこととか考えさせられる内容でしたけど、人の 生きる苦悩とか不条理とか、それらの軋轢から産まれる爆発的な情緒とか、やはりいつ もの別役テイスト炸裂な見事な舞台でした。



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