「リリーのすべて」
これまでの同性愛物と違い、そんな気も無かった男がある日ふと違う自分に気付いて、最初は戸惑い、でも目覚めてしまった本性を抗いがたく、そうなって行く過程がビビットに描かれています。
絵描きの妻の来られなくなったバレリーナのモデルの代わりに足だけの代役を頼まれて、パンストを履いた時にアレっ……なんかいい感触……そしてお化粧してふと鏡を見たら……あ、私、綺麗?……みたいな。
妻が描いた自分の女装姿の絵を見た人が「綺麗な人だ」「会ってみたい」と盛り上がり、シャレのつもりで女装してパーティに行ったら男に口説かれてキスしちゃったり……と徐々に女性になっていく過程が段階を追って巧みに表現されていきます。
「蜘蛛女のキス」や「ブロークバック・マウンテン」とは違う、男が本当の自分は女だったことに気付かされていく展開に興味を惹かれました。
同性愛じゃなくて「性同一障害」この言葉が出回り始めたのは15年前頃「金八先生」で上戸彩さんが演じたり、その後現実にカミングアウトした競艇選手がいましたね。
今じゃ性転換手術と聞いてもそう驚きませんが、草分け的なカルーセル麻紀さんが手術をしたのが昭和48年で、そ〜と〜大変だったらしいけど、本作で描かれるリリーはそれに先立つ1930年ってんだから麻紀さんより更に43年も前ですし、世界で初めての手術だったってんだから〜恐れ入ります。
凄い勇気……というよりそうせざるを得ない程のことだったんでしょうね。自分のアイデンティティってやっぱり命よりも大事なんですよ。今まで誰も受けたことのない大手術を、命の危険も顧みずに受ける彼(彼女?)の姿が胸を打ちます。
そしてそんな夫? の意志を貫く為に力になる奥さんが素晴らしいですね。アカデミー賞取りましたねぇ。
ラストで風に飛ばされて空を舞うリリーのスカーフは、自由を得た嬉しさに飛び回っているようでした。