「やぶからぼうにレインボー」

TOKYO ROCK'N PARADAISE Vol,22(2008年2月15日新宿THEATER BRATS)

 今回の演目は前回がブッちぎりの大傑作? だっただけに作者もプレッシャーだ ったのかな? 台本の構成にやや混迷が見えました。

 内容はクラブか何かで水商売をしながら一緒に暮らしている三人のお姉さんたちを中心に、 そのうちの一人の元彼氏と子分。それにまだ幼い家出娘が加わって一緒にワイワイ生活し ているマンション? の一室が舞台。
 その幼い家出娘が実は大財閥のお嬢様で、娘を連れ戻す為に父親の代理として使用人 (布施博さん)がやって来る。
 実はお姉さんたちは三人とも小さい頃に父親を失っているのだが、家出娘を連れ戻しに 来たその使用人が実は三人のうちのひとりの父親であることを、当人が気付かないうちに 他の二人が発見してしまう。
 この仕掛けがなかなか鮮鋭で、その娘が昔から大事にしていた「赤ん坊の頃母親に抱か れている写真」と同じ写真をその使用人が持っていることを他の二人が発見する。その写 真を撮影したのはお父さんで、つまりお父さんは娘が赤ん坊の頃しか見ていないので、成 長した自分の娘が分からない。
 娘の方は写真を撮られた頃赤ん坊だったので父親の顔を覚えていない。なので二人とも 母親のことはよく覚えていても、お互いが父であり娘であることを分からないのだ。
 その同じ写真をその男と彼女が持っていることを発見した他の二人が「あの人は彼女の お父さんなんだ」と発見する。

 コレはなかなか面白い趣向だと思ったのだけれど、それ以降のドラマ展開は果たしてそ の娘が自分と母を捨てた父親のことを許すことが出来るのか……と言うことに主眼が置か れてしまい、同じく父親に捨てられている他の二人との胸の内のぶつけ合いになる。

 ここでの役者さんたちの芝居は本当に気持ちが入って素晴らしく、見せてくれるのだけれ ど、話の展開としてはこの後父と娘の涙のご対面で終わるのだろうと言う予測が出来てし まって、ちょっと安易な気がした。
 しかもその "お約束" であるべき父娘対面シーンを描かないまま劇は終わってしまうの だ。先の見えた展開は描くだけ野暮? と言うことなんでしょうか。でもこうした物語運びを するのなら、観客としては例え分かりきっていても、お約束をしっかり描いてくれないとスッ キリしない感がありますね。
 例えれば「印籠を出さない水戸黄門」か「一件落着しない遠山の金さん」みたいな感じが した。

 それと途中で素性のバレた父親(布施博さん)が延々と過去の経緯を語る場面も、唐突 で説明的過ぎましたね。
 味わいのある布施さんの芝居でなかったらそ〜と〜キツかったかもしれません。 折角 "当 事者たちが気付かないまま他の人たちがそれと気付く" と言う写真の工夫が鮮鋭なのだか ら、例えば当人たちが知らぬまま父娘で恋に落ちてしまうとか、それとも 「貴方がお父さん だったら良いのに」 なんて気持ちになったら本当の父親であることが分かって一気に気持ち が憎しみに裏返ってしまうとか……いろいろ面白い展開が想像出来るのだけれど、何故か 一番詰まらない方向を選んでしまっている様な気がしました。

  そして物語全体は居候していた幼い家出娘が、後にここでお姉さんたちと過ごした日々 を回想すると言う形で進められるのだけれど、そのお姉さんと父親との本筋が、家出娘と 父親との関係とシンクロして、どうやらその家出娘も父親と和解したのであろうことは想像 が付くのだけれど、コレもストーリーの中でハッキリと示されていないので、どうにも中途半 端な印象だった。

 ちょっと今回は文句ばかり書いてしまってすんません。とは言えTOKYO ROCKさんならで はのテンポの良いギャグは楽しいし、劇場の奥行きを活かした違う空間の会話をシンクロ させる等、いつもの上手い技巧もありました。今回は特に役者さんたち(特に布施さんの娘 役)の素晴らしい演技で助けられましたね。今作はきっとTOKYO ROCK の新しい展開へ の布石の一環と見て、今後を楽しみにしています!



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