「羅生門」

 言わずと知れた黒澤が世界のクロサワになるきっかけになった作品!

 最初に国内で封切られた時にゃあまりヒットもせず、ただ「よく解らない」とか 言われて話題にもならなかったのに……ベネチア映画祭で金獅子賞を取って再び 凱旋上映したら大ヒットになったという……ある意味日本人の受賞作指向を最初に 露呈した作品でもあるのかな?

 とにかく面白いですよ! ひとつの事件に対して複数の当事者たちがそれぞれ 異なった見解を回想の形で表現していくという。劇作法の「扇形」と呼ばれる原点 としてよく例に挙げられる作品でもあります。

 ベネチアで受賞する前に本作を観た大映の社長さんは「よく解らない」と怒った そうですが、全然そんなこと無いですよ。ちゃんと観てれば最後のキコリ(志村喬) の証言が真実であることはちゃんと解ります。

 本作ではクロサワと共に世界の人となった宮川一夫の逆光を捉えたカメラのこと が話題にされますが、オレに言わせればとにかくボレロですよボレロ!

 オープニングの土砂降りの雨の後、キコリが事件のことを語り出すと同時に始まる ボレロのリズム! キコリがどんどん藪の中へ分け入って行く!

 こ〜の早坂文雄によるボレロに乗って繰り広げられるリアルに無様な斬り合いの ダイナミズム! 映画の気持ち良さここにありと言いたいですねぇ。

 黒澤映画と言えばやはり「七人の侍」と「用心棒」がツートップなことが亡くなっ た時ハッキリしましたけど、他にも「姿三四郎」「野良犬」「酔いどれ天使」「生き る」「赤ひげ」「悪い奴ほどよく眠る」等々、どれも醸し出すテイストの全く違う作 品を生み出しながら、それぞれがそのジャンルの原点になっているという、そんな監 督が他にいるか!

 かつてフランシス・コッポラが「多くの著名な映画監督は2〜3本の代表作で有名 であるが、クロサワの様に8本も9本もジャンルの違う傑作を生み出している監督は 他にいない」と評してたのを思い出します。



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