「タンゴ・冬の終りに」

(2006年11月4日シアターコクーン)

観て来ましたよ、かの演出:蜷川幸雄&作:清水邦夫の大傑作なんですって? 世界のニナガワは余りに有 名で、テレビの舞台中継や映画作品は幾つか観てましたけど、やっとライブで舞台を観ることが出来ました。 本作は1984年に初演され、86年に再演された伝説の舞台の再々演とのことで、チケットも取れないと評判でし たが、運良く初日に鑑賞しました。物語は有名な舞台役者の主人公(堤真一)が精神を病み、今は寂れた故郷の映画 館に戻って 暮らしているところへ、東京から追って来た妻が夫に正気を取り戻す為にかつて彼が不倫していた恋人(常盤貴子) を呼び寄せる。その恋人を追ってその夫(段田安則)もやって来て・・・ってな物語展開。主人公の失われた記憶の中 にいる恋人常盤貴子との再会で主人公は再び恋に落ち、次第にかつての自分と今の自分の軋轢が生じ、人格はます ます異変を来して行く、そして主人公が正常を失ったこととリンクしてかつて持っていた子供心や抱いていた夢の記 憶等が交錯し、遂には悲劇的な終幕を迎える・・みたいな内容で、ラストはかつて唐十郎や寺山修司が見せた様な 背景落としで桜の花びらが会場中に舞い上がる。カーテンコールはいつまでも鳴り止まぬ拍手に何度も降りた幕が 上がり降りては上がり・・・けどさぁ、正直「そんなに良いか?」っても思ったな。冒頭とラストに登場する舞台 全体が映画館の観客席になってて、幕が上がると凄い群衆が客席=スクリーンに向って興奮のるつぼになって騒いで いる・・って描写も、確かにツカミのインパクトはあったけど、物語の内容とは関係が無い。そもそも舞台になって いる寂れた映画館も、この物語の舞台が必ずしも映画館である必要も無い。一番気になったのは主人公が何故狂った か・・・の説明が無いのでこちらも問題意識を持って見ることが出来ず、今ひとつ物語りに引き込まれて観ることが 出来ない。他の人の批評とか読んでると「誰しも失う少年時代への感傷」みたいなことが書かれてて、それなら何と なく分かるし、それを浮き彫りにして行く為の展開や演出だったのは分かるんだけど、他の方が言ってるみたく「魂 が揺さぶられる」ほど良かったかい? スモークを炊いた幻想的な演出や背景が崩れるみたいなスペクタクルな仕掛け 等は既にいろいろ見て来ているし、免疫があり過ぎたのかな。余り芝居と言う物に縁が無く、初めてこうした物を 観た人が衝撃を受けると言うのは分かる気がするけれど、オレ的にはかつて「夢の遊眠社」や「唐組」を観た時の様な ショックは無かったなぁ・・。でもこの作品、コアなファンの間でも最近のニナガワの中では傑作との呼び声が高い だけに「こんなもんか・・」な印象の方が強く残ってしまった。まぁコクーンシートとかって三階の脇から下を覗き 観ている様な見にくい席だったのもちょっとは影響してたのかもしれないけど。しかして常々評判の良い段田安則さん と堤真一さんの舞台役者振りはさすがだなぁと思いましたが、やっぱり皆さん言われてる様に常盤貴子さんのヘタぶり (失礼)はちょっと驚きましたね。プロの女優さんでもこんなことがあるのか・・・と感じてしまった。そもそもオレ は常盤貴子って、昔織田裕二と共演したレイプされる女の子役だった「真昼の月」を観て以来、なかなかの演技派な 女優さんだな。と思っていたのに、映像と舞台の違いをまざまざと見せつけられる結果でしたね。「声が出ていない」 とか「浮いてる」とか言われていますけど、オレに言わせるとコレは「舞台上を泳げていない」だな。泳げない人って のは体力があって運動神経バツグンでも、泳げない物は泳げないでしょう。それと同じで舞台でヘタな人って、声が 良く出ていても、滑舌が良く身体が良く動いても、泳げないんです。舞台上の水の中での振舞い方がつかめていないと 言うか、空気に乗れていない。俳優は舞台の上で役の人生を生きると言うけれど、その生き方が感覚として身に付いて いないんですね。オレも舞台やってた時はメンバーの中に何人か必ずそう言う役者がいて苦労したものですが、プロの 世界でもあるんだなぁ・・とヘンなところで感心してしまった。コレって出来る人は何度かやってすぐ出来るんだけど、 出来ない人はどんなに苦労しても一生出来なかったりする。恐いモノなんですよ。常盤さんのことは「経験を積んで行け ば良くなる」って皆さん言ってますけど、オレは無理して舞台やる必要無いと思いますね、ドラマや映画で高い評価を 受けてるんだから、そっちに徹してけば良いのに・・・。ま、本人の意思ですから何とも言えませんけどね。生涯舞台 には出ない女優さんだっている訳ですから。とは言え本作は巷の異常な評判の良さは分かるんですが、オレとしては 今ひとつ「やっぱ商業演劇ってこんなもんか」なぁんて嘯きたくなる作品でしたね。なんせシアターコクーンって劇場 もあまりに小奇麗でかしこまってるし、舞台も観客もお行儀が良いしねぇ、上演作品もトゲや毒気を抜かれてお上品な 印象さえ受けてしまった。裏を返せばそれだけメジャーであると言うことなのかもしれませんけどね。まぁ好き好きと 言うことで・・・。



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