「私の男」
この監督さんの初めて観ました。最初の作品が「鬼畜大宴会」とかって、血みどろの内ゲバ物? であんまし見る気しなかったんやけど、その後の作品が結構評判良くて、今回のは芥川賞受賞作ってことで観に行って来ました。
まるでATGの映画を観ている様で、なつかしい感じのするタッチだった。今こうゆう作り方をする監督ってあんましいませんよねえ。
ただやっぱし、そのせいで登場人物の心理が汲み取り難い箇所があるのは気になりますね。セリフひとつのニュアンスが重すぎて、理解し逃すとずっと置いてかれる感じだ。
主人公たちの抱く心理を想像出来た人には理解出来ても、理解し辛い人も多いんじゃないかなと思った。観る人を選んでしまうタイプの作品かもしれません。
んでもあんまし分かり易すぎるってのもヤボだけど、サジ加減ですよね。何回観てもサッパリ解らないタルコフスキーの映画なんかよりゃずっと良い感じですけど。
冒頭流氷の海から制服姿の女の子が這い上がって来たかと思ったら〜一転漂流物がいっぱい流れ着いてる夜の海になって、そしたらまた今度は小さな女の子が這い上がって来て、遠くでは闇空にボア〜っと炎が上がったり、なんじゃコリャ? 何がどうなってるんだぁ〜みたいな描写には暫く忘れていた映画の醍醐味がありました。
浅野忠信演じる主人公と引き取った女の子とは叔父と姪くらいの関係なのかと思っていたら、実の親子だったと解ってからが俄然面白くなりますね。やっぱコレは人間が根源的に持っている近親相姦への憎悪の為なのか。動物と一線を画す要素でもありますからねぇ。
その関係を知られた藤竜也に向ってヒロインが「私は自由だー!」と叫ぶ件は圧巻だった。
まぁエロスの世界、人の真に自由とは何か〜みたいな心地良い? テーマは解るのだけれど、でもそれらを今見てもなんだか懐かしい感じの方が先に立っちゃって、新鮮なんだけど解雇主義的な新鮮さに感じられた。
男子としては何しろ浅野忠信がダメになってくのが良いですねぇ。見てるとなんだか懐かしい様なホッとする様な(笑)あの部屋の散らかり様はまさしくATGだ!
浅野さんてやっぱし上手くって、男の色気がムンムン……ってのも解るんだけど、あの色気って紛れもなく昭和の男のソレですぁね。このテの色気って今の女性にも通用するのかな?
この女優さん魔性の女って評をしてる方が多いけど。コレは近親相姦の話なだけに、魔性というより "特殊な女" って感じだったな。魔性というなら昔の「事件」の大竹しのぶさんとかの方がずっとビビットだった。
やっぱ本作の場合は近親相姦てことがセンターにあるので、ちょっと特殊な印象を持つのは仕方ないのかな〜と思ったけど、如何にも映画的な味わいに満ちていて、充分に堪能出来る作品でした。