「ミュンヘン」

この作品はパレスチナとイスラエルの関係や、実際にミュンヘンで起きた事件について観客が全て習熟してい ると言う前提で語られている。 過去にサスペンス〜ファンタジー〜冒険アクション〜大河ドラマ〜等々様々なタイプの作品に挑戦してきたスピ ルバーグが始めて挑む「実録タッチ」な作品。 それまでのどの作品とも違う、社会派実録ドラマの作りで撮った意欲作。でも少し中途半端だったかな・・ この題材でこのタッチなら往年のコッポラやオリバー・ストーン辺りがやればもっと的確にパンチの効いた作品 になったのではないか。闇の情報屋のパパはまんま「ゴッドファーザー」やし、自分も暗殺されると疑心暗鬼 になった主人公が部屋中ひっくり返して爆弾を探す様子は「カンバセーション/盗聴」を思わせるけど。 やっぱしスピルバーグは勧善懲悪で明確なヒューマニズムを押し出した作品が本領と言う ことか・・・善とか悪とか単純に割り切れない理不尽でしかも強烈なニュアンスを表現するにはイマイチな気がした。 オープニングの悲壮感溢れる音楽にいつものドリームワークスのファンタジックなロゴが出るからして違和感が あったな・・・ともあれ面白かったけど。 むしろ従来のスピルバーグの方法論である例えば「シンドラーのリスト」の様に事実を元にしながらフィク ション的なキャラクター付けや明確な物語展開で見せた方が良かったのではないかな。 この作品は間違いなく興業的には失敗するでしょうね、スピルバーグとしては採算を抜きにしても作家と して、また自分もユダヤ人として敢えて描きたい使命感に燃えて作ったのだろうけど、歴史の陰に隠れた重大な出来事を 世間に表出させると言う意義は凄いけど、せっかくやってもその意図が一般大衆に伝わらない のでは意味が無い。特に日本の観客なんていきなり「モサド」と言われても何のことだか分かんない人が 多いんだから、例えばテロップで言葉の意味を説明するとかして、世界情勢に疎い人でも物語の展開 が分かる様な作りにしなければ問題意識が伝わらないよなぁ・・オレが言うのも生意気だけど、構成が ヘタな気がした。そもそも 冒頭のツカミから失敗してる。それこそ「プライベートライアン」じゃないけどミュンヘンで起きたオリンピック のイスラエル選手虐殺事件を劇中小出しにするのではなく「こういう酷い事件が起きた」と言うツカミとして全貌をしっかり 見せてから「この事件を起こしたパレスチナの指導者たちに暗殺者を送り込んで報復してやろう」と 言うことになり、その任務を担う者として主人公が抜擢される・・・みたいに定番な順序を踏んだ展開 ならば、感情移入出来て観客もついて行けるのではないかな。 随所に出て来る主人公の回想シーンで徐徐にミュンヘン事件が再現されて行くけれど、コレは本人が事件の当事者ではないの で主人公の感情にはならない。 スピとしては折角新境地開拓に挑戦した野心作なのに惜しい気がした。どんな崇高なテーマがあろうとも 大前提として作品が面白くないと伝わらない。 そのせいか「シンドラーのリスト」みたいな渾身の力を感じなかった。面白かったけど。 これから見る方、パレスチナとイスラエルの経緯やミュンヘン事件とそれに対するモサドの報復等、史実を 御存知の方はともかく、ピンと来ない方はネットで調べる等して概要を知ってから見ないと全く仲間に入れて 貰えません。 それから観ようと思ってる方は早く観ないと打ち切りなっちゃうと思いますよ〜。



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