「桜B 江戸川乱歩の犯罪」

演劇サムライナンバーナイン 第九回公演(2007年4月20日新宿シアターモリエール)

この劇団は以前にも一度観たことがあって、印象としては小劇場で唐十郎テイストのスペクタクルをやろう とする劇団……って感じでした。その時は高円寺の明石スタジオで、所狭しと建て込んだ大仕掛けのセットが見物 だったんだけど、今回はシアターモリエールと言うことで、大きな舞台を使ってどんなスペクタクルを見せてくれ るのかと、期待して観に行きました。唐テイストと言っても前回はドラマ部分がイマイチ唐組の様にビビットな情 感を生んでいないなぁと思っていたので、その辺をちょっと危惧してたんだけど……。今回は題名にもある通り、 江戸川乱歩の実生活と彼の書いた架空の小説世界がリンクして行く展開。御存じ怪人二十面相が登場し、コレに対 する探偵は何故か明智小五郎ならぬ台五郎……まずこれが非常に中途半端な気がした。著作権等はクリアしてない のかな、江戸川乱歩や怪人二十面相や少年探偵団がそのままの名前で登場することに引け目を感じているのなら、 明智小五郎だけ台五郎にしたってあんまし意味無いと思うんだけど。明智小五郎もそのままオリジナルを拝借した 方がスッキリ観れた気がするなぁ。物語は江戸川乱歩の新妻との実生活と乱歩の書いた架空の小説が劇中劇として シンクロして行く。とは言えタッチはいたってドタバタで、舞台となる富豪の屋敷のメイドやボディーガード、召 使いや令嬢、刑事の登場にいたるまで、全てがギャグ仕立てで音楽を鳴らし、ドタバタと騒がしく進行して行く、 その様はまさに唐タッチ。そんな中、進行していくストーリーの内容は、代々続いた大富豪の家に怪人二十面相か ら富豪の孫娘の誕生会の日に "桜を頂きに行く" との謎の盗み予告が来るのだが、捜査の為に呼ばれた明智台五郎 の推理で二十面相の言う "桜" とは庭にある桜の木ではなく、娘の桜子のことであることや、事件の鍵は行方不明 になっている桜子の父親が握っているらしいこと……等が徐々に解明されて行く。前回観た時は余りにも突拍子も ない展開と、あまりにガチャガチャし過ぎていて、内容が良く把握出来なかったのだけれど、今回の話は分かり易 く、まぁ嘘八百にしろ乱歩が若くして妻の身篭った子供を流産させてしまい、妻の気がふれてしまったことを反映 させた物語が劇中劇としてシンクロする展開はなかなか面白いなぁと思った。けれども難を言うとオチがねぇ…… 結局その娘ははるか昔に既に死亡していて、現在の娘は行方不明になっていた父親が作り上げた人造人間だった… …てんだけど、まぁ虚構の世界だし、何でもアリとは思うのですが、それよりも何よりも観客をイカせるべき情感 がね……やっぱりタッチを模倣しているだけにど〜しても唐組と比較してしまいますね。唐テイストでなくともそ れを上回るオリジナルで劇的な素晴らしさがあれば良いのだけれど、どうも唐に似ていながらその模倣の域から出 ていない様な気がする。偉そうなこと言ってすみませんが、お金払って観た観客として言わせて貰っちゃいますね。 実世界の主人公として登場する江戸川乱歩の人物像はまぁ、オレも会ったことないし、どう描こうが自由とは思う のですが、その劇中劇として描かれる、愛する娘を失った科学者である父親が作った人造人間の娘……って物語が ねぇ、それがもっといかにも乱歩が書きそうな変態奇怪な内容だったらなぁ、と思いました。それとやっぱり実は 人造人間だった令嬢と、身分が違う為に結ばれない使用人の青年との恋の顛末がもっとビビットな情感で迫って来 る様になっていれば、きっと傑作になったのではないかな。最後背景落としで現れる巨大な桜の木も良く作ったと 思うけど、やっぱりそれを活かすのもそれまでの展開でしょう。悪いけど何度も観た唐組のテント公演のラストの 様なカタルシスは感じなかったなぁ……。とは言えシアターモリエールは満員で、これからもっと発展して行きそ うな劇団ですので、今後の展開に期待したいと思います。



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