太平洋戦争末期に行われた戦闘機による捨て身の体当たり攻撃。所謂「特攻
(特別攻撃)」で命を落とした兵隊たちの物語。
作者は当時の手記や事実を調べてその中から特攻で死んで行った幾人かのエピソード
をうまく絡め、ある教官を巡るひとつの物語としてまとめている。
いや〜小劇場のアマチュア芝居でこの題材を取り上げると言う、その熱意と本気度には
敬服します。歴史上の事実を再認識すると言う行為は演劇として勿論アリなのだけれど、
余りにも事実が重過ぎてオレなんかは尻込みしてしまいますから。
製作体制に限りがあるのか、軍服のサイズが妙に合っていなかったり、上官の軍靴がど
うも短いなぁと思っていたら普通に長靴だったりするのも、熱意を持った役者さんたちの演
技でそう気にならなかったくらいだ。
それに2時間半の長丁場を飽きさせずに見せたのは台本が良く推敲して作られていたか
らでしょう。
だけど、確かに良く調べた当時の事情やエピソードが淀みなく語られて行くのだけれど、い
かんせんどれも何処かで聞いたことのある話ばかりで、特攻隊のエピソードとしては書物や
テレビのドキュメントで既に知っている範囲の物でしかなかった。
それだけ特攻隊と言う物の特殊性や悲劇性は他の媒体等でも多く語られて来ている訳で、
今コレをやるのなら余程斬新な解釈や今までに無かった大胆な切り口等が必要なのではな
いかな。
自分が出来ないのに偉そうにすいませんけど。やはり特攻隊モノの舞台と言うと真っ先に
思い浮かぶのは今井雅之さんがライフワークとして取り組んでいる「ウィンズ・オブ・ゴッド」
ですけど、アレも元は小劇場のアマチュア芝居で、制作費は60万円くらいだったらしいです。
アレは現代の若者が出撃前の特攻隊員と入れ替わってしまうと言う発想が鮮烈だった。
あと「月光の夏」と言うのは余り知られていない「特攻に失敗して生還した隊員がその後
どんな人生を送ったか」と言う視点が珍しく、興味を持って見れました。
М企画さんの本作も「忘れてはイケナイ」と声を上げる志には頭の下がる思いですけれど
も、そこにもうひとつ、フィクションと言う形ならではの何か斬新な仕掛けが欲しかったかな
と、思いました。