今井雅之の遺産
AKBとか誰が誰子ちゃんとかひとりも分からない私。コレもアイドルユニットみたいな人たちの公演だったのですが、企画内容に興味があって観に行きました。
享年54歳でこの世を去ってしまった今井雅之さん「ウィンズ・オブ・ゴッド」は現代の若者がタイムスリップして戦時中の若者たちと交流するというフォーマット″を残しました。
その後森山未來さんの出た潜水艦の回天特別攻撃隊バージョン″があって、次の本作は沖縄戦で命を落とした「ひめゆり部隊」に代表される女子学徒隊バージョン″。
米軍が攻めてきた沖縄で女学生たちを引率する将校役は「ウィンズ・オブ・ゴッド」で降板した今井さんに代わって主演を務めた役者さんだとか。ここにも今井さんが残したイズムがしっかり生きていると思いました。
今井さんとは生前ご縁があったので本当に残念でした。でもこんな風にスピリッツを継承している人たちがいると思って嬉しかった。クロサワが逝去した時に「プライベートライアン」を観たよな感じ。
戦争なんて想像も出来ない現代をオチャラケで行きてる若者が、明日死ぬかも知れない極限でそれでも誇りを持って生きてた若者たちと遭遇する……こ〜の外し様もないドラマの図式は素晴らしく、これからも様々にバリエーションを展開していくことでしょう。それ程今井さんが残したフォーマットは素晴らしいのだ。
「ウィンズ・オブ・ゴッド」の始まりはアマチュアの小劇場公演だった「リーイン・カーネイション」という作品で、製作費は60万円だったそうです。そんな最小単位の作品が映画化されたり、海外でも上演されるに至ったことにドリームを感じたものです。
今回の公演では普段から彼女たちがレッスンに励んでいるであろう歌″も要所の見せ場に活かされて素晴らしい効果を発揮していました。
コ〜レは企画性から言っても極上ですよ。きっと映画化されるでしょうね〜
つかこうへいをしらない方へ
芝居はライブであるだけに、演出家や役者が故人になってしまうと二度と観れません。
つかこうへいの名前は知っていても、どんなに凄かったかと言われても、もう絶対に観れないのって悔しいですよねぇ。
つかこうへいの芝居は何故そんなに伝説になっているのか? 一体どんな芝居だったの? って思う方はこのサニーサイドシアターの芝居をお勧めします。
「熱海殺人事件」は特に人気作でアチコチの劇団でやってるの観たけれど、ここの迫力に勝てるモノはありません。
かつて本場つか劇団の若手公演で観たのよりもつからしかった。って言い方ヘンか。こ〜の追い詰められた役者の爆発には目を見張ります。
それと今回なんとあの伝兵衛部長刑事を女性が演じるというのも新趣向! そんなこととは知らずに観てたのでそ〜と〜驚きました。看板女優の加藤久美さんのが観れなかったのが悔やまれますが、ダブルキャストの石川里沙さんという女優も自分のギリギリを出し切ってる様で素晴らしかった。
前に他の知人で婦人警官役を男が演じるという怪作も観ましたが、こ〜の女伝兵衛部長刑事はカッコ良いです。
今では観ることの出来ないつかテイストの何たるかを知りたいみなさん! コレなら間違いないですよ〜
絶賛してみました〜
演者の皆さんは凄く苦労され「全く自信無かった」そうですが、素晴らしい舞台でした。実は前回乗れなかったので期待してなかったのだけれど(失礼)。
何より台本が良かった。核戦争後の世界〜と言われると「またコレか」と思うけど、本作はそこに身体を売って終戦を生き抜いた「肉体の門」を持ち込み、核戦争後のサバイバルと女の戦いがリンクするという趣向〜で一気に面白くなった。
5人の女が抱える事情とキャラ設定がしっかり作用していく展開が見事にはまっていました。昔それぞれ業を背負った女たちが脱走する「女囚サソリ」とか思い出した(笑)。
セリフはギャグ満載ながら事情が理解出来るので、役者がシャウトする程ビビットに響いてくる。結成10周年だそうですが、女優さん5人それぞれ個性を活かしたアンサンブルで台本に応えていました。キレキレで息の合った動きはチームワークの賜物でしょう。
キャラクターの過去が語られだすと各々が瞬時に回想の人物になり、流れを途切れることなく紡いでいく様は眼を見張る様な出来栄えで、アクロバティックな妙技を見せられてるみたいでした。
音響も擬音や銃声のタイミング、頷く声だけのボスキャラ等効果を上げていたし、ほんのり炊いたスモークやサーチライトに照らされるラスト等照明も呼応していました。
ひとつの台本に全てが収束している光景は久し振りでした。あ〜舞台ってこうだよなぁ、と思った。かつての遊民舎や唐組を思い出したり。
なのでところどころにどうしても入ってしまう暗転は気になったかな「コレで終わりか」と3回くらい思ってしまったけど、何処でブツ切りになってもカッコ良いと思わせるボルテージに溢れていました。
今回の演目は1936年に38歳で生涯を終えたスペインの詩人・劇作家フェデリコ・ガルシア・ロルカの遺作。
ギリシア悲劇的なテイストや既視感のあるベルイマンやウディ・アレンの映画はきっとこの流れを汲んでのことなのでしょうね。
この作品名を検索してみると世界中でいろんな形式で上演されていて、イメージとしてはゴシック調のしっかりしたセットを組んでの世界観かと思いきや、意外とシンプルで抽象的な空間演出で上演されることが多いみたいですね。
でこのサニーサイド版は、毎度小さな小さな劇空間に、ともかく演出と芝居勝負でどれだけドラマの臨場感を再現できるか……てことなんだけど、思ったのは小さいだけに圧迫された姉妹たちの閉塞感がよく表現されていたのではないかと思いました。
人物たちの感情のベクトルがハッキリしているので、ぶつかり合いが活き活きとしてドラマの醍醐味を堪能できる。
毎度ながら役者さんたちが凄く頑張っていました。こうした時代も文化も違う外国の古典をやるには、セリフに気持ちを乗せるのにそ〜と〜苦労すると思うのだけれど、皆さんぶれることなく役として感情を爆発させていました。
ドラマがドラマになる瞬間というのか、そんな時この戯曲の書かれた80年前と意志が通じているのを感じますね。それが古典を見ることの醍醐味なのだなぁと思う様になりました。
古典を上演するというのは古い映画をそのまま見るのとは違う、当時の生きたテイストを再現しようとする想像力を必要とされますね。
上演される環境も国も時代も人も何もかも変わってはいても、台本に仕組まれた「何故面白いのか」また「何処で観客が笑うのか」が伝わってくる瞬間にはタイムスリップ的な感動がありますね。
演出も役者さんたちのテンションも素晴らしく、小さな舞台の向うに松明に照らされた野外劇場が見えた気がしました。
モリエール的には、野心を持って上演した別の力作があまりに不入りの為にやっつけ? で書いた冗談みたいな作品だったらしいけど。それが大ウケして現代に至るまで世界中で上演されるとは思ってもみなかったんじゃないかな。傑作というのはそんな形で出来てしまうパターンが多い様ですね。
もし自分の作品が350年後に上演されているのを見たら、どれだけ興奮するだろうかと思いましたねぇ。
何年か前に劇団未成年というところでオムニバスの一本を書かせて頂いた時、他作品に出演していた民本しょうこという女優さん。この人元々(今も?)どちらかというとアイドルな活動をされてたんだけど、思い切ったエモーショナルな演技が素晴らしいんですよ。
今回ちょっと変わった設定の役だというここで、観てきました。それは他人の言うことをなんでも嘘とか冗談だとか考えず、全て真に受けてしまうという……ホントにそんな病気があるのか(アスペルガーの一種?)と思うけど、そんな難解な役をビビットに伸び伸びと演じてました。
舞台は場末のピンクサロン。その店は青森のねぶたや秋田のなまはげ等、地方色のコスプレで彩った風俗嬢たちがサービスしてくれるという趣向。主人公はその店の店長で、知的障害を抱えた兄を面倒看ながら経営している。
ある日店長に経営を任せて失踪してしまったオーナーに多額の金を貸していたというヤクザが乗りこんで来て、保証人になっている店長に金を返せと凄んできて大騒ぎになる。
更に店長が1年前に別れた元カノが訊ねて来たり、ホステスの一人が取り立てヤクザの幼馴染みだったり、民本さん演じる嬢に入れ込んで通っていたオタク男がプロポーズしたり……と時に笑いを挟みつつドタバタが楽しく展開していく……。
そんな中で知的障害のお兄さんがボヤ騒ぎを起こしたり、持ち上がる数々の問題に追い詰められた店長が兄に辛く当たって後悔したり……そして遂には火事の最中にお兄さんと心中しようとする店長を、以前から好意を持っていたホステスが助けにきてハッピーエンド。
場末のピンサロとか、お兄さんが障害者とか、ヤクザの借金取りとか、概してステロタイプな設定が並ぶ中、民本さんの演じた特殊な人物設定が抜きん出て新鮮なのに、イマイチ活かしきっていないのがとても惜しいと思った。
シナリオセンターで講師をされている吉崎崇二さんの初めての作・演出作ということで、事前にいろいろお話も伺っていました。
何よりオレも遠い昔、自分の作品を初めて人サマからお金を取って見せた時の緊張やドキドキを思い出します。
し〜かし、さすが台本が巧みに出来ていました(上から失礼)そして演出にも役者さんたちにもヤルゾ! という気概が漲っている。旗上げ公演というものから感じるエネルギーは良いですね。
内容は結婚式の控室で、いつまで経っても現れない花嫁を探して、翻弄する新郎と招待客や式場関係者たちがドタバタを繰り広げるうちに、何故花嫁は来ないのか? 新郎も知らなかった花嫁の素性が次々に露わになって、さらに謎は深まり……。
ラストは撒かれていた伏線と謎が見事に回収されて大団円。台本がしっかりしているので、役者さんたちも実にノビノビとエネルギッシュに演じておられました。
かつて「サニーサイドウォーカー」という劇団で数々の名作を繰り出してきた辻野正樹氏が率いるハイブリッド・ジャンバーズ久々の本公演!
と言ってもかつて新宿ゴールデン街劇場で上演された作品の再演です。それも当時は3人だったメンバーのうち2人が今回出演せず! 創立メンバーからはデブキャラの方しか出てないのがちょっと寂しいですね。
作品のクオリティは毎度とても高くて楽しめるのですが。内容に触れると、一時期流行った? ネットを通じて集まった知らぬ者同志が廃屋のアパートで七輪自殺しようとする話。
それぞれに死にたい理由や、生きるとは何か……みたいな命題がもっと押し寄せてくるのかと思いきや、途中から銀行強盗の隠した大金がそのアパートの押入れから発見されて……ここでお話の展開が急にクライムサスペンス的になってくる……のがオレ的にゃちょっと不満だったのだけれど。
大金を見つけたことで借金を苦に死ぬつもりだった男は心変わり。実は死ぬつもりもなくドキュメント手記を書こうと潜り込んでいた記者がいたり……そして結局金を隠していた強盗たちが乱入して壮絶に撃ち合って全員死んでしまう。
元々死のうとしていた人も、死ぬのをやめようと思った人も、仲間を裏切る強盗たちも皆死体の山となり、その中で既に首を括って死んだと思われていた女がひとり息を吹き返す……。このラストには何か言い知れぬカタルシスの様なモノがありました。
前衛劇や世界の古典を毎度見事に再現してくれるサニーサイドシアター。今回の演目は珍しく? 日本の現代劇。
中学時代の同級生で、50代の女性三人の一場芝居。同じ青春を経て、今は人生の概略が見えて来た三者三様の生き様がむき出しにされて行く。その様は時に残酷であり、時に滑稽で、それでも先を見つめて生きて行かなきゃならないという現実には共感を覚えるし、哀切もある。
この劇団には今までつかこうへいや別役実、はてはモリエールみたいな古典演劇の面白さを教えて貰ったのだけれど、こうしたバリバリの日本の現代劇を見るのは新鮮でした。
コレはコレでリアルタイムな臨場感がありますね。と〜っても良かった。またこゆのやって欲しいと思いました。
座付き作家兼女優の井上和子さんとの親交もあって、ず〜っと観ているTRP(トーキョーロックンパラダイス)本作は何年か前に上演した作品の再演です。
オレも初演は観ているハズで、題名と主宰の布施博さんがメインを務める役柄だったことくらいしか覚えていなかったのだけれど、劇が始まって暫くしたらすぐ思い出しました。
でも確かに同じ話なんだけど、布施さんを除く役者さんたちが変わってるのと、お話も少し? 弄ってるのか、初めて観るよな新鮮さがありました。
座付き作家兼女優の井上和子さんも初演と違う役なのだけれど、そ〜れが今回バツグンのキャラでした。外国から出稼ぎに来たホステスという設定(笑)何処の国かはボカシていて(多分フィリピン辺り?)日本に来て右も左も分らない時に布施さん演じる居酒屋の店主に親切にされたことに恩を感じているという役どころ。
そ〜のミンミンの喋る日本語の外国訛りといい、エキセントリックな性格といい、実に楽しいキャラになっていました。願わくばこのミンミンを主人公にして、彼女の勤める外人バー「パンドラ」を舞台にスピンオフ作品が観たいですね♪
世に知られていることは知っていても、実際に上演されているのを見たことがない名作を上演して見せてくれるサニーサイドシアター。
今回は有名な劇場の名前にもなっているかの "モリエール" の作品。1671年のフランスで上演されたってんだから、一体何年前? ざっと約350年前ですか!
きっとその時フランスの人たちが観て楽しんだのであろうテイストを今こうして日本の小さな劇場で同じように味わっていることがとても不思議で、何というか素晴らしい。
それは古い名作の映画を観るのとは全然違う感覚ですね、その場の生きた空気が再現されるというか、コレはここの劇団を見る様になってから発見した感覚です。
内容は貧しく地位も無いけど持ち前のずる賢さで活躍していくダークヒーローの原型の様な主人公スカパンを描くコメディ♪ 毎度変幻自在な女優加藤久美さんが黒塗りにアフロヘアーなスカパンを軽快に演じてみせる楽しい舞台でした。
俳優の水島涼太さんが主宰するアットホームな劇団「未成年」今回は主宰の水島さんが自ら台本を書き、演出も主演もこなすという、いよいよ主宰者が前面に押し出た展開になってきました。
かつての本劇団は毎年公演の度に外部から作家と演出家を募り、それに劇団の意向を絡めた共同作業で舞台を作っていたのがここ2年? の公演は水島さんが作・演出・主演をこなしての演目になったとのこと。
しかして仕上がりはどうだったのかというと、劇団的には丸くまとまった極めて未成年的? なホンワカムード漂う雰囲気になったと思うのだけれど、観客としては良くも悪くも全く破綻のない、毎回の企画性も無くなった分楽しみも減ったというか、以前には少しはあった「新味」がすっかり取り払われてしまった分、不満感はありますね。
なにより内容に不満を感じたのは、題名を「走馬灯」としていながら、主人公がどんな人生を送って来たのかはまったく描かれず! 主軸となる父親との確執も、何があったのか具体的なエピソードは無く、主人公の父親への恨みが実感として伝わってこないので和解することに感動も無い。
水戸黄門や寅さんみたいな安定感を求めて観に来るお客さんが多いのだろうから〜コレはコレで良いのかもしれないけれど、寅さんだって毎回ちゃんと感動してホロリとさせるツボを心得てますからねぇ。
オレみたく「新しいモノが観たい」欲求を持つ観客はお呼びで無いのかもしれません。
かの有名なシドニー・ルメット監督による映画の舞台版! オレコレはてっきり元々舞台作品だったのを映画化したのかと思っていたら、元々はテレビドラマだったのが! 後に映画や舞台になったとのこと、それは驚きでした。
だって全く舞台に適した脚本ですよねぇ、オレもそうだけど本作を理想の戯曲としてお手本にしてる作家は沢山いるんじゃないかな。
んで今回の舞台、原作は題名のごとく12人の陪審員は全員男性なのだけれど(何故なのかな)この劇団では男女混合バージョンということで、再演する度に比率も変わる男女混合で上演される。
なんでもこの企画は本劇団の恒例になっていて、今回で5回目とのこと、言われてみればオレも何度も見ています。
何度見ても飽きないのは、毎回役者が変わることで舞台の表情が大きく変わるからでしょうか、毎回違う味付けになるので飽きないのかもしれません。それでいてラストの着地点はしっかりしているので、どんなに違う色合いに見えても最後にはあ〜やっぱり台本が良く出来ているんだな……と唸ってしまう。
読んで字のごとく「台」がしっかりしていれば、役者がどれだけ個性を発揮しようとも、感情露わに台詞をガナリ立てようとも、絶対にまとまる安定感がある。それが約束された本だからこそ思いっきり演じられるんでしょうね。
今回もそれぞれ個性溢れる役者さんたちが出そろって、全くリミッターを振り切った迫力ある罵り合いを繰り広げてくれました。小屋が小さいだけに汗が飛んできそうな至近距離(笑)でやられるとまさに圧倒されます。
2時間ずっとその部屋の中で展開されるストーリーなので、観客もそこで一緒に参加している様な臨場感がある。それも含めて本作は全く舞台、それも小さな空間で見るにピッタリな演目だと思いましたねぇ。
古典や翻訳劇等、幅広い名作を現代に蘇えらせてくれるサニーサイドシアター。今回の演目は井上ひさしさん作の戯曲作品。
山田洋次監督の同名映画が有名ですが、コレは別物。映画の脚本にも参加していた井上ひさしさんが映画の後に舞台版として全く違うストーリーで戯曲化したとのこと。
画して舞台版は井上節炸裂? の多分に毒を含んだ、言わば映画の裏版的な作品になってます。業欲渦巻くいずれもツワモノ揃いの女優たちによる映画界の内幕が暴き出されて行く展開。
映画とのあまりのテイストの違いに驚かされつつ、コレはコレでまさしく別物として面白かった。一見華やかに見える映画界、でもショウビジネスの裏にはこうしたドロドロした内幕があるというのも事実なのでしょうねぇ。
映画には映画の、舞台には舞台の面白さがあるという、発想点からの違いがこうした内容の違いになっていったのでしょうか。
お馴染みSSTさんの別レーベル「野良猫救済プロジェクト」名義での
オリジナル伝説シリーズの中でもダントツの娯楽作品!
西部開拓時代を背景にかのビリーザ・キッドが牧場主家族と無法者たちとの戦い、
また石油の発見と共に訪れる新しい時代への変遷が哀愁込めて描かれる!
いや〜コレは楽しいですよ。少人数のキャストが変幻自在に多くの登場人物たちを
演じ分け、壮大なドラマを繰り広げるという本劇団の本領発揮!
ほんのちっぽけな劇場に広大な荒野が広がる! 荒くれ者たちが馬で走る! 銃撃戦
を展開する! 宿命の決闘が盛り上がる!
いつもはボケキャラ満載のコンタキンテさんがシリアスに牧場主を演じる様も逆に
見どころ。この人にはまだ限りなく可能性が秘められている感じだ。
初演も含めて今回3回目の観劇でしたけど、やる度に変わる配役によって違った
味わいを堪能出来るのも楽しいですねぇ。
本作はSSTさんの鉄板演目として今後も何年か置きに再演して欲しいものです。
俳優の布施博さんが主宰する劇団トーキョーロックンパラダイスの企画公演。
今回は長年座付き作家兼女優として活躍され、この度布施さんと結婚した井上和子
さんとの二人芝居!
台本はオリジナルではなく、かつて役所広司と大竹しのぶがシアターコクーンで上演
した、かの野沢尚の作品だそうです。
野沢尚さんというと、テレビシナリオのイメージが強いけど、かつてその初演を見た
井上さんは惚れ込んでいて、野沢さんの奥様に直談判して上演許可を貰ったとのこと。
そこまで自分の作品に思い入れして貰えたら、作者としても嬉しいでしょうねぇ。
オレも見ていて舞台ならではの空間の飛躍とか、凝縮された状況設定とか、凄く良く
出来ていて、完成度の高さに驚かされた。
翌日結婚式を控えた主人公の家に、かつて15年間付き合っていた元彼女が、ウエディング
ドレス姿で逃げ込んで来る。
聞けば彼女も結婚式の会場で嫌気が差し、逃げて来たのだという……。
そこから二人の過去が穿り返されて、お互いに知らなかったこと、実はすれ違っていた
運命、いまからでも一緒にならないかという思いが錯綜して……。
そして二人はそれぞれの未来へと思いを馳せる。
切ないですね、ある程度の年齢の方なら誰でも少しは思い当たるであろう後悔、人生の
苦み? 自分が本当に好きだったのは誰だったのか……。
何しろ演じた二人のさすがに息の合った遣り取りがドラマの空気を作り上げていました。
実際の夫婦が二人で演じる切ないラブコメディ……ってことに、観る方も照れちゃうか
な……とも思ったのだけれど、見守る観客席の空気がとても暖かく、ふと演劇を見てる
というより、披露宴に参加してるみたいな、そんな感覚に襲われました。
物語の内容がとてもビターであっただけに、とても余韻の残る芝居になりました。
古典演劇の醍醐味を、現代に蘇えらせてくれる "サニーサイドシアター" 今回の演目は阿部公房作による1967(昭和42年)の「友達」。
1人暮らしの男のアパートへ、ある日突然見知らぬ家族8人(祖母・父母・男子2名・女子3名)がズカズカと上がり込み、主人公の "孤独な暮らし" から救ってあげようと言う。
仰天した主人公は「不法侵入だ」と警察まで呼ぶのだが、訪ねて来た刑事は普通に見える家族たちに「事件性がないので何も出来ません」と引き上げてしまう。
かくして主人公は給料を取り上げられ、婚約者とも別れることになり、家族たちの為に生活を牛耳られてしまう。
家族たちは「主人公を孤独な人生から救う為」と確信しているので全く悪びれる様子もない。
最初のうちは「こんなバカなことが……」ってイライラして笑って観てるんだけど、だんだん「ああ、こういうことって社会の中でもあるよな……」と考えさせられてくる。
例えば本人たちが「素晴らしい」モノだと確信してる新興宗教の勧誘とか、どこかおかしいと思いながらも楽しげにしている社員たちに従うしかない会社の習慣とか、社会に生きていると同じようなストレスを感じることってありますよね。
それに何より「孤独でいることが幸せな訳がない」という決めつけですよねぇ。オレも独り者なので強がる訳じゃないけれど、人生「1人でいた方が楽しい」ってことも絶対ありますからねぇ。
それを勝手に「不幸せ」だと決めつけられ「君の為を思ってのことなんだ」とやり込められてしまうところが怖かったですね。
本人たちは "人助け・善意" と信じて疑わずに行動していても、関わられる側にしてみれば「アリガタ迷惑」だったりすることは多々あるし、世間で生きていると他にも窮屈さや息苦しさを感じることってありますからね。
そして最後までこの奇妙な家族たちに合い入れなかった主人公はどうなったか、なんと彼に思いを寄せていた次女に毒殺されてしまうんですよ! その時毒を飲ませた次女のセリフが凄い「逆らいさえしなければ、私たちなんか、ただの世間にすぎなかったのに……」って、コレにはハッと気付かさせる真理があるような気がして、背筋が寒くなりましたねぇ。
この作品て今から45年も前なんですよ。この頃って全共闘や反体制の主義主張が吹き荒れていた頃で、そうした時代背景もあっての表現だったのでしょうけれど、マンマ現代に通じるモノを感じたのでした。
これまでにジャンヌ・ダルクやビリー・ザ・キッド、はたまた吉田松陰など、歴史上の人
物の生涯を少人数&小劇場の素舞台で見せ切ってしまうSSTの「伝説シリーズ」。
SSTの前身である「夢彦プロジェクト」の時代に初演された数々の作品を再演している中で、今
回の演目はかのナポレオン!
「2時間しか寝なかった」とか「私の辞書に不可能の文字はない」なんて名言くらいしか知らないけ
れど、かのフランスの英雄の幼年期〜繁栄〜没落に至るまでの激動の人生が、素舞台にたった5人の
出演者が毎度お馴染み早変わり&入代わり立代わり複数の登場人物をリレーで演じることで描き切っ
てしまうという! 楽しい作品♪
それこそ小劇場だから出来るワザですよねぇ。っていうか逆に痛快ですよ。新宿の片隅にある、こ
んな小さな劇場の中で歴史ロマンがワーッと広がってくことに醍醐味がある。
今回も変幻自在の加藤久美さんを始め、SSTに初めて参加された? 役者さんたちも皆さんとっ
ても上手く、また演出家自らの選曲によるハイセンスなBGMや照明が相まって、とても楽しめました。
希望としては過去の再演も良いけれど、新しい人物にスポットを当てた新作が見てみたい気もしますね。
劇作家辻野正樹氏が率いるお笑いユニット「ハイブリッド・ジャンバーズ」による楽しい
楽しい4回目の本公演!
オープニングはあるレストランで、一人の女の子と待ち合わせしてる3人男のおバカトークから始まって、
男たちの彼女への心情が吐露されていくうちに、ウェイトレス(ドイツみちこ!)との絡みで調理
師兼店長が行方不明になっていることが分かる。
何やら不穏な空気が漂い始めると、携帯の情報により近所で大量殺人が起きていることが発覚する。
そうこうするうちに待っていた彼女が現れたのはいいが、3人男たちはアッサリ全員フラれてし
まい(笑)突然一人のゾンビが登場して大混乱になる。
そして、命からがら逃げて来た店長が入って来て、すでにその店がゾンビたちに取り囲まれてい
ることが分かるのだ。
思わぬ事態に驚愕する人々だったが、遂にはアメリカの核ミサイルで街ごと破壊される運命にあ
ることが分かる……。
それらの展開が面白おかしく、時には各人が愛する人を思う心にホロリとさせながら展開するのだ。
素舞台にテーブルと椅子だけのセットから始まって、次第にトンデモなスケールになってくの
も楽しいですね。
それでもゾンビ男のメイクだけが本格的で驚かされた(笑)ここはパンフレットにも書いてあっ
た辻野氏のゾンビへの拘りのなせる技なのか。
しかし、本来三人組で始まったハイブリッドのメンバーだった "太っちょ" "痩せっちょ" と
もう一人、どことなくコント赤信号のナベさんに似てた人が辞めてしまったというのは惜しいです
ね。今回その穴を埋めていたメガネのヒョロッとした人もトボけた感じが楽しかったですけど。
それと前回に引き続きゲスト出演したドイツみちこさん! この人は楽しいですねぇ♪ 個人的
な希望としては、この人の個性をもっと活かした作品を観てみたい気がしました。
毎度世界の名作や古典演劇の面白さを再現してくれるサニーサイドシアターさん。今回の演目はなんと井上ひさし作によるミュージカルだって!
都会に暮らすノラ猫たちが伝説の湖に住む巨大な魚を捕まえる為に旅にでる……という物語が、楽しい楽曲に乗せた歌と踊りで紡がれていく。
これまでも翻訳劇から別役実まで何でもこなす実力には驚かされていましたけど、今度は何とミュージカルまでやってしまうとは。
こ〜の楽しい楽曲の数々を歌いこなしてしまう役者さんたちにゃ驚かされましたね。一体どれだけ練習したんだろう……と思えるくらい。
特に毎度その変幻ぶりに驚かされる加藤久美さんの歌唱ぶりにゃ、今後の新しい展開を期待させるものがありました。
こうなると「ウエストサイド」や「コーラスライン」「ラ・マンチャの男」とかも出来ちゃうんじゃん?
ただ内容は本当童話な展開で、そういえばコレは児童劇なんだよな……と気づいて、少々シラケ気味になったのだけれど、井上ひさしさんなのだから、何かあるかな……と思っていたらあのラストですよ!
子供が観たらトラウマになるのではないかな。そんなサプライズもあって、本作の印象は強烈に残りましたね。
つかこうへいから世界の古典まで、演劇にしか出来ない醍醐味を小劇場
で味あわせてくれるSST。
今回の演目は多くの劇作家が理想としているであろう、かの「12人の怒れる男」
の男女混合バージョン!
実はSSTで本作をやるのは3回目で、その都度キャストを変えて、また登場人
物の性別を変えたりして上演している。
コレには発見がありますね。全ての役を毎回違う役者がやることで、前回はそれ
程目立ってなかったキャラクターが俄然目立ってきたり、同じ役でも全く違う印象
になっていたり……。
今回はSSTに所属する加藤久美さん以外の役者さんは、全て一般からの公募で
集まった役者さんだそうで、中にはまだ経験が浅い感じの方もおられ(失礼)たの
ですが、スリリングな展開をここまでのテンションに持ってきたのは、さすが演出
の力量だと思います。
そりゃ役者が変わっても毎回沸き返る様な面白さを感じるのは台本の素晴らしさ
にもよるのでしょうけどね。
本作は12人の陪審員の中で最初の多数決で11人が「有罪」と判断したところを只
一人「無罪」を主張する陪審員8号と、彼に最後まで対立し続けて、最後には自分
の息子との確執を露呈してしまう3号との対立が強調されていくのだけれど、今回
唯一SSTの所属で看板女優の加藤久美さんが演じた4号は、事件を感情的には観
ずに客観的な理論思考に徹している人物で、コレが久美さんが演じることでキョー
レツなオーラを発し、3号と8号の対立軸の中心に位置することで、レフェリー的
な存在になり、両者の対立と推理の展開に新たな面白さを醸し出していました。
今回は初めての方も多かったとあって、オレの見た初日はかなり皆さん力が入り
すぎてた感があったけど、台本のセリフのベクトルが明快なので、良い意味でボル
テージが上がっていたと思います。きっと回を重ねるごとに力が抜けて良くなって
くんじゃないかな……。
いや〜面白いですよ! 今回3号を演じた女優さん。過去3回の公演の中で一番
怖い3号でしたよ(勿論褒め言葉です)。
新宿で日曜日までやってますので、小劇場の醍醐味を堪能したい方、世界的古典
の何たるかを認識したい方、お勧め出来ますよ〜詳細は以下です。
http://www8.ocn.ne.jp/~sunnyway/
毎回アットホームな雰囲気の中、ベテランと若手の絶妙? なコラボ
で楽しい演劇を見せてくれる劇団未成年の第6回公演!
いつもは3話構成のオムニバスで、同じセットを使いながらもそれぞれ独立し
たストーリーで、中心となる俳優の水島涼太さんはいつもトリを飾る第三話にだ
け登場していたのだけれど、今回は3つの話が同じ設定で繋がったひとつの物語
として展開し、水島さんは主役として全編に登場する。
オレは前からそうすればいいのに〜と思ってたことがやっと実現した感じですね。
物語は、大手スーパーの台頭で落ち目になった商店街を盛り返そうと、1等世界
一周旅行の福引セールを企画するのだが、この商店街にそんな予算はない。
なので1等が絶対に当たらない様に福引きに仕掛けをしていたのだが、作業の手違
いから1等の当選者が2人も出てしまい……というドタバタが展開していく……。
水島さんの持ち味を活かした楽しい展開なのだけれど、イマイチ物足りないなぁ
と感じてしまったのは、やっぱドラマの気薄さですかね。
何かひとつでも感情にガツンとくる様な展開と見せ場があればまたずい分違うと
思うんですけどねぇ。次回に期待ですね。
変幻自在に実に様々なタイプの違う演劇を、それぞれの趣向の面白さを発揮
して見せてくれるサニーサイドシアター!
今回の演目は、人から人へ受け継がれた大きなストーブを巡る物語!
かの「フランダースの犬」のネロから始まって作曲家のワーグナーからヒットラー、
そして最後にはアンネフランクまでが登場して、それぞれが時間と空間を超えて同じ
ストーブの脇で過ごした時のドラマが展開するという趣向だ。
こ〜れはまるで映画的です。普通に考えたら舞台上で時代も空間も違う設定に飛ぶ
には、暗転してセットの転換が必要なところを、逆手に取って表現するとは、アイデア
ですねぇ。
楽しかったのだけれど、ちょっと惜しむらくはストーブを巡る様々なドラマの背景か
ら、全体のテーマが浮かび上がってくる様な感慨がなかったことですかね。
今回の演目はカトリーヌ・ドヌーブ主演で映画化もされたフランスの有名
戯曲! 銀座の大劇場でも大地真央や加賀まりこ出演で上演されるらしい。
そんなスケールの大きな戯曲を、新宿二丁目の片隅で再現してしまおうという試みは、
痛快で楽しいですねぇ♪
SSTプロデュースはこれまでにも「カッコーの巣の上で」や「12人の怒れる男」
等、海外の有名戯曲のボルテージを再現して見せてくれました。今回も期待大だった
のですが。
う〜ん。コレは家族という群像劇な仕立てもあるけれど、謎解きやテーマはともかく、
見せ場となる激しいドラマがある訳でもなく、小劇場でやるにはちょっと大味に過ぎた
かなぁ(って変な言い回しだけど)。
見てる間の展開は楽しいのだけれど、やはりコレは巨大な舞台で、絢爛たるセットを
組み、名の知れた女優さんたちがやるという趣向が合っているのかもしれませんね。
お馴染み布施博さん率いる劇団の第26弾! は座付き作家の井上和子さんご
自身がなんと「ネタ切れ」だそうで(笑)初めての? 他所の原作を借りた脚色台本
でした。
それを聞いて正直ちょっと観る意欲を削がれていたのだけれど、開けてみれば原作
アリとは言えかなり脚色して TOKYO ROCK 色に塗り替えられていたとのことで、結構
楽しく見ることが出来ました。
し〜かしやっぱしいつもとタッチが違ってて、マシンガントークなやり取りや、全
員を巻き込んでの大喧嘩等、毎度のお約束が無いのはちょっと寂しかったかな……。
とは言え長年やっている劇団だし、変化があるのも当然な訳で、今回の芝居は観客の
評判も良かったとのこと。何か新しい方向性を見出したということなのかな。
しかし井上和子作品のファンとしては、まだまだ新作を観たい気もするのですけれ
ど。
お馴染みサニーサイドシアターの別役実シリーズ! 今回は定番中の定
番「受付」と珍怪作「いかけしごむ」の二本立てだ!
正直なところ「受付」の方は他劇団の公演でも何度も観ており、それ程鮮度も感
じなかったのだけれど、怪作「いかけしごむ」はめっぽう面白かった(笑)。
毎度不条理な別役ワールドなのだけれど、相手の置かれている状況を勝手に想像
して押し付けようとする女と、生のイカを大量に買って消しゴムを作るのだという
男とのキテレツなやり取りが不条理でありながらどこか活き活きとした人間らしさ
を感じさせる。
そして何といっても看板女優加藤久美さんのキャラクターが鮮烈でした(笑)。
大きなサングラスにケバメイク、緑のコートのポケットからやおらマイクを取り
出し! 昭和歌謡を熱唱する! こ〜れは強烈でした。
コレはどうやら別役さんの原作には無い造形で、これまでに久美さんの創造して
来た同じく別役シリーズの「魔女」に継ぐ新キャラとしてまたの登場を切望します
ねぇ。
少なくともあと2〜3曲は歌って欲しかったな。
オリジナル歴史ドラマから別役実〜つかこうへい〜岸田國士まで何でもござれのSSTさん。
今回のお題は待ってましたの海外古典劇「十二人の怒れる男」男女混合バージョン!
いや〜面白いですねぇ。別キャストだった前回公演も観ているんですけれど、今回主要
キャストが女性に代わっていたり、それに準じて台本に手が加えられてたりと、新鮮さがありました。
けれど、さすが古典中の古典というか、2時間近く暗転無しで全く飽きさせないのは凄いですねぇ。
今回キャストが代わるということで、個人的に危惧してたのは、前回勝又保幸さんが演じた主役とも
言える陪審員3号を、誰が演じるか、ということだったのだけれど。
蓋開けてみたらあーた。犯人の少年に自分の息子を重ねてしまい、許せない父親の設定を母親に
変えて、看板女優の加藤久美さんが演ってるんだもの!
お〜その手があったか、とビックリしてしまった。
そしてもうひとつのポイントである、冒頭12人中ただ一人有罪判決に異議を唱える陪審員8号も、女性
という設定に変えられて、男対男だった構図を女対女に変えて見せるという趣向が、とても新鮮でした。
同じ台本がキャストの性別を変えるだけでこれだけ印象の違ったモノになるのか、という発見もありまし
たねぇ。
そういえば昔本作を全員女性でやったのを見たことがあるんですけれど、アレは怖かったですねぇ(笑)。
個人的には次回、陪審員3号と8号を男対女、というのも観てみたい気がしました。
今回加藤久美さん以外11人のキャストはみなさんSSTは初参加ということでしたけど、いやいや
皆さん前回に負けず劣らず素晴らしかったですよ。
それぞれの感情があるべき方向に爆発されていて、観ていて実に気持ちいい。演出にブレが無いという
こともあるのだろうけれど、こうゆうの観てると終始ニコニコしちゃうんですよねぇ。
観てる時オレの顔を傍から見たらさぞ変でしょうけど。美味しい物食べてると顔が綻ぶのと同じです。
それと今回改めて思ったのは、本作はやっぱりアメリカの物なんだなぁということ。
陪審員制度そのものがアメリカ的だし、陪審員たちが言い争う背景には移民国家としての、貧富の
差や人種差別がある。
その上で皆がアメリカ人であることの誇りを取り戻して行く……という展開がサブテーマになってる
んですよ。
こりゃアメリカの人が見たら、そりゃそ〜と〜感動するんだろうなぁ、と思いました。
日本にも裁判員制度って出来ましたけど、日本は日本でもう一度こうした「民族の誇り?」みたいの
をくすぐられる感動編を作って欲しいものですねぇ。
昔三谷さんの「十二人の優しい日本人」とかありましたけど、どうにも「他人のフンドシ」感が否め
ませんでしたからねぇ。
この公演は今月11日までやってます。平日はまだチケットあるみたいですので〜古典の醍醐味を味わ
いたいという方、コレはお勧めできますよ〜。
あと次回10月のやはり翻訳劇「カッコーの巣の上を」も前回公演観てますけど、こ〜れもホント〜
に素晴らしかったですから〜大期待ですねぇ。
今ではなかなか上演されない前衛劇から洋邦問わず古典劇まで「きっとあくあらんや」
なまでのクオリティで再現して見せてくれるSSTプロデュース。
今回のお題は「岸田國士」そう、かの若手劇作家の登竜門とされ現在に至るも続いている「岸
田國士戯曲賞」のあの岸田國士ですよ。
オレも賞のことは知ってても、どんな作品書いてた人なのか〜とか全く知りませんでしたから
ねぇ(不勉強失礼)今回初めて見ることが出来ました。
雰囲気は小津安二郎の映画の様で、昔懐かしい縁側に蚊取り線香があって風鈴がチーン……みたい
な静けさの中で、兄弟や夫婦の退屈な日常があったり、些細な諍いがあったり、嫁に行った妹が早く
も翌日別れたいと帰って来たり……。
懐かしい日本の原風景の様なドラマが静かに展開して行く。
しかしコレ、ああ懐かしい昭和の風景やな……と思っていたら、後で調べたら実は昭和を通り越
して大正時代のお話でした。
言われてみれば昭和でもあまり聞いたことのない「いらっしったら」とか「言ってらっしったわ」
等の大正的? な言い回しをしていました。
役者というのは気持ちを表現するばかりでなく、こうしたその時代特有の言い回しや普段使わない
方言とかも自然に聞こえるように発音出来なくてはいけませんからね。
そういう意味でも想像力を必要とするなぁと思いました。
小さな舞台空間の中にポッとそこだけ大正時代が照らされている様で、静かだけれどとても心地
よくて新鮮な舞台でした。
ショートショートの怪談話が半朗読形式で綴られて行く……って趣向なのだけれど、
蓋を開けてみれば全てオリジナル作品であるハズが、6月に阿佐ヶ谷プロットで上演
された同じくオムニバス半朗読劇「レイン」と被ってるネタがチラホラ……。
聞けば作家さんが間に合わず! 止む無く構成・演出の宮元多門さんが急ごしらえで
話を揃えたので、そういう結果になったのだとか。
ん〜でも相変わらず雰囲気とか楽しいので特に文句も浮かばなかったのですが。
予定していた作家さんが書いたのは、中盤一番長い尺で出演者も多かった「山荘」のエピ
ソードのみ。
観光バスが故障して乗客たちが無人の山荘に非難するのだけれど、その山荘は過去
に大量惨殺事件があった現場であった。
そこでいろいろ恐怖体験とか仲間割れとかスッタモンダするのだけれど、その人々は結局
その事件で惨殺された人々の幽霊だったという落ち。
そりゃ「シックスセンス」に始まったアリガチな話と言えばそうだけど、結構面白かった
ですよ。
密室&群像劇で、サスペンスもあって、小劇場な楽しみがありました。中でも犯人を演じた
長縄龍郎さんという役者が素晴らしかった。
いや〜この人が見れただけで大分成立してましたねぇ。何というのか、発声が良いのと、動き
に切れがありますねぇ。
顔つきから雰囲気がティム・ロスだな〜と感じたのだけれど、こういう役者さんがメインにいて
くれると演出家としてもかなーり心強いのではないか、と思いましたねぇ。
小劇場界では有名? な照明屋さん、宮元多聞さん率いるCUPプロデュースに
よる朗読劇公演。
一編5分〜10分くらい? のショートショートが時に着席した姿勢で本を読み上げ、時に
被り物や動きを伴う寸劇調になったりで、種類豊富な世界が矢継ぎ早に展開して行く。
プロデュース公演なので毎回違う顔ぶれの役者さんたちが揃うんですけど、多聞さんの広い
交友関係と人柄を反映してか、実に多くの若手〜ベテラン? まで(女子多し)の役者
さんたちが集まって、実にホンワカとした楽しいムードを作り上げています。
しかし今回驚いたのは、劇中使用している本はどこか既製のエッセイ等から集めているの
かと思いきや〜実は多聞さん本人が全部お書きになっているとのこと!
これにはちょっと驚きましたねぇ。照明屋さんからプロデュースを始めたと思ったら、こん
な文才まであっただなんて、こうなると今後の展開もまた楽しみになって来ました。
特に中盤一本だけ、越して来た部屋に幽霊が出るというホラーなエピソードがあって、さすが
照明屋さん、暗転の中に微かな明かりで人の姿を薄っすら浮かび上がらせる演出が効
果満点でしたねぇ。
今回のお題は別役実モノの女二人芝居「トイレはこちら」と「寝られます 魔女もの
がたり その2」の二本立て公演。
正直オレあんまし別役の不条理劇というのは好きではないんです。通常喋る会話のスピード
を意識してなのか、ペラペラ喋る膨大なセリフが半分くらいは堂々巡りの様で、しかも内容が
抽象的(想像的?)でとりとめもない。
だけれど今回のこの二作品は面白かったですね。一本目「トイレはこちら」は公園で首吊り
自殺しようとしていた女の側にあったベンチに、見知らぬ女が来て座り、ここで通りがかりの
人にトイレの場所を教えてお金を貰い、それを商売にすると言う。
こ〜の女が本当に自殺するのか! 人にトイレの場所を教えてお金を貰おうという女は狂って
いるのか! お互いに対する関心が会話の洪水になって、堂々巡りを繰り返して行く……。
他の別役作品の様に会話の内容がそれ程抽象的ではなく、シチュエーションもハッキリしている
ので見易かったです。
それに女優さん二人とも芝居が上手かったので楽しく観れました。
そして二本目「寝られます 魔女ものがたり その2」はお馴染み看板女優の加藤久美さん
扮する(近頃は定番になってきた?)魔女シリーズの一編。
こちらもいつもは不条理魔女が織り成す捉えどころのないお話なのだけれど、本作は実にドラ
マチックで人物の図式も分かりやすく、今までに観た魔女シリーズの中でダントツに良いと思い
ました。
殺される運命とも知らずに魔女の家に宿を求めて来た元過激派の女の、その町に関わる過去の
因縁や、その町における魔女の役割、時に脈絡もなく相手を翻弄する突出した魔女のキャラクター
等、いつもの「よくわからない」もどかしさもなく、これ程情感が盛り上がった回はなかったん
じゃないかな。
こちらも役者さんが上手く、特に "魔女" に関しては名人の域に達した感のある加藤久美さん
はキャラ立ち過ぎですね(笑)。
こうなるとこの魔女で短編でなく一本長いのを観てみたい気がします。オリジナルでも作って
欲しいですねぇ。著作権とかで出来ないかな。
毎度アットホームな雰囲気に包まれた、お馴染み布施博さん率いる TOKYO ROCK'N
PARADAISEの第25回公演!
今回は座付き作家である井上和子さん数年振りの新作! ということで期待が高まります。
舞台はパソコン教室。ハローワークでビラを貰ったオジサンたちが再就職する為にパソコ
ンを習いに来ており、女子の先生たちはパソコンを教えるだけでなく、就職の斡旋や面接の
練習までも面倒看ているという設定。
そこを訪れた、過去にプロ野球選手だったり、経営の傾いた酒屋から転職しようと思って
いたりと、様々な事情を持ったオジサンたちと先生たちの間で物語が展開して行く……。
毎度設定された舞台で登場人物たちが楽しい日常を繰り返し、やがて問題が起きて喧嘩に
なって……というセオリーが定着しつつあり、半ば安心して観ていられます。
今回は人物の中で本来一番疎んじられるべきヤクザの男が真っ当なことを語り、物語を締
めるという役回りでした。
このヤクザのキャラクターは登場から徐々に〜奥さんが入院しているという素性〜奥さん
とテレビ電話をしたくてパソコン教室へ来たという動機〜生徒たちの求職先を巡っての醜い
争い〜ブチ切れて諌める〜仲間たちが変わるがわる奥さんとテレビ電話で自己紹介する……
という流れに様々なアイデアが詰まっていてみせました。今だから出来る、iPhone って
言うんでしょうか、オレはそゆのに疎くって反省しなきゃなんですけど、小道具としてこの
使い方は実に峻烈でした。きっとこれから皆やり始めるんでしょうね。
今回も楽しくてホロリとさせるいつものテイスト炸裂なお芝居だったのですが、聞けばも
う一人出演するハズだった役者さんがゲネの時点で失踪してしまったんだとか(驚)芝居っ
てそゆのたまにありますが、そうと言われなければ分からないくらいの仕上がりになってた
のは流石だなぁと思いました。
それとコレもパターン化しつつある? 物語上ヒールの役回りのキャラのうっちゃり! が
今回もありました。ちょっとその点だけは、苦言というのではないけれど、演じる役者さん
としても、反面部分だけを見せて終わるというのはどうなんでしょう……。
でも今回は反面教師的な役割で、根本のテーマに関わる程の役でも無かったので、それも
いいかなとは思うんですけどね。かつてフランク・キャプラ「素晴らしき哉人生」で登場人
物殆どが善人の中で、お金くすねた金貸しのオジサンみたいなもんですかね(例えが歴史的
に古すぎましたが)。
それと終盤の、就職の面接権を巡る争いがちょっと唐突な感があるので〜それとなく前振
りがあった方が良かったかな……とは思いました。
ここのお芝居は常にアマチュア的なスタンスで、小劇場という空間を大事にしていらっし
ゃるところにとても好感を持っています。これからも是非このコンセプトのまま続けて行っ
て頂きたいなぁと思っています。
元は数々の賞を受賞した舞台劇で、メリル・ストリープ主演で映画化もされた翻訳作品!
これまでのSSTさんの翻訳物公演 「12人の怒れる男」 や 「カッコーの巣の上で」 はどれも原作な
り映画を知っていたのだけれど、今回は始めて知らずに観賞しました。
物語はカトリック系の神学校で、ある牧師が黒人の男子生徒に性的虐待を行ったのか……という疑問
で最後まで引っ張って行く。
疑惑を徹底的に追求する女校長。事件に巻き込まれ翻弄されるシスター。虐待された? 生徒の母親の
抱えている生活状況。そして疑惑の的である牧師……。
それぞれの信条や主張などが浮き彫りになり、互いに戦い合って行く展開は実に面白かった!
神学校の牧師が生徒に性的虐待を行ってたという事件は実際にあって、こんなもんじゃない何十人と
いう犠牲者がいて、しかもその牧師は未だに何ら罰を受けることもなく、牧師業を続けているというド
キュメンタリーを観たことがあります。なのでリアルに物語に入って行けました。
看板女優加藤久美さんの演じる冷徹な女校長はかつて「カッコーの巣の上で」の鬼の様なラチェッド
婦長を彷彿とさせますけど、冷徹に徹していたラチェッドに比べ、本作の校長は自分の信念から微塵
も逸れずに行動しようとする中に、微笑を誘発する人間味をチラリと垣間見せたりする。
そんなサジ加減が小気味よく、人物造型に深みを出していました。
作品としての仕上がりの良し悪しは全て登場人物それぞれを演じる役者の技量に掛かっている。これ
ぞ舞台の醍醐味と言えるでしょう。
役者4人&簡素なセットだけで、一流の舞台を再現して見せるというロマンがありますね。
本当楽しい時間を過ごさせて頂きました。
今度メリル・ストリープ版も是非観てみたいと思います。
もう20年も前のオレの初めての作演出作品で、他の団体で上演されたこともなく、どうしても
懐かしくなってコッソリ行って来ました(笑)。
行ったら普通に高校があって(当たり前だけど)校庭にも校舎にも誰もいない……ウロウロしてて警備
員に逮捕されたらどうしよう……と思っていたら、通りかかった演劇部のOGだという人に案内
して貰って会場へ。
エレベーターを上がると結構お客さんも来ていて、受付で名前を書くということも無かったので、見つか
ることなく入ることが出来た。
高校生の演劇部の公演なので、観客は皆さん出演者たちの御父兄さんばかり。でもちょうどオレと同じ
世代だったり(苦笑)なので上手く紛れた。
それにまぁ、オイラも台本の親と言えば親なので、子供が心配で見に来ました〜と言ってもいいですぁね。
途中「あ〜ここは間が持たないかな」とか「ああ、ここは高校生には露骨な表現なのでこういうふうに
変えたのか」とか親なりにいろいろ気を揉んで観ていました。
皆さん「ほくそ笑む」って知ってます? 自分で実感として「ああ、自分は今ほくそ笑んでるなぁ」って
思ったことあります? オレはあります(笑)。
概して既成の台本を上演している劇団さんって、作者に観に来られるとやりにくいと思うんですよね、
なので都内の公演でもよっぽど「是非来て下さい」ってのでなければ遠慮したり、又はコッソリ行って
コッソリ帰って来たりしています。
誰もオレの顔は分からないと思うのでまずバレないし、呼ばれもしないのにノコノコ観に行って
「オレが作者です」なんて名乗る程恥ずかしいこともないので〜コソコソ帰ってくる訳ですよ。
いや〜しかしこの作品。オレが上演した時にはまだ生まれていなかった子たちが長いセリフを覚えて
一生懸命やってくれている姿を観ると、何だか感激です。
主人公とヒロインが最後に踊るシーンでは、ちゃんと台本に指定した通り「ニーノ・ロータのゴッ
ドファーザーワルツ」を探して来て、オレがやった時よりもずっと凝った振り付けで踊っていました。
どうやら女子の方が多いからなのか、男の役を女子が男装して演じてる人もいて、今時の高校生って誰
が男の子ちゃんやら誰が女の子ちゃんやら容姿もそうだけど、パンフレットの名前を見ても判然としない
ので、どっちだか分からない子が沢山いました。
でも終わってから、探偵を演じた部長さん? 以外はキャスト全員女子だったことが分かったのでした。
席の端っこに座って一人充分にほくそ笑んで、とっても良い気分で帰って来ました。
小石川高校・中等教育学校演劇部の皆さん。本当にありがとうございました。
4〜5人の少人数キャストでコロンブスやビリー・ザ・キッド等、歴史上の人物の大河ドラ
マを描ききってしまうという、その趣向が素晴らしい劇団。
本作はそれを更に、看板女優の加藤久美さんによる一人芝居にまで昇華して描く、ジャンヌ・ダルク
の物語!
いや〜分かりやすいですよ。概して歴史上の人物の半生を描くというタイプの作品は、あまりに史実
に忠実足ろうとするばかり、結果的にまとまりがなく人物像も実感としてつかみ辛いモノになりがちだと
思います。
例えばアメリカ開拓時代のヒーロー、ワイアット・アープを史実に忠実に描いた映画、その名も「ワ
イアット・アープ」の何と詰まらなかったことか!
実在の人物とはいえ事実に忠実に描いたのでは、そもそも現実の人間というものがつかみどころの
ない、性質もハッキリしない生き物である以上、作品としてもあやふやでハッキリしないモノになら
ざるを得ませんやね。
なので見た後で本当の人間の姿を見たという感慨を抱かせるには、作者なりのフィクションとして説
得力のある解釈でバーンと描かなければ、観客を満足させることは出来ない。
本作のジャンヌ・ダルクの場合、若干16歳だった少女が如何様にして大勢の軍勢を率いる
大将となってフランスの危機を救ったのか? という疑問に対して、神の啓示を受けたという言い伝え
を生身のジャンヌが遭遇する体験として再現する。
なので非情に分かりやすく、ジャンヌの実在に迫ることが出来ました。
この団体はあまり知られていないかもだけれど、小劇場の醍醐味というものを実に堪能させてくれ
る希少な団体だと思っています。
旗揚げ公演からずっと見ている(一度台本も書かせて貰った)お付き合いの長い劇団未
成年さんの第5回公演。
これまでは素人に毛の生えたくらいの作家さんたち(オイラもその一人)を集めて三話構成のオ
ムニバス作品を上演して来た今回のテーマは「自殺」まぁたずい分重いテーマを選んだものだなあ
と思ったのだけれど。
今回はテレビのシナリオ等を書いているプロのライターさんが三つの話を単独で書いているので、
いつも垣間見える素人臭さが感じられないところは良かった。
第一話は生命保険に契約してから2年経つと自殺でも保険が降りるという法律を利用して、モテ
ナイ男が2年間美人と付き合って貰う代わりに自殺して保険金をギャラとして支払う。というシス
テムに乗った男の物語。
幸せとは何か、愛情とは何か……みたいなテーマが語られるのだけれど、話の内容が異常過ぎて
今ひとつ親身に迫ってこなかった。お話の展開は面白かったのだけれど。
第二話はインターネットで知り合った自殺志望者同志が集まって練炭自殺を図るという。小劇場
では結構やり尽くされたシチュエーションではあるけれど、お話の構成もしっかりしていて面白か
った。
一時期大病されて役者生命も危ぶまれていた谷村好一さんが元気な姿を見せてくれました。
そ〜れと今回役者陣の中で特筆すべきは民本しょうこさんでしょう!
最初は誰だか分からなかった(笑)あれ〜今回は未成年もずい分演技派の女優を仕込んできたも
んだな、ちょっと裕木奈江(「光の雨」で演じた永田洋子は凄かった)を思わせると思っていたら
……なんとカーテンコールで民本さんと分かり仰天してしまった。
この人はずっと線の細いアイドル的なスタンスでやっているのだと思ってたのに。今回は演技者
として突出した表現を見せてくれました。アイドルが一足飛びにアーティストになった感じだ。
第三話は死にたいと思った若者が助けを求めて掛けてくる電話に応対する仕事をしてるお父さん
が心臓病で入院し、自分も死の危機に瀕しながらも携帯電話で助けを求めてくる若者たちを助けて
いるという物語。
何故彼はそうまでして若者の自殺を思い止まらせることに奔走しているのかというと、実は自分
が疎遠にしていたばかりに長男を死なせてしまった過去があり、その懺悔の念が彼をそこまで駆り
立てているのだった。
水島さんはあまりオレがオレが……というオレ様タイプではないので、いつもちょっと脇に逸れ
てる印象があったのだけれど、本作は水島さんがセンターにドーンと座り、それを中心に物語が進
行して行くという構成だ。
未成年は水島さんを座長とする劇団なのだから、本来いつもこうしたスタンスであるべきじゃな
いかと思っていた。
人物設定も展開も水島さんの持ち味にピッタリな役どころなのだけれど、惜しむらくは結末。病
院から疾走したお父さんが息子の後を追って死んでしまったのか、それとも夢の中で長男と再会し
たことで救いを見出したのか……の決着が分からないまま、息子と釣りをしている幸せそうな回想
シーンで終わってしまう。
コレは観客に考えさせる余韻を残したというよりは、尻切れトンボな感じが勿体無い気がした。
意図的にそうしたというよりは、ラストで解決すべき軋轢や葛藤が前半で描かれていなかった為
に、結末の付けようも無かったという感じだ。
主役としての水島さんは立っていたけれど物語的に疑問を残す幕切れというのは、この劇団この
観客の空気からするとそぐわない気がした。
いつもは三人のライターが三者三様の物語を描くバラエティー感があったのを、今回一人のライ
ターが三本とも書いてしまうというのはどんなものかと思ったけれど、それぞれ違ったテイストの
展開になっていて飽きずに観ることが出来ました。
そして毎度思うここの役者陣は場馴れしたベテランたちと初々しい新人たちとのコントラスト(
今回特に激しかった)が何ともアットホームな雰囲気を醸し出していて、今回はそれに突出した演
技派女優さん? も加わって一層充実した舞台になったと思います。
ここは水島さんからして映像畑の俳優だし、その延長舞台という感はあるのだけれど、今後の要
望としては、やっぱし折角のライブですから、パンフレットにも何方か書いていらしたけど、やっ
ぱし「劇」の語源が「激」というだけに、生身の感情が激しくぶつかり合う、舞台のあるべき醍醐
味を味わえる作品が見てみたいと思いますね。
主宰の坂田俊二さんは先日逝去されたつかこうへいの舞台を観て演劇を始め、ずっと
憧れの存在だったそうです。
本作はそんな思いを乗せつつも坂田さんと主演女優の加藤久美さんとの実生活? の歴史を絡
めて描く、虚実入り混じる演出家と女優の愛憎遍歴!
冒頭から大音量のBGMと瞬時に変る照明に乗ってギリギリ聞き取れるまで極めた超早口で捲
くし立てるセリフの洪水が押し寄せる。そうそう、このエネルギー! この熱さは正につか演劇
だ!
物語はある中学校の演劇部の顧問を務める演出家と女子生徒との禁断の愛から始まっ
て、後に大女優となった彼女といまだ細々と小演劇を続けている演出家の現在の姿が交互に描
かれて行く。
今回も加藤久美さんは幼い中学生の甘ったれた口調だったかと思うと、一転して苦さを秘めた
大人の女に瞬時に変ったり、相変わらず変幻自在の芝居の切れは凄いです。
そして物語は、愛し合っていた二人が何故反目する様になったのか、二人のすれ違いの原因は
何処にあったのか、が次第に浮かび上がってくるのだけれど、その原因の本当のところは誤解だ
ったのか、真実だったのか、本当のところは最後まで明確にはされず! でもそこが凄くリアル
で大人テイストでした。
いや〜観る前はもっとつか演劇への思い入れを前面に出した作品なのかと思いきや、本作はそれ
を抜きにしても充分に堪能出来る男女の物語でした。ある男女の半生を追体験した様な感じだ。
それと個性的な脇の女優さん二人とパントマイムのじぇーむす今川さん。それにこの団体の前
身である夢彦プロジェクト時代によく出演されていたギャグ担当の中村進さんが、今回昔と変ら
ぬインパクトを見せてくれて楽しかった。
演劇は生ものなので、つかさんがいなくなってしまうともう本当のつか演劇は見られなくなって
しまったけれど、SSTさんはオレの知る限り「もっとも本場に近いテイスト」を見せてくれる
劇団だと思っています。
希望としては「決定版! 熱海殺人事件」をもう一度観たいですねぇ。あの最強メンバーはそう
そう集まれないのかな。
ご存知、俳優の布施博さんの主催するトーキョーロックンパラダイスの第24回公演!
ここは縁あって旗揚げ公演から見させて貰ってるんですけど、近頃はますます台本も演出も際
立って洗練されて来た感があります。
本作は過去に一度上演された作品の再演で、オレ初演時にも観てるんですが、その時の印象はそ
れ程強く残っていなかったのだけれど、今回出演キャストも少なくなって、実にメリハリが効いて
ドラマの盛り上がりも良く、決着もスッキリとしてとても良い印象でした。
物語は銭湯を経営していた長男が事故死してしまった家族の、火葬場での騒動なんだけど、物語
のバックで長男の霊魂が「ゴースト」よろしく自分の嫁さんを始めとする家族を見守っているとい
う構成。。
終盤銭湯はもう経営不振なので取り壊して土地を売ってしまおうという出戻りの長女と家族が大喧嘩
になり、布施さん演ずる父親が激高して宥め、長男の夢を汲んで銭湯を存続させることで決着する。
「火葬場で長男が燃えるのを待っている」というシチュエーションでこの劇団得意のマシンガント
ークが炸裂し、ひたすら悲しいはずの局面に何度も笑いを入れるという構成は凄いドラマツルギー
を醸し出していました。
再演ということもあってか? そう言っちゃ失礼だけれど、テイストが実に若々しいというか、
メルヘンなタッチもあって、座付き作家の井上和子さんらしい暖かみのある余韻を残す舞台でした。
こぉ〜れは楽しい楽しいコントユニット三人組「ハイブリッドジャンバーズ」の昨年に続く
三話構成のオムニバスコント第二段!
今回は全く勢いがあって駆け抜けましたねぇ。いわば「レイダース」に続く「インディジョーンズ」
的なジェットコースター感とでもいおうか(例えが古いか…)。
第一話アパートに住みついた自縛霊〜第二話注文に応じて幽霊騒ぎを起こす事務所〜第三話コンビニ強
盗〜の各お話が微妙にリンクしながら巻き起こす騒動はかなり楽しい。
とにかく三話三様に台本がよく構成されているのでコントの完成度も高かったですね。さすが近松賞の最
終選考まで残った作演出の辻野氏の面目約如といったところか。
し〜かしこのデブチン(凄い!)ガリガリ(コレも凄い!)リーダー? のよくぞ揃ったというこの三人
のコントラストに加えて、今回特筆すべきはゲストのドイツみちこさんでしょう。
全くこ〜の人おっかしいったらありゃしない(笑笑)この中性的で得体の知れない少し久本正美入った
キテレツさはどうですか!
この動き! この佇まいは尋常じゃない! 誰にも真似できないし、台本にも書けません。
こういう人が一人いると放っといてもどんどん暴走してくれるので演出してても楽しいでしょうねぇ。
ピンで活躍してるお笑い芸人だそうですけど、希望としては今後もずっとジャンバーズとコラボして欲
しいですね。
先日故人となってしまったつかこうへいさん初期の戯曲作品。
今回の公演は「つかこうへいfestival」と銘打ち、他団体による「熱海殺人事件」の2バージョン
と本作の三作品を連続上演するという試み。
SSTプロデュースの主催である坂田俊一さんは「蒲田行進曲」が芝居の原点であったそうで、
闘病生活に入ったつかさんを励ましたいという思いからこの企画を発案したのだとか。
そ〜れが先日の急報で本当驚きましたよねぇ。
それで本公演も期せずして「追悼公演」になってしまい、終演後にかつて「蒲田行進曲」初演
時にカーテンコールで流れていたアリスの「冬の稲妻」を観客も一緒に合唱するという切ない幕
切れになりました。
しかして本作の内容はというと、オレも不勉強でこの戯曲のことは全く知らなかったんですけど。
題名からも察するとおり、かの不条理劇の古典ともいわれる「ゴドーを待ちながら」の内容を
パロディ化して徹底的に茶化した様な感じ。それがつかタッチのしゃべくりまくりで怒涛の様に
展開されていく。
特に加藤久美さんが講談口調で延々と捲くし立てる件は圧巻でした。
ただやっぱしオリジナル「ゴドーを待ちながら」を良く知っていないといまひとつ面白さが
伝わらなかったのではないかな……という感じはしましたね。
これまでにも太宰治など、日本の文学者の作品を「モノドラマ」という独特の方法で
舞台に再現して来た劇団キンダースペース。
コレは言わば「半朗読劇」と言うか、基本的には朗読なのだけれど、一人の役者が椅子に座
って読み上げるというのではなく、読み手は本を持たずに複数登場し、場面に応じてセットも
再現される。
役者たちはそれぞれに割り振られた役柄を時には演じ、また時にはそのまま小説の地の文章
を読み上げるという形で進行していく。
役者が登場人物を演じる部分と、文章を朗読する部分の垣根を曖昧にすることで、演出家が
抽出した物語のテイストを浮かび上がらせて行くという趣向。
コレはなかなか楽しいですよ。セット・音響・照明を駆使して演劇世界を描くことに熟達し
た演出家、原田氏の作り出す空間は実に心地良く、味わい深いです。
今回取り上げたのは芥川龍之介の短編「魔術」「龍」「白」の三本。どれも幻想があり、葛
藤があり、また教訓もあって、子供の頃に童話絵本をワクワクしながら読んだ時の様な、おと
ぎ話の楽しさがありました。
まぁ基本的にはやっぱし原作の持つ精神世界の魅力なのだけれど、それを演劇と言う違う形
で見事に昇華させている舞台を観る楽しさがありました。
かの清水邦夫さんの戯曲。古典ですね。
実は本作十数年前に他の劇団がやったのを見たことがあるのですが、その時は何が言いたい
のかやりたいのかサッパリ分からず! 延々と会話する二人の女が幽霊だったことさえ理解出
来なかった覚えがあります。
今回は毎度演劇という物の原風景というか、まるで当時の現場にいる様な臨場感で古典を再
現してくれる坂田俊二さん演出による舞台ということで期待大でした。
今回の舞台を観て思ったのは、本作は何より本編中常にそこに「いる」女優二人の幽霊のあ
り方がポイントだということでした。
一見普通に会話して普通の人間なんだけど、ここでの「幽霊として」の見せ方は、常にその
「場所」にいて同じ動作を延々と繰り返している……というある種の「幽霊のあり方」だけ。
題名通り「楽屋」にいる女優の幽霊たちは常にそこに座って鏡を見ては延々と化粧を繰り返
している。でもこの上演時間1時間半近くずっと「延々と化粧している」というのは簡単そう
でなかなか難しいですよ。
だって化粧なんてそんな何十分もやってる訳じゃないし、ずっと同じ動作ばかりを繰り返し
ている訳にもいかないでしょう。
本作では自分の顔に大きく髭や眉毛を描いては消したり、また違う様に描いてみたりと様々
な工夫を凝らし、「延々と繰り返している」という描写を自然に? 表現していました。
きっと演じる女優さんたちもかなり苦心なさったのではないかな。役者にとって「ただそこ
にいてくれ」っていわれるくらい困ったことはないですからね。
そして後半登場する、二人の幽霊たちと同じように、女優の夢に憑り付かれて身を滅ぼした
女が「新入り」として楽屋の幽霊に加わって行く件にはやっと「ああ、楽屋ってこういう話だ
ったのか」と理解が出来ました。
そしてラストの劇中劇「三人姉妹」を演じる三人の幽霊女優の語る「生きて行こう」と言う
「劇中世界」と、彼女たちはもうこの世にいない幽霊であるという「現実」とのコントラスト
が切なく浮かび上がって、見事に戯曲の持つテイストが具現されているのだろうと思いました。
まぁ幽霊という設定とかは今となってはそれ程に新鮮味は感じないけれど、やはり古典らし
く力強い芯の通った味わいを堪能することが出来た舞台でした。
以前「サニーサイドウォーカー」という劇団で数々の名作を残した作・演出家の
辻野正樹氏が3人の若手? お笑い芸人と組んだユニット「ハイブリッド・ジャンバーズ」
による二回目の舞台公演。
前回の公演は三話構成のオムニバスによるコント的なコンセプトだったのに対し、今回
は過去にかの「近松賞」の最終候補にまで残ったと言う堂々たる戯曲作品だ。
サニーサイドウォーカーの時はメンバーが皆さん演劇畑出身で、完成された舞台と言う
趣きだったのに対して、ジャンバーズはお笑いテイストなので、今回どうかなと思っていた
のだけれど、こ〜のデブ(失礼)ガリ・そしてコント赤信号のナベさんモドキのお三方それ
ぞれがしっかりと役柄を作り込んで演じていて、良いアンサンブルになっていました。
あと客演の女優さんたち三人もそれぞれ演技上手かったですね。
笑ってるうちにふとドキリとさせられたり、しんみりさせたりと言う演劇テイストを醸し出す
ことに成功していました。
少人数の一場芝居と言うのはオイラも芝居の理想系だと思っているし、とても良かった
と思います。
サニーサイドの時と違ってセットも組まず素舞台で、それでいて時間経過が現実とシン
クロしている一場モノと言うのは、役者に高度な技量を求められると思うのだけれど、全
編展開のボルテージを途切れさせることなく見せましたねぇ。
いや〜コレなかなか良いですよ。来週の月曜日までやってますので、面白いお芝居が
観たいという方、お勧め出来ます。
ジャンヌ・ダルクやコロンブス等、壮大な歴史ドラマを4〜5人の役者が多数
の役柄を演じ分けることで一気に描いてしまうSSTプロデュース。
今回の作品は昭和を舞台に地方出身の女性演歌歌手の過酷な人生と悲恋を
綴る一大昭和ロマン!
歴史上の人物や事件を題材にすることが多いSSTさんですが、
本作は坂田さんによる全くのオリジナル作品なのでしょうか。
加藤久美さん演じる主人公は一度はヒット曲を出したものの、その後新曲に恵まれ
ず地方を巡業する演歌歌手で、彼女は勝又保幸さん演じる売れない童話作家と同棲
している。
そんなある時、故郷の青森から彼女の弟が東京に「キリンを見たい」と言って上京し
て来る。
故郷に母親をひとり残して勝手に上京して来た弟を詰る彼女だったが、ひょんなことから
売れない童話作家の彼氏がテレビ向けに企画したヒーロー物「キリンのきんちゃん」の
主人公に抜擢され、人気者になる。
巨額の金が儲かるテレビ番組のシナリオに夢中になって行く彼は、童話作家として
持っていた純粋な気持ちを失って行き、それと共に彼女の心も離れてしまう。
彼女は長年連れ添った彼と別離を決意し、一人母親の待つ青森へ帰り、好きで
もない相手とお見合い結婚してしまう。
弟はテレビ出演を辞め、本来持っていた夢を実現させて飼育員として動物園へ就職
する……。
懐かしさ溢れるストーリー展開ですねぇ。昭和の頃こういうのよくありましたよねぇ。今
回は思いがけず昭和への郷愁を誘うドラマが観られて楽しかった。
途中加藤久美さんがマイクを手に唄うシーンが2回あるんですけど、コレがなかなか良
いんですよ。
曲調もそうだけど衣装といい、素振りといい、昭和な雰囲気に溢れていて、希望として
はもう2〜3曲聴きたかったですね(笑)。
いつもコンビの童話作家役の勝又保幸さんとの息も合っていて、ラストは二人の切なさ
が良く表現されていました。
弟役の本来パントマイムをしてらっしゃるジェームス今井さんも、故郷から出て来たボクトツな
感じがよく出ていて良かったと思います。
俳優の水島涼太さんを中心に若い役者たちがわき合い合いとやっている劇
団未成年の第4回公演!。
これまでに「霊安室」「避難所」「アパート」とお題を決めて、それに絡む三つのお話を
オムニバス形式で上演して来た当劇団の今回のお題は「WONTED(指名手配)」。
回を重ねて行くうちに若手の役者が育って来ていて、演出や芝居に関しては良い感じ
になって来ていると思うのだけれど、問題なのは台本ですね……。
実はオレ去年の作品「アパート」で台本を一本担当させて頂いたんです。だから言う訳
ではないんだけど(ホント)今回は金を払って純粋に観客として観たけれど、三作品のど
れを比べても去年の方が遥かに良く出来ていた。
第一話は結婚相談所に空き巣に入った男女二人組が「明日までに花嫁を見つけてく
れ」と訪ねて来た男に咄嗟に社員の振りをして翻弄される。
そのうちに本物の所長と社員が来てしまい、三者三つ巴のドタバタが繰り広げられる
というスラップスティックコメディ。
次から次へと話が転がってどうなることやら〜と言う展開の楽しさはあるのだけれど、
観客の心情的な基準となるべき主人公がいないので、ただ右往左往する人々を観てる
だけで気持ちに感じるところが無い。
この話で主人公を設定するとすれば急遽花嫁を探して欲しいと訪ねて来た彼でしょう。
冒頭で何故彼が明日までに花嫁が欲しいのかを語らせ、その為に泥棒と所長たちが
翻弄される〜事態が変転して彼の気持ちに変化が起き〜彼の目的に決着が着く。セオ
リーとしてはそんなところでしょうか。
同じ演出家だった去年の第一話は、愛人の存在を妻に隠さなければならないと言う主
人公の事情がハッキリしていたので、その為の侘しい奮闘がどんどん収集のつかない
事態に陥って行く様を楽しく観ることが出来た。
第二話は選挙事務所を舞台に亡き父親の後を継いで立候補した男と母親の物語。
ある日大金の入った差出人不明の封筒が届くのだが、それは男のフィアンセの父親か
らの献金ではないかと言う話になる。だが父親と絶縁している彼女は近所の老人ホーム
から行方不明になっている父のことを許そうとしない。
最初は選挙候補者の話だと思ってたのが何の前振りもなくフィアンセと父親の話になり、
しかもなぜ彼女が父親と疎遠になっているのかの事情は一切語られない!
後で聞いたら一応演出=役者の間ではそれ等の事情設定が出来ていたらしいけど、
観客を全く蚊帳の外に置いたままではあまりに不誠実ではないかな。
そもそも彼女が父親と疎遠になっていることさえ事前に振られていないので、途中から
いきなり「お父さんを許してあげなよ」みたいなことが始まっても観客は唖然とするばかり
だ。
問題が語られないので解決も分からない。なのでドラマの転機となるべき彼女が父を許
すに至る心情の変化も皆目分からない。
コレは途中から観て途中でやめてしまった様な印象でした。観客は全く共感のしようが
ない。
このお話は去年の第三話と同じで要は「父帰る」なのだけれど、去年のは父と娘たちが
仲違いしている原因がちゃんと語られていたし、それに対する答えも用意されていて、問
題と解決がハッキリ決着していました。
三話目はとある不動産屋が舞台で、昔そこに建っていたアパートで愛する彼の帰りを待
っていたと言う女が訪ねて来るのだけれど、彼女は様子がおかしく、果たして人間なのか
幽霊なのか分からない。
そこへ彼女が待っていた小説家の彼が来るのだけれど、果たして彼もまた幽霊なのか
もしれない。
コレは一応彼を待っていた女が主人公なお話なのだけど、途中水島さんが毎度達者な
アドリブをかまし、常連ゲストの谷村好一さんとの楽しい遣り取りが雰囲気を独占し、主人
公も本筋の物語も霞んでしまった感じでした。
今回の三作品はどれも主人公がキチンと立っていないのと、起承転結がハッキリしな
いのでドラマの転換点も終わりもスッキリしておらず、どれも中途半端な印象でした。
当人たちはそれ程感じていないのかもしれないけれど、一番報われないのは役者たち
ですよ。もしかしたらとんでもなく良い芝居をしているかもしれないのに、表すべき気持ち
が伝わる様に本が出来ていないので、全てが空振りになってしまう。
台本は台と言うごとく、土台がしっかりしていなければどんなに良い華も咲かせることは
出来ない。って黒澤明の受け売りですけれど、本当そうですよねぇ。
ここは研修生たちの発表の場というスタンスでやっているので、毎回オムニバス三話の
各エピソードを担当する作家さんも新人の方を起用して、作家さんにも「発表の場」を与え
ているということですけれど、そのスタンスでやっていたのではこれ以上のクオリティは望
めないのではないかな。
折角若手の役者さんたちも演出陣も充実して来ていて、毎年観に来てくれる固定客も付
いて来ていると言うことだからーその辺り少し再考してみてはどうでしょう?。
ジャンヌ・ダルクやコロンブス等、壮大な歴史ドラマを4〜5人の役者が多数
の役柄を演じ分けることで一気に描いてしまうSSTプロデュース。今回のお題はフラン
スの文豪アレクサンドル・デュマ編!
でも今回はSSTの看板女優加藤久美さん始めての一人芝居ということで、今までと
は違った趣向で書き下ろしの新作なのかと思いきや、解説を読むと今回が初演ではな
く、初演時には二人芝居だったのを再演時に三人芝居にし、更に今回一人芝居に絞っ
た作品であるとのこと。
一人芝居と聞いた時は今までと違ったアプローチを期待してたのだけれど、始まって
みるとこれまでと同じ様なタッチで、少数の役者が入り乱れての表現だったのを一人に
絞っただけなのか……とあまり新味を感じなかった。
でも展開が進むに連れて一人に絞ったことで物語が凝縮された感じになってきて、ド
ラマのクライマックスにはとても感情が盛り上がり、素晴らしい仕上がりになっていまし
た。
またエピソードの節目に様々にコスチュームを変えて登場するダンサーの踊りが物語
に流麗なテンポを作っていました。
フランスのシャンソン? などダンスやBGMの楽曲がどれも良かったですねぇ、これ
は毎回思うのだけれど、劇中使用した楽曲のリストをパンフに載せて欲しいですね。そ
れかタランティーノのサントラみたくCDにして欲しい。
SSTさんは前の吉田松陰や日本にアイスクリームを伝承した町田房蔵など、不勉強
なオレには歴史の勉強にもなってありがたいです(笑)。
今回の演目になっているフランスの作家アレクサンドル・デュマも、父の方のデュマが
書いた 「三銃士」 などの映画は知ってても、その生涯や作品を生み出した経緯等は全
知識がありませんでしたから、痛烈な悲恋や父との葛藤等、ドラマチックな展開に引き
込まれました。
何しろ主人公のデュマと高級娼婦のマリーや下宿のおばさん等、全てを歯切れ良く演
じ分けた加藤久美さんの演技が素晴らしかったです。
よくもあれだけ感情を湧き起こしておきながら次の瞬間には朗読パートに移ったり出
来るものだと驚いてしまいます。お父さん役の時はちょっと意地悪キャラで可笑しかった
り。
お芝居というものは、かつて時間も場所も遥か彼方にいた人間たちが織り成した人間
模様を、小さな空間の中に魔法の様に蘇らせてしまうという醍醐味を再認識した舞台で
した。
以前に別役実不条理劇連続上演シリーズのひとつであった演目「小さな家
と五人の紳士」のキャストを全員女性に変えたバージョン。
いや〜今回は観てて思いがけず何度も大笑いしてしまった。男バージョンの時は
こんなに声上げてまで笑わなかったと思うんだけど、どうしてなんだろう……と考えてし
まった。
単に男たちより女たちの方が面白いのか? と思ったのだけれど、どうも思うに男たち
バージョンの方は五人の男全員がお揃いのタキシード姿だったので、普段の生活の中で
起こる不条理……というよりは、何も無いところにタキシードを着た五人の男がいるという、
そもそもの世界観からして不条理なので、不条理の中の不条理……ってことでそれ程
笑いに繋がらなかったのかなぁと。
対して今回の女たちはそれぞれに生活感のある普通の私服姿だったので、どこにでも
いる普通のおばちゃんやお姉ちゃんたちが可笑しなことになっている……というギャップ
が笑いに繋がったのかなぁと、勝手に分析してみたりしたんですけどね。
それと役者さんたちも、五人の女を演じた女優さんたちそれぞれのキャラクターが際立
っていて、コントラストが鮮やかでした。
後半唐突に登場する加藤久美さん演じる "ドキュンな坊や" もより鮮烈でした。息子
? に縛られたお父さん役の内海誠さんも、何だか他の人じゃ考えられないくらいハマ
ッてました(笑)。
いや〜今回の舞台はいつもの別役モノから感じる不条理感よりも笑いが先に立った印象
で、まさかこんなに新鮮な感じを受けるとは思いませんでした。
小劇場界では有名な舞台照明家・宮本多聞(池田圭子)さんプロデュース
による集団朗読劇。
集まった役者さんたちそれぞれの実体験に元づく 「 Gift (贈り物) 」 にまつわるお
話を時には朗読で、時には寸劇仕立てにして羅列して行くという試み。
何十というエピソードを次々とリレー式に演じて行くので聞いてる方も退屈しないし、
多くの出演者たちそれぞれに見せ場も出来て上手い企画だなぁと思いました。
それと池田さんの持ち色であるお笑い系の楽しい雑談コーナーもあって、間を繋い
で行く構成は楽しい。
特に今回 "アーバンフォレスト" から助っ人出演しているそのべ博之さんが出て来
て喋ると、それまでの乱雑なエピソードの羅列も強引にまとまってしまうという。極め
て場慣れしている彼の役割は大きかったですねぇ。
宮本多聞のプロデュース公演にはいつも愉快な役者さんたちが集まって、ほのぼの
とした楽しい雰囲気に包まれています。
今後もまたこの乗りで楽しい企画公演を期待しております。
昔のブッダ(お釈迦様)の挿話を再構成したインドのサティシュ・クマールとい
う人の原作を、脚本家の梶本恵美さんが企画・脚色した朗読劇でした。
作者は9.11テロをきっかけにこの原作を書いたということですが、そこには「報復の
連鎖」を断ち切れずに平和を実現出来ない人間への警告と訴えが切実に語られていま
す。
そうですよねぇ、この劇の様に人が憎しみや復讐心を捨てることが出来たならどんな
にか素晴らしいだろうという感動はあるのだけれど、同時に「人間には無理なことなの
かもしれない」というやるせなさも感じてしまった。
もしも現実に自分の家族が殺されたりしたら、殺した相手を許すことなんて出来るだ
ろうか? その意味でも人間は試されてると思うのだけれど、そうした抜き差しなら無い
状況を突き付けられたらどうなるだろう……と考えさせられてしまった。
ただ原作は新しい小説だし、題名に「テロリスト」とあるので、てっきり現代のテロリス
トが出て来てブッダと絡む物語かと思ってたので、古代のお話だけだったのは期待した
のと違っていた。
実は昔オレの家にお釈迦様の伝説・逸話の子供向けの絵本が沢山あって読んでい
たので、今回のお話にはさほどの新鮮味は感じられませんでした。どちらかというと懐
かしさを覚えてしまった。
今回やっぱし一番はブッダ役の秋吉久美子さんでしたね! 昔「さらば愛しき大地」
とか観て強烈なインパクトを受けていましたから〜目の前に登場した時にはドキドキし
てしまった(笑)。
し〜かし女優さんというのは幾つになっても(失礼)綺麗ですよねぇ。今回のキャステ
ィングは企画・脚本の梶本さんから依頼したということですが、久美子さんの元祖? ア
ンニュイな魅力がブッダの神秘性とリンクして神々しいばかりでした。
このキャスティングは全く素晴らしいと思いましたね。秋吉さんのブッダ無くしては本
作の成功は無かったのではないかな。
「ウィンズ・オブ・ゴッド」のヒット以来、時々見かける小劇場の「特攻隊物」。
TVドラマとかでもそうだけど、近頃の特攻隊物って、た〜だひたすらに「可愛そう」「死に
たくない」「戦争はいけない」だけな内容で、到底当時の当事者たちが言いそうにない観念
的な台詞が多くって辟易していました。
本作の場合も冒頭いきなり特攻隊の皆さんが立ちんぼで一人ずつ「おかあさ〜ん」と叫ぶ
ので、ああ、またかよ……と思った。
でも本作の本筋は特攻隊として出撃したのに途中で敵の攻撃に遭っ
たり飛行機が故障したりして止む無く海に不時着してしまった「帰還特攻隊員」たちの
葛藤が描かれていくので、その辺からは少し、ほほう〜と思ったのだけれど……。
帰還特攻隊員の中で当然問題となるのは「何故戻って来たか」と言う理由で、中
には臆病風に吹かれて死に切れず、わざと
不時着して戻って来てしまった者もいる訳で、本当に無念の帰還をしてしまい、屈辱に耐えて
いる者からすれば、死に切れずに戻って来た者が発覚すれば、それこそ激しい憎悪の対象に
なる。
物語の主眼がこの「無念の帰還をしてしまった者 VS 死に切れずに戻って来た者」の軋
轢になるのかと期待したのだけれど、悔しがる帰還特攻隊員たちをやたらと苛める
上官の描写だけが続く。
この悪教官のモデルは倉澤少佐という実在の人物らしいけど、そりゃ隊員たちから見りゃ
鬼の様な人だったのかもしれないけれど、こんなに極端にいつも怒っているだけじゃ人間的
なリアリティがない。
そりゃやってたことは間違ってたかもしれないけれど、この人もこの人なりにある種の使命感
を持ってやってたんじゃないかな。
特攻隊員たちの苦悩は、一概に誰のせい、というのではなく、戦争と言う社会状況に追い詰め
られた結果であると思うのだけれど、ここで展開するのは鬼の様な上官に「お前等は恥さらし
だ!」と苛められる描写ばかりで「この教官が諸悪の根源」みたくなって
しまい、問題の本質から離れてしまってる気がした。
終盤へ来てようやく主人公の幼馴染みがその「臆病風に吹かれた者」であったことが発覚する。
それまでお互いの再会を喜び合っていた二人が、ここで激烈な葛藤を展開するのかと思いきや、
幼い頃の思い出を語ることで主人公はアッサリ許してしまい、その時語られる
幼い頃に遊んだ「木の上から見る風景」と「下から見上げる風景」という概念に気付くことで主人
公は死に急いでいた自分の気持ちを転化させる。
この物語の要となる「木」の概念が主人公の気持ちの転機となるモチーフとしては弱過ぎる
と思った。
そりゃ実際に戦争に行った訳でもないので偉そうなことは言えませんけれど、きっと当時鬼畜
米英を心から憎み、命を賭けて故郷を守らなければならないと思っていた状況からすると、とても
ゆるくて呑気に過ぎる気がしてしまった。
幼馴染みと言えども、いや幼馴染みだからこそ、あの状況になったらこんな物ではない激烈な葛
藤があるのではないかと思いました。それこそリンチじゃないけど半殺しくらいの目に遭わせて、
和解があるとしてもそれからじゃないのかな。
激しいドラマが立ち上がるかと思ったところで呆気なくスルーしてしまった感じでした。
いろいろ文句ばっかし書いてしまったけど、役者のみなさん方言やきっと言い難いであろう
当時の言い回しとか、凄く稽古されたんだろうなぁという気概が感じられて、決して悪い印象
は受けませんでした。
前回の太宰治に続く、「半分朗読/半分芝居」形式で描く文学者シリーズ。今回の
お題は芥川龍之介編。
前回の芝居でこの上演形式の面白さが分かっていたので興味を持って行きました。芥川と
言えばお馴染み「羅生門」と「藪の中」がやっぱしメインで描かれる。
どうしてもクロサワ「羅生門」がチラついてしまうのだけれど、それにしては狭い空間に半ば
抽象的に作られたセットの雰囲気といい、完璧とは言えないまでも衣装や小道具とかも中々
上手く物語り世界を表現していて見応えがありました。
そんなにお金も掛かっていないだろうに、あの小説世界をここまで再現出来てしまうなんて、
凄いなぁと思いましたよ。
前回の太宰と芥川とでは文学性が違いますよね。太宰が人間の内に潜む業と言う物
に深く耽溺して行くのに対し、芥川の方は割りと人間を俯瞰に眺めた寓話的な作風なので、
場面を再現するにも大掛かりな仕掛けが必要な作品が多い。
特に今回、湖から竜が昇るのを見ようと集まって来た人々の話等はあの空間の芝居だけで
見せるのは厳しかった感はありました。
小劇場の空間で表現するのには太宰の世界の方が適しているのかな、なんて感想も持ち
ましたけど。それでもとっても面白かったですけどね。
希望としては印象に残っている「河童」をやって欲しかったかな。でもあ〜の不気味感はき
っと登場する河童の造型(メイキャップ?)によるところで多分に左右されるかもしれないから
〜ちょっと難しいかなぁ。
あと、今後の文豪シリーズとしては是非谷崎潤一郎をやってみて欲しいですね、短編はあん
まし無いけど出来れば「卍」とか「鍵」とかエロ系で(笑)。
俳優の布施博さんが主催する東京ロックンパラダイスの、なんと23回目の公
演!
オレ縁あって吉祥寺の旗揚げ公演から結構みさせて貰ってるんだけど、座付き作家の
井上和子さんと布施さんを中心とする劇団の皆さんがチームワークで作り上げているで
あろう舞台は、近頃は熟成されて来た感がありますねぇ。
今回は町でリサイクルショップを経営するお店が舞台。そこで皆に尊敬されていた
社長の後を継いだ二代目が、リサイクルでは時代に生き残っていけないからと、お店を
やめて有益な廃材業に転業しようと言い始める。
コレに先代の社長のポリシーだった「物を大事にする」や「地域の人々に感謝される」を
守って来た社員たちが猛反発する。
そこへ昔近所に住んでいて沖縄へお嫁に行っていた女の子が「おばあちゃんのミシン
を直して欲しい」と言って上京し、物語が展開して行きます。
まぁオーソドックスと言えばそうなのだけれど、逆にこうした "ドラマがきちんとドラマに
なっている" 舞台と言うのはそうお目に掛かれなくなっている様にも思います。
古い物でも当人にとっては思い出のあるラジカセやミシン等、小道具がしっかり小道具
としての役割を発揮しているし、登場人物たちもそれぞれのキャラクターとしての自己主
張がしっかり物語に絡んで来る(特に年齢不詳の女子高生が素晴らしかった)。
ただちょっと、あのオカマキャラの人は……オカマである必然性がそれ程あったのかなぁと
思ったけど、面白かったから良いですかね(笑)。
物語も対立の構図も単純ではあるのだけれど、ヘタに理屈を捏ねるよりも分かりやすい方が
良いですよねぇ、こうしたお膳立てが揃って来て遂にドラマが炸裂すると観ている方も感情を
触発されます。コレは気持ち良いですよ。
ただちょっと、オレ的には思ったんだけど、前回の作品でもそうだったのだけれど、物語の
展開からして当然そうなるだろう〜と思うラストの決着を描かないんですよね。
今回の作品だと一人業務を変更すると言って息巻いていた若社長が従業員皆から社長の
志が如何に素晴らしかったのかを知らされて、改心して行くのだろうことは予想が付くのだけ
れど、舞台はそこまでを描かずに、若社長は憮然と黙っているまま幕を閉じる。
まぁ余韻を残す……ってことも分かるんですけどね、やっぱし「起・承・転・結」ですから。結を
しっかり締めくくってくれた方がスッキリして帰れるかなぁと、ちょっと思ったんですけどねぇ。まぁ
コレは好みの問題でもあるのかな。
かつてサニーサイドウォーカーと言う劇団で作・演出を手掛けていた辻野正樹氏が、
若手の男三人と結成した新ユニット "ハイブリッド・ジャンバーズ" の旗揚げ公演。
サニーサイドの頃はしっかりとセットを組んで本格的な演劇と言う感じでしたが、こちらは素
舞台と状況設定だけで、あとは芝居だけで見せると言う、多分にコントテイストになりました。
内容はそれぞれ違ったシチュエーションの三つの話がオムニバス形式で演じられると言う
物で、第一話は 「アパートの隣の部屋に監禁されている少女を救って彼氏になろうと奮闘す
る男の話」 第二話は 「2000年問題を本気にしてシェルターの中で10年も暮らしていた二人の
男」 第三話は 「治験のアルバイトに来ているダメな男たちの珍騒動」 と言うお話で、どれも一
幕モノのお芝居になりそうな面白い状況設定ばかり。
その状況の中でおバカな三人組がテンヤワンヤの騒動を起こすと言う、ドリフ大爆笑みた
いな楽しさがありました。
し〜かしこ〜の三人組(笑)良くぞ揃えた(笑)と思われる見事なデブ(失礼)とヤセと得体
の知れないリーダー? それぞれの個性が研ぎ澄まされてくれば、こりゃそーとー面白いこ
とになって行くのではないかな。
古くはシティボーイズかコント赤信号、最近だとエンタメに出てる東京03と言ったところで
しょうか、三人の個性と言うことでは負けていないと思います。
このユニットは芝居の他にも自主映画を作ったりライブに参加したりと活動の幅を広げて
行くようなので、今後の活躍を期待したいと思います。
江戸川乱歩原作の中篇 「断崖」 と筒井康隆の短編 「情報」 の二本立て公
演。
オレこの乱歩作品は知らなかったんですけど 「断崖」 と聞いて思い出すのはやっぱし
ヒッチコックの傑作ですよね。内容も財産目当てで結婚した夫が妻を殺そうとしていると
言う、同じ様な内容ですし。
んで気になって調べてみたんですけど、ヒッチコックの映画が1941年で、乱歩の原作
の初出は報知新聞で1950年。
ヒッチコックの方が先なんです。さらにこの映画の原作者を調べるとアンソニー・バー
クレイ (別名フランシス・アイルズ)と言う英国人で、原作は 「レディに捧げる殺人物語」 と
言う題名で1932年に出版されている。
さらに1951年に江戸川乱歩が選定した 「探偵小説リスト」 の中にアンソニー・バーク
レイ の作品も挙げられているんですよ。
コレはもう間違い無いですよねぇ、って言うか題名にヒッチコックの映画と同じ
「断崖」 と付けていることからして本人もある意味 「翻案」 であることを表明していたの
ではないかな。
だ〜けどコレ観てその戯曲としての完成度の高さには驚きました。聞けば原作は殆ど台
詞だけで構成されており、それをほぼそのままの形で忠実に舞台化したのだとか。
一方ではどうも乱歩作品としては展開があまりに理路整然としているし、いつもの
怪奇趣味が無いところに物足りなさも感じていたんですけれど。
まるで昔から上演されている二人芝居のスタンダードかと思うくらい完成された戯曲で
したね。何より驚いたのは、こんな完成された二人芝居を今までに誰も上演したことが無か
ったと言うこと。凄いところに目を付けたなぁとは思いましたねぇ。企画としてはアリです
よ(実は1994年にTBSでオムニバス形式の一遍としてドラマ化されていたらしい)。
面白かったですよ。ただ惜しいのは1972年の「探偵スルース」もそうだけど
後発? のこの手の二人芝居を観てるのでそれ程斬新だと言う印象を受けなかったこ
と。と言うよりまるでスタンダードな古典を観てる感じでした。
コレをきっかけに著名な役者さんとかが上演する様になるかもしれませんね。って言う
かふと思ったんだけど、著作権はどうなってるんだろう?
もう一本の短編「情報」は筒井康隆節炸裂なユーモア溢れる二人芝居で、実に楽しい
二本立てでした。
今までに他劇団で観たことのある清水邦夫作品は「楽屋」と「幻に心も
そぞろ狂おしのわれら将門」と「タンゴ・冬の終わりに」くらいなんだけど、「幻
に心も……」は小規模の劇場で無名の俳優さんたちがやったのが素晴らしくって、
それをスケールアップして大劇場で有名俳優さんが主役を演じたのを観たら
コレがまるで気の抜けた様なスカスカな印象になっていた。
また「タンゴ・冬の終わりに」はヒロインを常盤貴子さんが演じていたのだけれ
ど、普段テレビや映画を観ていて決して下手な女優だなんて思ったことなかった
のに、どうも舞台の空気に乗り切れていないと言うか、一見普通にこなしている
のだけれど、他の役者たちと噛み合っていない印象を受けた。
それで今回なんですけど……。思うに清水作品って、演じる役者さんを選ぶの
かなぁと。つかこうへい作品や別役実の不条理劇等は演じることによって戯曲の
役が役者に近づいて行く様なところがあると思うんだけど、清水作品て
戯曲の醸し出すテイストが演じる役者を超えて観客に解ってしまうので、戯曲と
観客とを仲介する役者に違和感があるとどうも受け付けなくなってしまうのでは
ないか……と思った。
物語は一人の記憶喪失になった男と、20年前に彼を奪い合った女二人の
物語なんだけど、この男は既に記憶喪失になっているので、二人の女が何故そ
こまでこの男に惚れ込んでしまったのか、と言うことは情報としては語られず、女
二人の芝居から感じ取って行くしかない。
女のうち一人はずっと男に寄り添って来た。だがもう一人は20年前に一度身を引く
フリをして? 長期計画で男が自分に戻って来るのを待っていたと嘯く……。
芝居は主にこの女二人の掛け合い〜喧嘩〜友情〜が堂々巡りの様に展開して
行くのだけれど、特にこの「一度身を引いたフリ?」をして20年間一人でいた心情
と言うのは複雑で切ないモノがあると思うのだけれど、そこまで掘り下げて表現出
来ていたかと言うと、コレはそ〜と〜難しかったのかもしれませんね。
コレはもう理屈とか努力とか言う問題でなく、黙っていても「先に雰囲気有りき」な
女優さんでないと役に説得力が出ないのかもしれませんねぇ。
この作品はオレが5〜6年前に書いて上演しようとしていたのが上演に至らず、
公募(確か近松賞)に出品しても落選して、鳴かず飛ばずで行き場が無くなって、アマチュ
ア向けの台本サイトに掲載していたところを、こちらの劇団の方が見つけて演目に取り上
げてくれたのでした。
それぞれの役の役者さんたちが皆さん「よくぞこの人を」と思わせる程ピッタリな配役で、
一見完璧な様に見えるけど、ここまで見事にハッキリクッキリ登場人物たちのキャラクター
を際立たせるにゃかなりなディスカッションなり苦労もあったのではないかな (しかも台詞を
一字一句台本と違えず! 役者のうち二人は高校生だった!) 各人物の思惑やキャラク
ターの輪郭がクッキリしたことで、人物たちの遣り取りが実にスリリングになって火花が散る
様でした。
他劇団でやる時は役者によって「この台詞は言い難い」とか「こうした方が良い」と言う理
由で語尾くらいは変えることが普通なのに、ホントにほぼ一字一句ですよ! 役者さんによ
ってはきっと言いづらい言い回しもあったであろうに、それでも演技に不自然なところが無い
んですから。きっと苦労なさったのではないかな。
作家の書いた台本を一字一句違えずに上演すると言うのは、それこそ山田太一や倉本
聰大先生でも無い限り他の劇団ではあまり考えられないことです。作者としてこんなに嬉し
いことはありません。「現場で余りにも変えられてしまうので頭に来るからオンエアーは絶
対見ない」何て仰るシナリオライターもいるくらいですから。
観ていて「オレの台本にこんなに熱意を持ってやってくれたのか」と感激しました。自分で
上演が叶わなかった物を完成してくれて、しかもほぼオレのイメージしていた通りの出来栄
えですよ、いやむしろオレがやるよりも良かったのかもしれない。とまで思ってしまった。
人物が登場する度に照明を加えたり音楽を流したりする演出は、オレなら絶対にしないん
だけど、コレを観ているとコレが正解だった様な気さえして来る。
嬉しかったですよ。「よくぞここまでやってくれた!」と言うところですかね。劇団員の皆さん
にはただもう感謝感謝です。コレを書き上げた頃は1時間半くらいの上演時
間だと思ってたのに、終わってみると正味2時間。一場モノで2時間を飽きさせずに見せる
って、プロだって難しいでしょう。
ああ〜オレは「芝居とは一概に上手い下手と言うことだけではない」と言うこのクオリティ
ーを是非もっと沢山の人たちにも観て頂きたい。この劇団で東京公演が実現すればどんな
に素敵だろうと思います。それこそ紀伊国屋やトップスに乗せても全く遜色の無い出来栄え
なんですよ。
ただど〜しても、オレは作者なのでね……どんなにオレが良いと言っても半分くらいっき
ゃ信憑性が無いだろうと思うと歯がゆいですねぇ。いや〜ホントに素晴らしかったんですよ。
ご存知浅田次郎原作で西田敏行さん主演で映画にもなった小説の舞台化。
コレはオレ映画観てなくて、原作も途中まで読んだ時点で舞台を観ることになりました。
しかしこの長い原作をよく2時間の舞台にまとめたものですねぇ。変幻自在に時間と空間を
飛び越える小説と言う物は映像化するのさえ困難なのに、それを更に場面転換や時間経過
の表現が困難な舞台に置き換えると言うのは、かなり大変な作業だったのではないかな。原
作を読み終わって尚更そのことに感心させられました。
原作に登場する人物やエピソードの全てを網羅するのは無理なのは勿論のこと、展開す
るエピソードの順序を違えたり、複数の場面や人物をひとつの場所にまとめて一気に展開さ
せたりと、実に上手く凝縮されていました。コレは言うのは簡単ですけれど、実際にやるとした
ら、そ〜と〜な労力を必要とされますよ。
原作小説は400時詰め原稿用紙で言うと700枚以上の分量でしょう。それが2時間の舞台
の台本と言うとせいぜい120枚ですよ。
それに原作は後に舞台化するなんてことは考えないで書かれてる訳ですから。内容的に
時間も空間も変幻自在に展開している訳で、それを舞台で表現するとなると、どうしても少な
からずの場面転換が必要になる。そこは照明やキャストの踊りで繋いだりと、なかなか上手
にやっていたと思います。
けどただでさえ暗転の嫌いなオレとしては、どうしても落ち着きの無さも感じてしまいました
けど。
また原作と比較して思ったのは、原作の方は登場人物も多くて後半ちょっとゴタゴタしてて、
余りスッキリしたとは言い難い終わり方をするのを、舞台の方はエピソードを削ったのと、主人
公と一緒に転生したヤクザの件に変更を加えることで、よくテーマが絞り込まれたエンディング
になっていたなと思いました。
座長なんだから当然だけれど、草薙良一さんの出番を増やしたことと、舞台で表現出来るこ
と、出来ないことの取捨選択も上手く出来ていたのではないかな。ラストにキャッチボールを持
って来たとこなんか良かったですね。
た〜だやっぱし……苦言を呈する訳じゃないんだけど、まぁ原作もそう言う風になってるんで仕
方が無いとは思うけど、最後あーまりにも主人公が何もかも悟り切って100%善人みたくなっ
て成仏してくってのがねぇ。
まぁ人生最後にはそうありたいと皆さん思うのかもしれませんけれど、オイラなんかはちょっと
ひねくれてるせいか、お説教されてるみたいで居心地が悪かった(笑)まぁ劇場も本願寺でした
しねぇ(合掌)。
原作についてもう少し触れておくと、オレ結構浅田次郎さんの作品って読んでるんですけど、
こーんなに笑えたのって他に無かったのではないかな。オレ通勤の電車でよく読むんですけど、
顔がニヤケちゃって困った(笑)特に導入の”天国”の描写が面白いのと、年老いた母親に死ん
だフリをさせるヤクザの件にゃマジ吹き出しちまいましたよ。
でも本当に、この原作の舞台化に挑戦した作家さんの仕事は見事だったのではないかと思い
ました。