表紙写真
昭和40年春、学生運動に参加した日々の思い出を胸に、日本不動産銀行に入行、名古屋支店、金沢支店で仕事に、リクリエーションに熱中した銀行員修業時代の記録。
著者   上杉幸彦
発行年  2023年 
発行    花伝社、2023年
       〒101-0065  東京都千代田区西神田2−5−11
       Tel  03-3263-3813 
       46判並製 379頁
定価    2200円(消費税込み) 

 本書に寄せられた感想等
 文章は明快でテンポよく、辛口・甘口のエピソードも盛り付け、実務用語の解説もあり、細部までよく練られ、一気に読ませるところはさすがと感服いたしました。舞台が高度成長時代の銀行。当時の雰囲気を細部にわたり活写して、同時代を知るものとして貴重な記録です。
ゆったりゆっくり暖かい風の流れるような小説です。思いやりと助け合いの精神で働いている行員の姿がほのぼのと醸しだされている。山とスキー、特に剱岳登山は凄い迫力でした。久しぶりの読書で感動です。
とても読みやすくて、面白かったです。ここまで丁寧に昭和の銀行員の労働そのものと人間模様にスポットを当てて描いた作品はなかったのではないかと思います。月ごとに順々に銀行業務とそれに伴う人間模様を描いてゆくという手法と、それにふさわしい簡潔で短い文体と歯切れのよい展開が作品独特のスタイルを生みだしています。
当時の銀行業務の実態が門外漢にもよく分かりました。業種、業態は異なっても日本の企業統治や労使関係はどうしてこのように同じなのでしょうか。組合幹部が経営幹部候補である構図は私の勤務した会社も同様でした。男優位の社会も50年間不動です。あまり強調はされていませんが、淡々とした記述で日本の企業統治の問題点や企業内の人間関係の在り方を浮き彫りにしています。最近あまり本を読まないのですが、久しぶりに400頁近い大作を楽しみました。金沢周辺の地名や場所は懐かしいところがたくさん出てきました。
戦後昭和の企業戦士の生き様がリアルに描かれており、高度成長を支えた現場の息遣いが伝わってきて興味深いです。遠くなりつつある昭和の世相を垣間見る思いです。文章が簡潔で分かりやすく、北アルプス登山の風景描写などは、その美しさと歯切れのよさに引きこまれました。
行員を業務を遂行するための労働力(ピース)としてみるより、仕事に貢献しつつ達成感、満足感を追求する人間として尊重したいとの基本姿勢は、私も全く同感です。職場の旅行でチームで余興を演じる場面、とても面白かったです。
銀行の難しい業務も私のような者にも理解できるように書かれていました。スキー旅行、登山の場面は殊に素晴らしかったです。社内旅行の「ヒラがこけたら」の場面はひとりで大笑いしてしまいました。支店長に抱きつかれた主人公を想像して全く笑いが止まりませんでした。
主人公が銀行という組織と仕事と仲間に出会って感じたこと、学んだことが淡々と日記の如く描かれていきます。その目は冷静で、よくぞここまで克明に記せたものだと感心しました。実に面白く、あの時代の雰囲気が映像をみているようで見事です。あの時代、若者はいつも集まって歌ったりキャンプに行ったりしたものですね。自分も同じ経験がありますので、懐かしく思い出しました。

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