「終の信託」

 感想としてまず「痛烈!」という言葉が出てくる映画は久々でした。

 他に「痛烈な映画」といえば……古くは保釈中に警察から理不尽に追い詰められ、罪に落し入れられギロチン処刑されてしまうドロン・ギャバンの「暗黒街の二人」。
 エルサルバドルで知り合った子連れの難民女に恋をした不良ジャーナリストが、彼女を連れてアメリカへ逃げようとしたら、国境線で彼女と子供だけ連れ帰されてしまうオリバー・ストーンの「サルバドル」。

 しかして本作のラストも愕然とする様な「痛烈さ」で悔しいやらやるせないやらの余韻に突き落とされて終わるのでした。
 でもそれは許されざる愛の不条理というか、縄で繋がれて連行される草刈民代さんの姿にゃかつて「近松物語」で姦通罪で処刑場へ引き回される香川今日子の姿や、切ないフランス映画を思わせた。

 重いとか暗いといえばそうなんだろうけど、映画の余韻としてはとても「アリ」でしたよ。

 概して他の皆さんの辛口なレビューの大よそは前作「それでもボクは……」に比してのリアリティの低さみたいなことでしたけど、NHK特集のドキュメンタリーみたいだった前作よりも、不条理なロマンスのある本作の方が断然好きです。

「それでも…」は現実であるが故の理不尽な圧迫感が凄かったけど、フィクションとして主人公の心の変遷が物語られる本作の方がず〜っと映画らしいと思います。

 しかして「長い」という皆さんの感想にはちょっと賛成かな。役所広司さんの死ぬのがもう少し遅かったら〜オレも危うく気を失いかけていました。

 あと皆さん仰ってる、主人公の女医の行動に多々の「医者としてあるまじき行為」が見られるというけれど、確かにリビングウィル(患者が延命治療を拒否する意思を生前に明記していること)の手続き等、尊厳死というものに関して過去の事例も含めこれだけ問題になっているのに、医師としてそれを実行するにはあまりに迂闊であったとは思いました。

 でもそれ等をあまりに完璧にこなしていたのでは、後半責任を追及される展開が出来なくなってしまうし、そもそも人間は必ず「間違える」ということが前提でドラマは成り立つのだから、それを言ってしまうと面白くありません。

 それにしても本作の草刈民代さん……NHKの「竜馬伝」でお母さん役で出てきた時にも驚いたけど、かの「Shall we ダンス?」の時の台詞棒読み振りのことを思うと、どれだけ努力をされたのだろうと思いますね。
 演技経験のない素人さんが普通に台詞を言えるようになるのって並大抵のことではないですよ。

「Shall we ダンス?」の時ゃ演技も出来ないのに何で主演女優賞なの? と他の女優さんたちは頭にきたでしょうけれど、今度こそ本当に演技の実力で主演女優賞を取るのではないかな。

 ただちょっと不満としては、後半検事の取り調べになって前半振られていた伏線が次々に回収されていくんだけど、ラストの暗転後に字幕で表される「最期の救い」が役所広司のつけていた「喘息の症状を記した日記」であったというのはあまり工夫が無いと思いました。

 それこそ小津安二郎の映画の様に、主人公がサラリと漏らす一語によって観客の胸中に大きく波紋を広げる様な、そんなひとヒネリがあればもっと良かったかなぁ。



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