「八日目の蝉」
コレは面白かったですねぇ。2時間半の上映時間中片時も退屈しませんでし
た。製作会社はかの日活さんなんですねぇ。素晴らしいです。
この作品を女版「砂の器」と形容する方もいるようですが、それもあってか、最後
にもう一度現在の永作博美さんが出て来るもんだと思ってしまいました。
「砂の器」で一番泣けるのは一緒に旅したお父さんが、最後に養護院みたいなとこで
息子の写真を見せられても「俺ゃこんな奴知らねぇ〜」と泣くところでしたからねぇ。
でも考えてみたら、あの後現在の永作さんが出て来てどうなる? と考えてみると、
もう何もどうにもなりませんやねぇ。やっぱり彼女のしたことは間違っていたのであ
って、あの夜フェリー乗り場で引き離された時点で全ては終わっていたんですね。
それに考えてみれば、冒頭の裁判で事件後の彼女が発言してる訳で、事件の後であ
れ以外に何も言うことは無いのでしょう。
何故最後にもう一度出ないんだろう……という違和感を残してしまったのは、映画
の終末から考えると主役は誘拐された娘の井上真央さんだったハズなのに、観客の思
いが永作博美さんに振り切ってしまっていたからでしょう。
主役として過去の出来事にしっかりと目を向けたことで、自分のこれからの有り様
を見出して完結……というのは分かるのだけれど、その答えを出すに至る前振りとし
て主人公の苦悩が今ひとつビビットに描かれていなかったからではないでしょうか。
物語は主人公が自己の在り方を手にすることで完結したけれど、監督さんとしては
ただ起きたことを起きたままに描き、そこで観客は何を思うか、という映画体験を作
りたかったのだとすれば、かなり峻烈な成功だったのではないでしょうか。
永作さんのしていることは犯罪なのだと分かっていても、あの別れにはどうしても
泣いてしまいますからねぇ。
不倫した男の子供を中絶した上に捨てられた女が、自分を捨てた男の赤ちゃんを連
れ去って逃避行に出る〜そして子供は自分の出生を知らないまま彼女をママとして情
を通わせて行く〜というシチュエーションが実に新鮮でした。
今までに味わったことのない感慨がありました "面白い" ということにはやはり "
新しい" が含まれているのでしょうね。
コレと似た物を探すとすれば洋画のケビン・コスナー「パーフェクト・ワールド」
の女性版? あとテレビドラマ「Mother」もちょっと被るでしょうか。
役者陣としては永作さんが突出した感がありますけど、助演として注目すべきは小
池栄子さんだと思います。あの役をやるには綺麗過ぎると思ったけれど、この人は他
のドラマとか見てても思ってたけど、芝居が上手いですよ!
あと劇団ひとりさんは嫌いじゃないんだけど、この作品には顔を見せて欲しくなか
ったかな(スンマセン)昔「鉄道員ぽっぽや」に志村けんさんが出てきたの思い出し
ました。
あと怪しげな新興宗教みたいなコミュニティが出て来ましたけど、アレは物語の展
開上実に便利な役回りになっていたのと、余貴美子さんの遊び? もあって、オマケ的
なインパクトでした。
あのシーンが出て来た時にゃ「実はコレが本題なのか?」と思ったくらい(笑)逃
げた奥さんに呼びかけながらオジサンが壁から落っこちるのには笑ってしまった。
本当に面白い映画でしたけど、最後に思ったのは、諸悪の元凶は永作さんに子供
を降ろさせたお父さんですやねぇ。
どんなに女性が社会進出をし、男性と同等かそれ以上の能力を発揮する時代にな
っていても、最近の男は草食系とかいって必ずしも中枢を担う存在ではなくなって
いるのだとしても、やはり "世の中は男がしっかりしていなければまともに成り立
って行かない" ってことなんじゃないでしょうか。
いや〜楽しみましたよ。次回のアカデミー賞はきっと本作が総舐めしてしまうので
はないでしょうか。