「名もなく貧しく美しく」
聾唖者の夫婦が手に手を取り合って暮らして行くという、障害があっても前向きに、
愛情を持って生きる姿を描く。そんな系列のドラマの原点の様な作品。
電車の中で窓越しに小林桂樹さんが高峰秀子さんに手話で語りかけるシーンが鮮烈でした。
けれどこの作品、若い頃観ていて驚いたのは……以降は決定的なネタバラシになるので〜
これからご覧になる方は読まないで下さいね。
後半物語の流れからすると全く唐突にヒロインがトラックにはねられて死んでしまう! 障害
を持っていても、こんなにも前向きに一生懸命生きている姿に胸を打たれて、観ている観客も
頑張ろうと思っているところへこの展開はないだろう! と思ったものです。
物語を作る作者は神様であり、登場人物を生かすも殺すも神様次第ですよね。そして神様は
観客に対してどんな信条を伝えるかに責任がある。
「ここでヒロインに死なれた日にゃ観客はどんな気持ちで帰ればいいのか!」ってことなんで
すけど、まぁ作者としては、耳が聞こえない為にトラックの警笛も聞こえず、こんな悲劇にな
ってしまうんですよ……。ってなニュアンスだったのでしょうか。
後に本作の助監督だった方にお話を聞く機会がありまして、オレも若かったので〜この件を
質問してみたんですよ。そしたら実に興味深いお話を聞かせて下さいました。
実は本作、当初はかの木下恵介が監督する予定だったものを、台本を読んだ監督が「途中で
死んじゃうんなら監督出来ないよ」と言って降りてしまったとのこと!
まぁそんな決して悪い作品とは思わないけれど、作者が作品に対して持つ責任というか、あ
るべきスタンスというか、そんなことを考えさせられた映画でもありましたね。