越後屋の突撃レポート






 あーあーマイクのテスト中です。
 どうですか?ちゃんと聞こえていますか?
 
聞こえているぞ〜〜〜。ノイズは入るけどな。
 それは、仕方ないですね。なにせ、イギリスと日本の間ですから。
 
まぁ、しゃーねな。
 ノイズはいいけれど、少年中継よろしくね! 本当はあたし達だって行きたかったんだから。

 お任せください。
 僭越ながらこの越後屋。立派にこの大役果たして見せます!皆様に何語不自由させることなく、現場を包み隠さず正直にお伝えするまで、日本には帰りません。
 
楽しみにしていますわ。




















 さて、ここはイギリス。女王様と紅茶と幽霊のお国。そして、いまだに階級主義のお国だったりもします。この国の上流階級ともなれば、晩餐にパーティーなんて日常的で何も珍しいことではありません。
 だが、この日彼らにとっては青天の霹靂とも過言ではないパーティーといってもいいでしょう。
 主催者は、SPR・・・英国心霊協会。もちろん、スポーンサーがたんまりと出資しているからこそ開けているですが・・・それじたい、珍しいことじゃないみたいですね。こういうことは、よくあるそうですから。
 あ、自己紹介が遅くなってしまいましたがこのたび、進行役をおおせつかったのは越後屋こと安原修。僕です。皆様最後までお付き合いくださいませv
 さて、パーティーに慣れ親しんでいるイギリスの紳士淑女の皆様の度肝を抜かずに入られなかったのは、そのお題目にあったんです。
 なにせ、そのお題目とはあの「オリヴァー・ディビス氏婚約披露」なんですから。あ、今『披露』ではなくて『疲労』になっちゃいましたv きっと、今回の主役にとってはこちらの字のほうが的確かもしれないですねぇ。
 我々が所属する、SPR日本支部に出入りしたことが一度でもあれば、以外でもなんでもなく、ごく当たり前すぎていまさら?というような出来事でしかありませんが、そのことを何一つ知らなかった妙齢のご婦人方から見れば、寝耳に水状態でしょう。
 いやぁ、できれば招待状を見た時の表情をぜひ一度見てみたかったですv あ、尻尾出ていましたか?まずいまずい・・・こんな公の場所で見せてはいけないものが・・・あ、カメラさん消えました?
 ちなみに、今回カメラは我らがメカニックのリンさんが回してくれていますので、映像のほうもバッチしです。プロデューサーは森女史ですので完成が楽しみですねぇ〜〜〜〜〜♪
 おっと、話がそれてしまいました。
 その道では知らぬものなどいないといわれるほど有名な『オリヴァー・ディビス』氏は僕の直属の上司であり、その美貌といいその性格の悪さといい、右に出るものはいないですね。
 その、彼の心を射止めたのは我等がアイドル『谷山麻衣嬢』。彼女はごくごく普通の日本人女性・・・ではないですが、まぁイノシシお嬢さんと思っていただければ間違いないかと。
 このお二人、すでに付き合いだしてン年だというのに、人目もはばからないほどのバカップルぶり。婚約という形が整い結婚すれば、少しは落ち着くのかなぁ・・・と淡い期待を抱くものは誰もいないほどの、バカップル。
 ですが、そのことを知っているのは日本支部で働く関係者+αのみです。
 イギリスの紳士淑女の皆様は、そのお二人を今宵初めてここでみるのですv
 楽しみでしょう?










 さて、開場時間が来たようですね。ぞくぞくと、男性にエスコートされて着飾った女性が入場してきます。
 当然、皆様盛装です。男性はタキシードもしくは燕尾服。女性は皆様イブニングドレスをお召しになっていて、眼の保養・・・になる方もいらっしゃれば、さりげなく逸らすのが一番という方もおられます。まぁ確実に後者の方が多いというのが哀しい現実ですが。世の中そう言う物かもしれませんね。
 イブニングドレスはどちらかというと露出が多いドレスであり、肩や腕、胸元や背中などさらにはスリットなどが入り体のラインを強調したような服装が多いのですが・・・・これもよしあし、人の好みさまざまと申しておきましょう。
 この日、僕ももちろん盛装です。なんだか、七五三に戻ったような気分でどうも落ち着かないのはやはり、着慣れないものだからでしょうか。一応既製品ではなくオーダーメイドにしたから、体系に合わないということはないと思うのですが・・・・やっぱり日本人らしく紋付き袴に刷るべきだったか・・・・やはり、リンさんのようにびしっときまりませんねぇ。体格の差ですから、仕方ないのでしょうが。
  森女史は淡いグリーンのドレスをお召しになっています。ふんわりとした笑顔を浮かべる彼女にはとってもお似合いです。
 さて、会場内はいつの間にかSPRの職員関係者、出資者などであふれかえっております。会場内に入られるなりそこかしこで、噂話に花を咲かせています。どうやら、博士が選んだ方がどんな女性なのか、重箱の隅を突っつくように観察なさるおつもりのようですねぇ。
 さて実は僕、谷山さんがどんなドレスを用意しているのかぜんぜん知らないんです。知っているのは実はデイビス夫人だけ。エスコートするのは博士ですから、我々の誰よりも先にご覧になられるとは思うのですが・・・・その表情を撮れないのが残念です。
 さて、いよいよ主役の登場が知らされました。
 さすが、博士というべきでしょうか。文句のつけようがないぐらいにタキシードが似合っております。そして、博士の腕に自分の腕を掛けている女性が、我等がアイドルの麻衣嬢・・・実に、そのドレスがよく似合っております。
 背のあまり高くない彼女はロングドレスを着ると余計に背が詰まって見えてしまうらしいので、見栄えが悪くなるとか。だから、彼女が着ているドレスは実は膝上なんですが・・・それは、背後に回ると膝裏まで長くなっている不思議な形をしていました。彼女の歩みに合わせてドレスのドレープがふわり・・・ふわり・・・と波打っているようです。
 色は胸元が白いんですがドレスの裾に向かうにつれて赤みが増していっています。見事なグラデーションとしか言いようがないですねぇ。胸元はそれほど大きくは開いてはいませんが、彼女のほっそりとした鎖骨が綺麗に強調されるような、Vの字型のネックレスは輝きを抑えたゴールド。耳元で輝くのは真珠。化粧はおさえ目ですが、ポイントはつかんでいますね。
 おお・・・・しかし、背中はばっくりと大胆にも開いています。綺麗な白い背中はぜひ見せるべき・・・ということなんでしょうか?しかし、博士の腕が背に回っていてしっかりとガードしているあたり・・・・笑いがこみ上げてきます。
 さて、遠巻きに二人を見ていた紳士淑女の方々ですが、反応は真っ二つといってもいいでしょう。
 まず、紳士の方々。こちらは、妙齢のご令嬢をお持ちでない紳士は、お二人を好意的な眼で見ているようです。谷山さんも美人というわけではありませんが、実に愛らしいですし人懐こい笑顔が魅力的ですので、着実に好感度を上げていっているようです。
 が、そうでないかたがたが・・・およそどのぐらいいるのでしょうかねぇ。妙齢のご令嬢方を持つ、紳士淑女の方々は『私の娘のほうが何倍も魅力的なのに』とぼやいておりますし、その妙齢のご令嬢方は『島国の黄色いサルと付き合うなんて、正気の沙汰とは思えない』と嘆いています。でも、日本のことを島国とおっしゃいますが・・・イギリスも四方を海に囲まれた島国だと思うのは、僕の気のせいでしょうかね?
 おや、陰口ですまなかったご令嬢もいらっしゃるようですね。だがしかし・・・喧嘩をふっかけているのはなぜか、若い紳士です。僕が推察するのにそのご令嬢の取り巻きの一人・・・といったところでしょうか?
 あ、リンさんあの青年はどなたですか?
 え?バークレイ伯爵の息子さんでジャックフォード子爵?
 なんでも名のある貴族の方々は爵位を二つ三つ持っているのが当たり前で、跡継ぎのお子様は別の爵位を名乗っているそうなんですが・・・面倒ですねぇ。一つで統一すれば覚えるのも楽なんですが。
 ですが、彼の場合はバークレイ伯爵の息子として名が通っているよりも、レディー・カトレーナの腰ぎんちゃくとして有名らしいです。その、レディー・カトレーナは王家の遠縁の遠縁に当たるそうなんですが(まぁ、長い歴史のあるお国の上層階級の人間なら王家の遠縁の遠縁は珍しい物ではないようですが)・・・・その昔、博士に袖にされているらしいですねぇ。
 レディー・カトレーナは今回いらしていませんが、彼女の雪辱を晴らそうとナイト気取りでいらっしゃるのでしょうか、彼は白い手袋をはずすと博士に向かっていきなり、投げつけております。
 これは、もしかしなくても・・・・
「私は貴殿に決闘を申し込む!
 レディー・カトレーナのお心を踏みねじっておきながら、このような馬の骨と婚約するなんて、よくもまぁ厚顔無恥にも人前に顔を出せる。
 私はイギリス紳士として、レディー・カトレーナの名誉のためにも貴殿には、レディー・カトレーナの心を傷つけた報いを受けてもらうぞ!!」
 肩で荒い息をしながらジャックフォード子爵は言い放ちますが、対する博士は表情一つ変えていません。自分の頬を打ちつけた白い手袋を払い落としたのち、漸く口を開きました。
 会場内は博士がこの決闘にどう答えるのか、この後どうなるのか、わくわくどきどきと待っているのがつたわってきます。
 はい、彼らは暇をもてあましているのが手に取るようにわかる反応を返しています。
 が、僕は彼らが望むような答えは返ってこないと思うんですよねぇ・・・・おそらく皆様、このような侮辱は耐えられない。決闘は受ける。と答えるとでも思っていらっしゃるのでしょうが・・・・
「レディー・カトレーナ?」
 博士は疑問系で呟いております。
 あ、やっぱり僕の予想はあたっていそうですねぇ。
「どなたのことでしょう?」
 表面上は笑顔を浮かべておりますが・・・・おや、博士殿。ご婚約者が怯えていらっしゃいますよ?
 傍らにいらっしゃる、谷山さんは可愛そうに・・・すっかりと、博士の不機嫌オーラに怯えています。ただでさえ、見世物小屋の珍獣扱いされて不機嫌は当社比二百倍になっているのに・・・
「よりにも寄って、すっとぼけるきか。紳士らしくないぞ!
 素直に認めたらどうだ!!」
「素直に認めるも何も、覚えていないことを認めることはできませんが?」
 慇懃無礼とはこのことでしょうね。表面上あくまでも柔らかで紳士的な態度をとっていると思われるのは博士なんですが・・・僕の目にはどうしても傲岸不遜としか見えないんですよねぇ・・・・タキシードにメガネは変だから、コンタクトにしてみたんですが・・・僕の体質にはあっていないんでしょうかね?
「貴殿は、自分に思いの告白をして下さった、勇気ある女性のことを覚えていないというのか!」
 今にも胸倉をつかみかからんばかりの勢いに、隣にいらっしゃる谷山さんのほうがはらはらしっぱなしです。おろおろと、二人を交互に見ているさまはなんとも愛らしいですねぇ・・・・
「申し訳ありませんが、いちいち覚えていられませんし、そんな無駄なこと覚える気もない」
 ええそうでしょうとも、あの博士はその美貌に目をくらませた幾人もの・・・それこそ数えるのもばからしいほどのご婦人方が、人目もはばからずアタックし続けたそうですが・・・誰一人、関心を寄せることなく玉砕していったらしいですからねぇ・・・いちいち、その都度相手このことなんて覚えていられないでしょうし、あの博士が研究とお隣に立つ麻衣嬢以外のことでわざわざ、覚えるなんて真似するはずしませんし。何よりも・・・
「いい加減時間の無駄です。お帰り願えますか?」
 時間の無駄ということを嫌う方ですから。
 そして、博士はなんと自分に叩きつけられた手袋を、青年に返却してしまったのです。これには、まさしく周囲も唖然としています。
 日本人たる僕には今ひとつ理解できないのですが、手袋を叩きつけられてそのまま返却してしまうなんて、普通では考えられないそうです。そもそも、手袋を投げつけるなんて相手に対する比例極まりない行いですから、これが一世紀も前ならまさしく生死を分けた決闘になってもとうぜんらしです。
 しかし、エスカレートしていくジャックフォード子爵を止める人はおりませんねぇ・・・僕なら思わず「殿!殿中でござる!」とやってしまいたくなってしまうんですが・・・・・逆に言えばいまやらずしていつやる!?な感じですよねー
 おっと、また話がそれてしまった。
 今にもその場から谷山さんを伴って去っていこうとする博士ですが、その背中に向かって負け犬の遠吠えが響き続けます。
「その女性も一体どういう趣味をしているんだか。どうせ、どこの馬骨かわからない女性だろう。玉の輿でも乗った気でいるんだろうが、すぐにぼろきれの様に捨てられるのが落ちだ。せいぜい、捨てられるまで短い栄華を楽しむことですね。おや、日本人女性の貴方には私達の言葉が判らないかな?」
 どう考えても三流以下の戯言にしか、聞こえませんねぇ。
 ちなみに、谷山さんはSPRで仕事をしていたのですから、英語はばっちり鍛えさせていただきましたv
 この、ヤスハラが教えているのですから抜かりはございませんとも。
 谷山さんは、しばらく考え込んだ後ににっこりと笑顔でおっしゃってくださいました。どうやら、ひそかに怒りを溜め込んでいたようです。
「ご忠告感謝いたします。
 その、レディー・カトレーナ・・・って方のように存在ごと忘れられないように気をつけますね。でも、私ナルのこと信じていますし、たとえうまくいかなくなってもそれをナルのせいにしようとは思いません。
 ナルが私と一緒にいたくないって言い出したときは、きっと二人にその理由があると思いますし・・・私は、ナルとずっと一緒にいたいから、ずっといつまでも一緒にいられるようにがんばっていきます。
 失礼ですけれどその、レディー・カトレーナという方はナルとうまくいくように努力されたんですか?ナルは人一倍記憶力のいい人です。そのナルが覚えていないんだから、何もしていないんじゃないんですか?何もしなければ人の記憶になんて残りませんよ?
 それに、その人ナルをアイドルか何かと間違えただけなんじゃないんですか?ただ、傍でキャーキャー言っていただけじゃ、誰も振り返ってくれませんし。ナルも一人の人間ですよ?自分を人としてみていない人のことなんて覚えていないと思うんですけど?本当にナルのことが好きで、一生懸命なったんですか?
 ご本人が来ないで、こうして人任せにうらみつらみを言うなんて、とてもそうは思えませんけれど」
 う〜〜〜〜ん、谷山さんにしては珍しいことに皮肉の嵐です。
 よっぽど腹に据えかねているのでしょうか。
 博士のパートナーとして紹介されているため、いつものイノシシぶりは発揮されていませんが・・・・・はて、それもいつまで持つことでしょうか。
「麻衣、こんな遺跡に何を言っても無駄だ。
 これ以上この場にいても時間の無駄にしかならない。
 見世物小屋の飾りも一時間もいれば充分だろう」
 博士は、どうやらイノシシ娘とならないうちに帰るつもりでしょうかねぇ・・・
「は、臆病者。
 売られた喧嘩が怖くて逃げるか。
 その地位も実力で得たものか、怪しいものだな。いや、確かに実力か?どうせ、生まれながら持っているその顔で得たものだろう。だから、逃げるんだ。違うか?」
 よりにもよって、実力で得たものじゃないといいますか・・・この、実力でしか認められないような世界で。
 しかし、これでも所長は表情一つ変えず谷山さんを促そうとしましたが・・・・やはり谷山さんです、いや。それでこそ僕らの谷山さん。それともイノシシ娘というより瞬間沸騰湯沸かし器といったほうがいいですかねぇ。
 自分を促すべく背に回った渋谷さんの腕を振り払うと、無言のままジャックフォード子爵の前に歩み寄って、その顔を見上げると思いっきりよく腕を振り上げ・・・・
『よりにもよってあのナルが、自分売って得た物だってあんたは言うの!?
 しんじらんない、どこが紳士と淑女の国イギリスよ!陰険で陰湿の国じゃない!!
 どうしてナルが私と婚約したからって自分売ってまで得たものだって言うの!?普通なら言う立場逆でしょ!!ナルが金持ちの女の人と結婚するために、私が振られて始めて言われる台詞じゃない!!あんた、頭悪いんじゃないの!?
 だいたい、ナルは対人恐怖症なんだからね!むやみやたらと人に自分を触れさせるわけな・・・・もがっっっっにゃ、にゃりゅ、ひゃましにゃいれよ!!』
 谷山さんが怒りに任せてぎゃんぎゃん日本語でわめいていると、背後から博士が羽交い絞めにして口をその手のひらでふさいでしまっています。
『日本語で彼に言っても通じないと思いますが?』
 と、博士が言ったところでモガモガと暴れていた谷山さんは、ふと我に帰ります。
『日本語・・・で言っていた・・・?』
『日本語以外の何物でもないな。周りを見ればわかるだろう』
 確かに回りはあっけにとられています。谷山さんの問題ある発言に肩を震わせているのは、この中にいてごく少数。日本語の理解できる人間達だけです。
『な・・・ナルが、あの、傲岸不遜で人を人と思わない唯我独尊の塊が・・・・対人恐怖症・・・・・だ、だめ・・・私もうたえらんない・・・・』
 森女史など人目もはばからず大爆笑。涙を流しておなかが痛いといいながら笑っているし、リンさんもさすがにいつもの無表情と取り繕えない様子。他にも、日本語がわかってしまった方はなんともいえない奇妙な表情をしている方々が数名。
 ですが、確かにいいえているかも知れませんねぇ。
 博士はただ一人を除けば、誰かに接触するときは絶対に身構えていますし、不意に触れられるといまだに硬直するそうですから。確かに対人恐怖症・・・というか、接触恐怖症・・というより、接触嫌悪症といったほうがより正解かもしれませんが。
 と、僕がおっしゃると谷山さんはぽんっと手を叩きます。
『あのね、ナルは接触恐怖症なの。だから、ムヤミヤたらと人に触れさせるわけないでしょ。だから、そんな変なこというのやめてくれないと、名誉毀損で訴えてやる。
 と、英語で言ってください。安原さん』
 さすがに、『接触恐怖症』とか『名誉毀損で訴えてやる』と英語でどういっていいのかわからないのでしょう。僕だって必要になると思いませんでしたから、そんな言葉教えていませんでしたし。
 さて、ここで漸く僕のみせばが来ましたv
 くるり・・・と振り返った僕は、いつもどおりのメガネを掛けております。もちろん、コンタクトは神業にてはずしましたv。さて、博士が僕の名を呼びかけましたがそれよりも早く、僕は口を開きました。
 世の中すべて早い者勝ちなんですv
「博士は、実は接触恐怖症(本当は嫌悪症の方だと思いますが)なんですよ。それは、皆さんご存知ですよね?」
 言い含めるように周囲を見渡して言うと、確かにそうかもしれない・・・という声があちらこちらから漏れてきました。
 もちろん、こちらにいらっしゃる皆様は博士の能力のことをご存知のはずですから、僕の言わんとすることがわかったのでしょう。
「その博士が唯一触れられる女性が、当然ですがこちらの麻衣嬢なんです。
 いやぁ、もう毎日毎日人目もはばからずのラブラブ振りで、僕達日本支部の調査員は毎日のように当てられっぱなしで、目のやり場に困っちゃいますよねぇ。リンさん」
 いきなりリンさんはふられても、苦笑を浮かべながら軽く流してしまいますが、いつも無表情のリンさんがすでに苦笑を浮かべている時点で、信憑性は一気に跳ね上がったの間違いなし。どよめきが生まれましたからねぇ。
「近い将来絶対に文句なしに可愛い赤ちゃんが、皆さん拝めますよ。
 ねぇ、所長に谷山さん?」
 僕が最後に話をお二人に振ると、博士は疲れたような溜息を漏らし、谷山さんは真っ赤になって博士の胸の中に顔を隠してしまいます。
「おや・・・谷山さん、首筋に赤い痕が・・・・虫にでも刺されました?」
 と、僕がぼそりと呟くと、谷山さんは真っ赤になって涙目で博士をにらみつけています。
「ナルゥ〜〜〜〜あれほど、つけるなっていったのにぃ〜〜〜〜〜〜」
 僕が楽しげな笑みでお二人を見ていることに気がついた、博士は実に嫌そうな眼で僕をにらみつけてくれました。
 だって、本当は谷山さんの首には何も跡なんてついていません。とりあえず、鎌を掛けてみたのですが・・・やはり、純粋素直な谷山さん。見事に引っかかってくれました。
「何もない」
「ウソツキィ〜〜〜〜ナルのバカァ〜〜〜」
 ぽかぽかとその胸に顔を伏せながら叩いている谷山さんは実に、初々しくてかわいらしいですねぇ・・・ちなみに僕の英語に釣られて、谷山さんも英語になっているので、周りもことの展開がなんとなくわかっていらっしゃるようですねぇ。
 どうやら、これはダミーではないらしいぞ。
 という声も上がっています。
 中には、博士が貴族との結婚のわずらわしさから、日本の身寄りのない娘との偽装結婚もどきでもしているのかと思っていた方々もいらっしゃったようです。
「つけていないものを馬鹿呼ばわりされるいわれはないが?」
 といくら言ったところで、谷山さんは聞く耳を持ちません。やはり、日ごろの行いがものを言うのでしょうかね。
 そこで、博士はちらり・・・と僕のほうへと視線を向けていました。その、視線の語る意味を間違える僕ではございませんとも。
 ええ・・・後始末は、すべて引き受けましたから。どうぞ御心のままに。
 ぼくは、気持ちをいっぱい込めた微笑を返しました。すると、博士は疲れたような溜息を漏らすと、次の瞬間口元に笑みを刻みました。
「そうか、そんなに痕が欲しかったのか。それは失礼した」
「な、なに言ってんの!? つけるなったのにつけ・・・い・・・・いいいいいい!?」
 谷山さんのすっとんきょな声は、実に不似合いでしたが・・・まぁ、望みどおりの光景となったことは間違いなしでしょう。博士は、皆様に何が真実なのかを雄弁なまでに行動で語ってくれましたから。


















              ぶち・・・・ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ































「ってなんで、ここで切れているのよ!!」
 松崎さんの、怒声が響き渡ります。
 いや・・・なんでっていわれても・・・おさむこまっちゃうv
「ビデオが壊れたからです。いやぁ、テープが壊れないだけマシでした」
 もちろん、壊したのは誰かなんていわなくてもわかると思いますが。
「せっかく一番いいところなのに。
 で、どうなったのよ」
 身を乗り出さんばかりの勢いで聞いてくるのは、松崎さん。
 遠慮がちに・・・それでも好奇心が隠せないのは原さん。
 我が愛しのダーリンは、最後は見れなくて良かった・・・と一人安堵の溜息をついたとたん、やはり気になるのはその後の娘の安否(笑)
 皆ににじり寄られても、僕はにっこり笑顔で・・・・・









「それは、ひみつですv」









 と答えただけ。
 だってねぇ・・・・・・
 魔王様のお怒りの鉄槌は、一介の人間である僕の手には負えませんし。
 

 今頃哀れな子羊ちゃんが、飢えた狼さんの餌食になっているかどうかは・・・魔王様だけが存じ上げていることでしょう。


 そうそう、ちなみに腰ぎんちゃくさんはその後見事なまでに恥をかいたことで、レディー・カトレーナからも見放されたそうだとか・・・いや、その彼女自身も社交界に出てこなくなったとか・・・
 イギリスの社交界って、紳士淑女の世界じゃなくて、魑魅魍魎が跋扈する魔物の世界ですかねぇ?
 くわばらくわばら。






☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆


これも、8年ほど前のいつだったかに書いた話です(笑)
当時はリクエストを受け付けていたのですが、その中の一つでございました。




                                2009/02/07 再UP