「ときめきに死す」
当時鮮烈にデビューした新鋭監督森田芳光初期の傑作群中の到達点。何と言うこの空虚! 静か! でも
それ故に観る者の感性を研ぎ澄まさせて行くこの空気感はどうだ!。
主要な登場人物は三人で、今見るとどうしても麻原彰晃を連想
してしまう新興宗教団体の教祖を殺す為に派遣された暗殺者・沢田研二、とその世話役で 「歌舞伎町の医者」 と
名乗る謎の男杉浦直樹、それにこれまた謎の女樋口可南子。この三人が教祖暗殺の準備の為に別荘で暮らし始め
る……観客には主人公たちの物語背景等は一切語られず、
命を狙われる教祖の宗教も内容が良く分からず、何故彼が命を狙われるかの説明も無い……。
今でこそオウム事件が
あったのでなんか 「殺さなきゃ」 ってのも分かるんだけど、当時はまだオウム真理教なんて無かったのではない
かな? とにかくこの作品には映画の脚本として基本である天・地・人(時代設定・場所設定・人物設定)と
言うセオリーが無い! 本来観客を面白がらせる為のテクニックを無視していながらこの言い知れぬ緊張感
をかもし出しているところが凄い。古くはフランスのクロード・ルルーシュや日本の斉藤耕一的感性とでも
言おうか、イヤ、アレともちょっと違うな、森田のそれはどことなくオチャラケてもいるし……とにかくこの
空気、雰囲気、音楽のかもし出す映画世界は凄いです。
感性としか言い様が無いけれど、これは脚本の技術や
演出を勉強しても出せるモノではない、才能の賜物ですね。この頃からではないかな、なにかと言えば○○イズム
とかって言い方が流行る様になったのは、確かパンフに 「モリタイズムが溢れてる」 とか書いてあったよな
気がする。懐かしいですね。この頃一生懸命観に行ってた新宿のテアトルでは大林宣彦作品もよくかかってたっけ。
でも大林監督は今もバリバリ当初のままの感性を貫いて映画作りを続けているのに対して、森田さんは今じゃすっかり
毒気が抜けてしまったと言うか、普通かそれ以下(失礼!)に成り下がって(重ねて失礼!)しまって
るのが本当残念ですよねぇ……それ程この作品って凄かったんですよ。