「モダン・タイムス」
多分映画史に残る5人の監督を選べと言われたら入るであろうチャールズ・
チャップリン。こ〜の何という天才! 映画という物が持つ要素の最大級の結晶とでも
言おうか、この素晴らしさを何と表現致しましょう。
まぁそんなこと、今更言うのも野暮ですやね。それはひとこと「チャップリンだから」
ということでよいでしょうか。
面白いというだけでなく、時代や社会の変遷や未来を見据えて警告したり、考えさせ
たりしつつ、それをエンターティンメントの楽しさで包み、見る人を笑わせたり泣かせたり。
しかもそれが70年前の彼方から今なお光を放って来る。
本作は社会の文明化が進み、人間の労働もオートメーション化が進んで来ると、人の
生活がどの様に影響されていくのか、それがゲラゲラ笑ってるうちに怖さも忍び寄って
来るという感じが凄い。
序盤の「労働しながら食事が出来るマシン」に掛けられる件や、流れ作業で一日中ボ
ルトをひねってるうちに動作が止まらなくなり、ボタンや人の鼻まで見るとクリンとひ
ねったりするのは大爆笑。
でもそのうちベルトコンベアに流されて、チャップリンが歯車の中に文字通り飲み
込まれていく件のなんとショッキングだったことか。
今でこそ人間が機械に使われるとか、支配されちゃうみたいな未来感は珍しくもないけれ
ど、それを70年も昔に先取りしてるのが凄い。
他にもチャップリンはかのヒトラーが戦争を始める前の評判が良かった頃、すでにその
本性を見抜き、ヒトラー本人も2回観たという「独裁者」を作ったり、不況の中で家族を
守る為に富豪夫人を何人も殺した犯人を演じ、裁判で「私は罰せられるのに戦争で大量に
人を殺した人は英雄じゃないか」と国家に対して強烈な告発をして、国外追放になったり
してる。
オレは大学で社会学科だったのだけど、そこで急進派だった左系の教授はチャップリンを
敬愛してて「モダン・タイムス」「独裁者」「殺人狂時代」を勝手に「社会主義三部作」
と括って講義の時に話してましたっけ。
そんなこと書くと難しくて取っ付きにくいのかと思われそうだけど、本作は誰が観ても
ゲラゲラ笑って楽しい楽しい。存分に人を楽しませながらそんなメッセージを仕込んでい
るところが凄いのだ。
本作でもサイレントならではの普遍的なお笑いがあり、ヒロインとのロマンスがあり、
レストランか何かで初めてチャップリンの肉声が登場するシーンでは、袖に付けていた
歌詞カードが飛んでしまい、即興で適当に唄う有名な楽曲のなんと楽しかったことよ♪
ラスト、ことごとく望みを断ち切られながらもヒロインと二人「笑って!」と笑顔を確かめ合
いながら立ち去る姿に流れるチャップリン作曲の「スマイル」はスタンダードとして、今も
何処かで誰かが唄ってますよね。
このころ既にトーキー全盛でありながら、サイレントという自分のスタイルに拘っていると
ころは、カラーが普及しても白黒に拘ったクロサワに通ずるものがありますね。
技術が発達したからといって、当たり前の様にそれに流されるのではなく、自分の形式の中
で創作を追及する。芸術とは形式ですから、技術が進歩したからといって必ずしもそれに追従
していく必要はないってことなんですよねぇ。