「トゥルー・グリット」

 かのジョン・ウェインがアカデミー賞を取った「勇気ある追跡」の リメイク作品。

 当時ジョン・ウェインはアカデミー賞を凄く欲しがっていて、噂では映画 関係者を招いて露骨なパーティを開いたり、結構必死だったらしいですね。

 旧作はそんな狙いがみえみえという感じで全編「ジョン・ウェイン万歳!」 な英雄モノになっていて、主演であるはずの少女の存在が薄かった印象があります。

 それが今回は父の仇を討つ為に気丈に振舞う14歳の少女が前面に出て、本来こ うあるべきな作品としてのインパクトになっていました。
 題名としてはこちらの方がずっと「勇気ある追跡」な感じです。

 今回以外だったのはやっぱしこのリメイクをコーエン兄弟が作っているというこ とですね。
 だって旧作はまるで牧歌的な青空が広がる様な英雄娯楽作品だったのに、 コーエン兄弟の一歩間違うと不快な屈折した変化球な作風とはどうも正反対な素材 な気がしてたんですけど。

 なので本作はあの痛快作をコーエン兄弟が撮るとどうなるのか? 一体どんな捻り を入れて来るのだろう……というのが見所でした。

 でも観終わってみると以外にマンマでしたね〜ガラリと違う空気感になっ てるんじゃないかと予想してたので、それはちょっと肩透かしでした。
 まぁ要所の人が撃たれる描写とか死体とかにコーエン的生々しさがあって、リア リティを増す効果になってたと思いますけど。
 感想を一言でいうとすれば「アレにリアリティを加味するとこうなる」です。

 本作のリアルなテイストもとっても面白かったのだけれど、やっぱしコレは 娯楽作品だと思うので、やっぱしジョン・ウェインが爽快に活躍した方が正解だった 気もしますねぇ。
 希望としては父の仇を取る気丈な少女は本作で、片目の保安官はジョン・ウェイン で……ってのが完璧かな(笑)。
 ジェフ・ブリッジス勿論素晴らしいのだけれど、こうするのならも少し掘り下げて 欲しいというか、人物描写に捻りが欲しかったかなぁ。
 酔っ払って手に負えなくなってきたところで、オッ! 来た来たぁ〜って期待した んですけど、その後あんまし広がりませんでしたね。

 あと毎度ながらマット・デイモンも上手いですねぇ! なんですかこの人の、この 作品毎に違う佇まいというか、全然違うオーラを放ってますよね。
 こういうパッと見地味な役柄というか、強烈な個性も無いキャラクターなのに、こ れだけの存在感を出すというのは、きっと凄く作り込んでるのではないですかね。 最初出て来た時は彼だと分かりませんでしたよ。

 ここんとこちょっと「インビクタス」〜「ヒアアフター」〜本作と続けて見てい ますけど、そう表立って騒がれる役ではなかったけれど、どれも唸らされる名演技だ ったのではないでしょうか。

 本作はアカデミー賞に10部門もノミネートされたのに、ひとつも取れなかったの は可愛そうだと思うけれど、原因はやっぱしコーエン兄弟の作風と素材のミスマッチ と言えるのではないでしょうか。

 ラスト1対4の馬上の決闘もやっぱしあ〜の口に手綱を咥えて片手に持ったウィン チェスターライフルをグルリと回して弾を装填するウェインに痺れましたものねぇ。
 後に「ターミネーター2」でシュワちゃんがバイクに跨って引用したのは拍手喝采 だった。
 コーエンが撮るなら古いけど「ミズーリ・ブレイク」とか「ワーロック」もしくは イーストウッドの「許されざる者」的な仕上がりを期待していましたものねぇ。

 例えばトニー・スコットみたいなエンタメ系の監督がやった方がむしろ取れたので はないかな。って勝手なことばっか言ってますけど。

 けどブリッジス&デイモンの一流の芝居やリアルな銃撃戦のコーエン節もあって、 本当楽しめる楽しめる作品でした。
 コーエン兄弟のキャリア中最高の興行成績だったのだとか、ヒットするのはやっぱ し娯楽なんですよ娯楽!



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