「おくりびと」
当時評判が良かったので観に行きましたけど。その後すぐに峰岸徹さんの訃報が
流れてビックリ。思い出す映画のシーンがそのまんま遺影の様なイメージにな
った。
この作品は「特殊な仕事モノ」のひとつで、特に伊丹十三監督の「お葬式」を
思い出させる。山崎努さんも出てるしね。この「納棺師」と言う仕事は確かに誰
かがやらなきゃいけない作業だし、人は生きてる以上必ず死ぬ訳で、そう言う
意味じゃ身近な問題でもあるのだけれど、今までこんな職業があることを全く知
らなかった。
最初に企画を思いついたのは主演のもっくんらしいけど、この着眼点は素晴
らしかったですね。ただ問題なのはそのネタからどうドラマを構成してストーリー
を紡いで行くのかと言うことなんだけど。発想は誰にでも出来ても映画として見
応えのあるものにまで仕上げて行くのは脚本家の腕だ。
そこで一番問題になるのはそのネタに絡む主人公の設定で、この仕事に従
事することで彼の人生にどんな影響を及ぼすのか、またそのことによって彼の
人生がどんな風に変化して行くのか……が見所になる。
本作の主人公もっくんは元オーケストラのチェロ(だったかな)奏者と言う設定。
それが廃業して田舎に戻り、成り行きから「納棺師」なる職業に付くと言う流れ
なのだけれど、この「元チェロ奏者」と言う設定を持って来たのは上手いと思った。
この「納棺師」と言う職業は遺族たちの見ている前でご遺体に死に化粧を施
したり、見えない様にシーツを被せたまま鮮やかな手さばきで着ている物を死
に装束に着替えさせたり、その優雅で切れのある所作がひとつの見所になっ
ている。それが楽器を演奏する奏者と重なり、もっくんの演奏するチェロの音色
とシンクロして人の死を奏でる様に表現されたりするのだ。
そしてまた、納棺師として仕事を依頼された葬儀が幾つが出てくるのだが、
その遺族や友人として出演している杉本哲太さんや笹野高史さん等脇の役
者さんたちがみんな素晴らしい。
特に連れ合いを亡くした夫役の山田辰夫さんは本当に素晴らしかった。この方
も最近亡くなられたみたいで残念ですね。
主役のもっくんはちょっと男前すぎるかなとも思ったけど。あと誰より素晴らし
かったのは山崎努さんですねぇ。やっぱし葬儀ってこともあってどうしても伊丹
監督「お葬式」がダブるけど、こ〜の老齢で食欲旺盛な納棺師の佇まいは本
当にキャリアを感じさせる役者の味わいに満ちていた。主演ではないけれど本
作で一番の存在感を示していたのは紛れもなく山崎さんですよねぇ。