「それでもボクはやってない」
いや〜しかし恐い映画を作ったもんですねぇ……オレも毎日ギュウギュウ詰めの地下鉄で通勤してますから
ねぇ……全く人事ではない! いつ我が身に降りかかるかと思うと戦々恐々でしたよ。これから電車に乗る時は
両手バンザイして吊り革に捕まっていようかって思いますね。
しかしこの作品は「shall we ダンス?」みたくは
ヒットしないでしょう、何せカタルシスは無いんですから! 娯楽映画じゃ無いんですよ、そりゃ日本の裁判制度
の問題定義と言う意味じゃこれ程効果ある作品も無いでしょうから、作者の意図としては大成功なんでしょうけど。
たまの休みに面白い映画観てスカッとしたい……みたいな気持ちで観に行ったりすると思わぬカウンターパンチを食らって
立ち直れなくなりますよ(笑)。
だってこんなリアルな法廷劇で、自分の身の潔白を証明する為に主人公が涙浮かべて
頑張って、そしたら待ってましたとばかりに頼りになりそうな役所広司の弁護士が登場して、最後には正義の鉄槌
が下されて思わぬ逆転劇があるに違いないと思うじゃないですか、それが……ラストは奮戦虚しく
第一審の判決で懲役三ヶ月の執行猶予三年って判決が下されて、役所弁護士の「控訴します!」って声でエンド
クレジットですぜ……。
そりゃ観客としては「shall we ダンス?」の周防正行だから……って観に行くでしょう。
でも周防監督としてはいつまでも「shall we ダンス?」じゃない訳で、作家として新しい方向性を見出して行った
んでしょうけれど、これが全くの社会派で裁判の問題定義作品になっているとは。コレだったら純粋にドキュメント
とかNHK特集で観れば良い様な気がしました。だって映画はせっかくのフィクションでしょ? やっぱ現実には無理
でも観てる方はカタルシスが欲しいじゃないですかー。
そりゃ現実の裁判を何百回も傍聴したりして調べ抜いたと言う
だけあって凄い良く出来てるし、痴漢の疑いで逮捕されたらどんな目に遭わされるのかが子細に描かれてて見事だと
思いますけど。見てる間は夢中になって見入ってしまいましたけど、終わってみると嫌な映画ですよ! かつてヒッ
チコックの「間違えられた男」とか熊井啓が冤罪を扱ったバリバリ社会派の「帝銀事件・死刑囚」とかを思い出しま
したけど、アレ等は最後には冤罪が晴らされたり、晴らされなくとも感情的なカタルシスとかもあったじゃないで
すか、コレはまぁ監督の狙い通りの終わり方なんでしょうけど、本当恐い恐い本当の話を突きつけられて問題意識
だけがドーンと観客に残ってお仕舞いなんですよー。
まぁ勝手にエンターテイメントを期待して観た方が悪いのか
もだけど、宣伝も題名もこんな辛口な印象だけ残す作品とは思えない売り方してたじゃないですかーヒドイヒドイ。
思うに周防監督はあんまし現実を調べ過ぎちゃって、「こりゃ面白がってる場合じゃないぞ」みたいな意識になっちゃった
んじゃないですかね。もし問題定義だけを前面に打ち出したいのなら、ヘンに役所広司とか瀬戸朝香とか出して
観客にドラマチックな展開を期待させるなよーと思ってしまった。
いやー確かに凄い映画ですよ、凄い映画なん
ですけど、誤解しないで下さいね、こう言うテイストなんだってことが分かってたら、オレ観に行きませんでした
ね、間違った方へ期待させた宣伝の仕方がズルイ。