「ルック・オブ・サイレンス」

 映画館でドキュメンタリーを久々に観ました。1965年にインドネシアで起きた軍事クーデター。その時共産党員とみなされた100万人ともいわれる市民が虐殺されたのだという……。

 この事件が恐いのは、その虐殺を行なったのが軍隊ではなく、殺された共産党員たちと同じ町で普通に暮らしていた一般市民の中から志願した人たちであったということ。

 つまり、大虐殺が終わり、政府の体制が変わった後、殺された共産党員たちの家族や友人たちと同じ町で平然と暮らしを共にしているのだ。

 50年前のこの事件で兄を殺された主人公は、同じ町に住んでいる "兄を殺した" 人たちを訪ね、一人一人に対して「何故殺したのか」「どんな風に殺したのか」と話を聞いていく……。

 この映画がゾッとするところは、その当事者たちの反応だ。テレビのインタビューに向って、自分たちがどんな風にして主人公の兄を殺したかを得意げに笑顔すら浮かべながら身振り手振りで再現するのだ。

「股の間からペニスを切って、腹を切ったら腸が飛び出した。なかなか死なないので何度もナイフを刺したんだよ……」

 軍からの命令だったとはいえ、それまで同じ町に住んで同じ言葉を話す人間をそんな風に殺せるものなのか!?

 両手を縛って、目隠しをして、殺したら流す為にトラックから降ろして川辺まで引っ張って行ったという。
「助けてくれ」と泣いたり喚いたりすると殴りつけて諦めさせた……。

 そうして何人も殺していると気が狂ってしまうので、狂わない為には殺した人間の血を飲んだのだという。何故血を飲めば気が狂わずに済むのかと思うけど、血を飲んだ者は狂わずに済んだんだって……。

 虐殺に加わった人は皆、今話している相手が虐殺された男の弟だと知ると、サッと表情を変えて途端に「命令だったから仕方がない」「それはきっと俺のやったのとは違うところだよ」等と言い訳に転じる。

 少しは罪の意識もあるのかと思うけど、結局のところ異口同音に主張するのは「過去のことをもうほじくらないでくれ、過去は過去として、今はこうして平和なのだから、上手くやって行こうじゃないか」

 苛めもそうだけど、苛めた方は忘れても、苛められた方は決して忘れない。主人公の母親は、50年たった今も殺された長男のことを毎日嘆き、悲しみにくれて生きている。それを「忘れてくれ」と言われてもねぇ……。

 殺人の実態を究明していく展開にすぐ「ゆきゆきて神軍」を思い出した。アレも非常に恐い映画だったけど、あの奥崎兼三? ってオヤジの方がキャラがキョーレツだった分迫力がありましたね。

 し〜かし人間が一番恐いですね。本当にガクブルです。


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