「地下鉄(メトロ)に乗って」

 泣かせる大人のファンタジー。今じゃひとつのジャンルとして確立した感もある浅田次郎の小説の映画化作品。 オレも知らなかったけど、戦前から走っているらしい地下鉄丸の内線で仕事に通う主人公のサラリーマン(堤 真一)がある日駅から階段を登って地上へ出ると、そこは昭和39年の街だった……ってな取っ掛かりから始 まって、物語はタイムスリップした主人公が長い間憎んでいた父親の若い時代の苦労を見せられる事により、人 間として父親のことを理解して行く。

 タイムスリップした世界で出会う父親は戦争に行く前の青年時代〜戦地での兵士として〜戦後 米軍の占領下で闇市で逞しく生きる姿……等々当時の風俗を垣間見せながら辿って行く父親の生き様が大沢たかお の好演も相まって何とも魅力的に展開して行きます。また物語は主人公が現在不倫している愛人(岡本綾)も巻 き込んで、過去の世界に一緒にタイムスリップし、彼女の両親や出生の秘密にも及び、やがて意外な展開を呈し て行く……。

 主人公が今まで嫌なところしか見たことが無く、憎しみしか抱いていなかった父親の、全く 知らなかった若き日々を見せられると言う面白い展開と、そこに当然生じるであろう人としての情に絆されて ホロリとさせ、ふと自分の人生や親のこと等考えさせられる。浅田テイスト満載の良い作品でした。

 ただラスト 近く、主人公の愛人が自分の出生の秘密を知ると実は主人公の腹違いの妹であったことが判明し、また自ら不倫 の愛から身を引く為に自分の母親(常盤貴子)もろとも階段から転落して自分の存在を無き者にしてしまうと 言う決着はどうか? 原作ではこの辺りどうだったんでしょうか? 原作を読んで映画を観た人の意見を聞くと おおむね不満が残ると言う意見が多い様ですが、映画だけ観た感じでは途中とっても面白く良い展開だっただ けにこの愛人に対する決着の付け方がどうも強引でやっつけな気がした。映画はそこがクライマックスで結末 を迎えてしまうので、作品としてもどうも尻切れトンボな印象を残してしまいました。

 関係ないけどオレも毎日丸の内線で仕事に通ってるんですけど、映画の中で新中野駅の出口の前の通りっ てアレ青梅街道ですよね、昔はあんな狭かったんでしょうか、片側一車線しか無いですもんねぇ。あと蛇足です が、この映画を観る前にたまたま舞台 「タンゴ・冬のおわりに」 っての観たんですが、堤さんはこの映画では 全く翻弄される受身の芝居だったこともあるんでしょうけど、舞台の方が遥かに輝いてました。

 この映画では皆さん大沢たかおさんを絶賛していますけど、まぁアレは役柄として役者はやり甲斐のある 良い役でしたからねぇ。堤さんだってもしどっちの役か選べと言われたら迷わず父親役を選んでいたのではないかな。

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