「しあわせの隠れ場所」

 映画の日に何か観ようと思って行って来たのだけれど、新宿ピカデリーは凄い 混雑。カウンターで空席を見せて貰ったら最前列の端っこしか空いてなくて、危うくチケット 取れないところでした。

 本作は宣伝を見て 「金持ちが貧乏人を助ける」 という図式に拒絶反応を持っていたの だけれど、観た方のレビューがみなさん評判良くて、この一見嫌味な設定がどんな風に良 いのかなぁと、その辺に興味を持って観たのでした。

 サンドラ・ブロックといえばお馴染み 「スピード」 でブレイクしたイメージが強く、その後も 勝気でイケイケお姉ちゃんな役柄が多かったけど、芝居は上手い人だなぁと思っていた ので少し期待もしていました。

 裕福で幸せな日々を送っていた家庭に突然黒人少年が同居し始める〜というシチュエ ーションに昔の山田太一のドラマの様な問題が浮かび上がって来る展開を期待したのだ けれど、そうはならずにひたすらこの美談を嫌味なく展開させる為の筋運びが上手く作ら れていました。

 金持ちだからどう……ってことではなくて 「たまたま "金持ち" という境遇にいた主人公 が起こした彼女独自の行動」 という観点で見られるかどうかがポイントでした。

 そしてこの物語を成立させたもうひとつの要因は、あの大きな黒人少年も、お城みたい な豪邸に住んでいる家族を妬むでも羨むでもなく、その好意を卑屈にならずに受け入れら れたという彼のパーソナリティによるところが大きいでしょう。

 観終わってみると "実話が元になっている" という前提がなければ 「こんな甘っちょろ い話があってたまるか」 な印象でした。

 事実を元にしてるとはいえドキュメンタリーではないのだから、ドラマを描く作品としては 金持ちサンドラと貧乏少年との軋轢をもっと描いて欲しかったな。

 サンドラお姉ちゃん(お母さんだけど)の家庭は超金持ちで、黒人少年を一人養う位のこ とは余裕で出来てしまう。
 そのことで娘が学校で男子生徒にからかわれたり、サンドラお母さんが金持ち仲間の おばちゃんたちと袂を分かってでも自分の行動を貫こうとするくらいで、他には何のリス クも背負っていない。
 だから観てる方もあんまし本気になって応援したいという気が起きなかった。家族と少 年との描写は楽しいんだけどね。

 あと終盤少年が進学する大学になぜミシシッピー大を選んだのかで調査が入って誤解 が生じるのだけれど、コレだけでは弱すぎますよ。

 オレとしてはサンドラの高い鼻っ柱を一度へし折られて欲しかった。帰って来ない少年を 探してハーレムに足を踏み入れたサンドラが黒人たちに暴行されて重傷を負うくらいの試 練を与えて欲しかったですね。
 フィクションならばきっとそうしたでしょう。あんなカッコ良く啖呵切って行かれると返って 嘘っぽいですよ。

 エンドクレジットに流れる実在の彼等の写真は 「現実にあった話なんですよ!」 という ダメ押しの為に出て来た様な印象でした。
 あの写真を見ながらもし現実にこの話のモデルになった金髪のセレブお母さんに会った らどんな印象なのだろう……と考えてしまった。

 コレは観る人の境遇によって受け止め方も大分変わるんじゃないかな。裕福な人生を送 っている人は素直に楽しんで、貧乏人はちょっと斜に観てしまうところがあるんじゃないか と思う。
 勿論オイラは後者だったわけですが(泣)その辺はむしろ実話であるだけに嫌だったかな。 卑屈になってる自分も嫌だったけど(笑)。
 脚本は終始観客の興味を引く様に面白く巧みに作られているのだけれど、やっぱし本心 から素直には観れなかったかなぁ。

「たった一人を救ったってしょうがないじゃないか」 とか 「金持ちの自己満足だ」 とか意地 悪な言い方は幾らでも出来るけど、たった一人の話でも無いよりはあった方が良いには決 まっている訳で、まぁ美談には違いないですよね。
 でもだったら劇映画の仕立てにするのではなくて、テレビのドキュメントでやった方がずっ と素直に観れたのかもしれません。

 劇映画にするならもっと黒人少年とサンドラお母さんとの葛藤を描いて、一度は破綻するまで にぶつかり合って欲しかったな。それならラストももっと素直に感動出来たかもしれません。



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