「乱」

 こ〜れを観た時ゃもう嬉しくって嬉しくって! 何せオレ等の世代がクロサワ映画の洗 礼を受けた時にゃ既に過去の人みたくなってたからねぇ、だから リアルタイムで封切り作品を観れると言うだけで感激して、観てる間ずっと泣いてた(笑)。

 とは言え後になって冷静に観直してみると、やはり「赤ひげ」以降のクロサワ作品は娯楽性が抜 けた分コレも全体としては詰まらない作品だったと思う。け〜ど序盤例のリア王の三人娘を三人息子 に置き換えた家督を譲る話に始まって、毛利元就の "三本の矢" を末っ子の三郎が三本まとめて膝 で折ってしまう(笑)件から、家督を譲った途端に息子たちから袖にされ、不貞腐れて自分の城の天守閣 で側女と寝ていると外で何やら合戦の音がして……窓から見下ろすと長男と次男が軍勢を率いて城を 取り囲んでいるではないか!? 〜この辺りまでは凄いです。戦国の恐ろしさと言うか、息子が父親を 普通に攻めて来る非情さと言うか。

 そうして城が燃え落ちるまでの合戦の情景が現実音を無くして武満徹の音楽だけで見せられる様は 圧巻です。何と言う絢爛たる美術! 動く絵画鑑賞ですね。あまりの素晴らしさに泣けて泣けて(笑)。 かつて「七人の侍」や「蜘蛛の巣城」の騎馬武者シーン等も凄かったけど、カラーと言うこともあるだろう けどクロサワ画像の美しさと言えばコレとこの前作の「影武者」の2本が一番でしょう。

 だ〜けどやっぱしこの仲代殿様が城を焼け出されて発狂して放浪が始まると、後ダレるんですよね 〜ピーターと二人で。ん〜でやっと終わりの方になって追放されてた三郎が戻って来て殿様を助けに 来るとやっと少し面白くなるんだけど、途中のダレるシーンが長いのと、あと露骨なテーマ表示と言うか、 ラストの「神や仏は泣いているのだ」って台詞は野暮を通り越して素人芝居の様でした。

 コレは実在の武田信玄を扱った「影武者」とは違ってリア王の三人娘を息子に変えただけの戦国絵 巻だから、あまり新味のドラマ性等は期待せず、絵画鑑賞の様に観れば良いのかもしれません。 同じシェークスピアの「マクベス」に材を取った「蜘蛛の巣城」 も誰もが知ってるお話を戦国に置き換えただけなので、ドラマとしては新味は全く無かったけれど、劇場で観た 時はその映像芸術のあまりの凄さに観客たちが固唾を飲んで見てる空気だった。後に「プライベートライアン」 を観た時に冒頭ノルマンディのシーンの時にも同じ空気を感じたのを思い出しました。そう、本当に観る物 をねじ伏せる凄さがある映画って、そうはお目にかかれません。

 まぁ映画の本当の凄さってやっぱしドラマだと思うけど、こーの動く美術を堪能するだけでも充分観る価値 はあると思いますよ。こんな画像を作れる人は世界でも黒沢明だけでしょう。


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