涸沢小屋をベースに穂高を逍遥

(1973年9月)

 
涸沢カール
涸沢小屋からカールを一望

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岳人のメッカ、涸沢へ

 9月21日(金) 新宿
 9月22日(土) 松本 → 新島々 → 上高地 8:05 → 8:50 明神 → 9:50 徳沢 → 11:00 横尾 12:00 → 13:05 涸沢出会い → 15:00 涸沢小屋
 筆者が所属していたシステム部のYさん、K嬢、N嬢の4名で、9月の連休に山に行くことにした。Yさんは学生時代から山岳会に所属している本格的な岳人で、名古屋支店以来の山仲間である。N嬢は筆者と同じ課にいて、山に行ってみたいといっていたので誘った。
 Yさんと相談し、女性に山の良さを知ってもらうには涸沢がよかろう、ということになった。
 新宿発の夜行は超満員だった。指定席が取れず、早くから並んだが、かろうじて女性陣だけ座ることができた。通路もギュウギュウ詰めで、立ちっぱなしだった。
 翌朝、松本で松本電鉄に乗り換え、新島々からバスで上高地に着いた。薄墨色の霧にカラマツが滲むように浮かんでいる。雨の出だしとなり女性陣には気の毒だった。明神、徳沢と山荘の軒先を借りて休憩する。
 横尾で雨が止んだ。昼食の弁当を開く。
 梓川にかかる長い橋を渡り、横尾谷にはいる。千古斧をいれぬ深い森の道。谷が狭まってきて、屏風岩が見えてくる。首が痛くなるほど見上げる大岩壁だ。横尾谷にかけられた木の橋を渡り、涸沢右岸沿いの登りとなる。荷物は重いし、ほとんど寝ていない夜行疲れもあってあごを出す。しかし、女性の手前、弱音は吐けない。沢から離れ、ダケカンバの道を行く。再び涸沢が近づき、川原に出る。ガスで眺望はまったく効かない。いつのまにか石畳を敷き詰めたような道になっていた。その時、さっとガスが上がり、涸沢を取り巻く岩峰が驚くほど近くにそそり立っていた。色とりどりのテントが現れ、右手の小高い丘の上に涸沢小屋が見えてきた。しかし、そこからが長かった。なかなか近づかない。もう一度休憩しようかと思う頃、回廊のような道に導かれ、涸沢小屋に到着した。
 小屋のテラスで食事の支度を始めた。ジャガイモやニンジンを刻むのは女性の方が上手い。楽しい食事。天気が回復し、前穂がオレンジ色に染まる。アーベントロートの美しさに女性陣もうっとり。
 その夜の小屋の混雑ぶりは特筆ものだった。荷物は全部廊下に移し、部屋の奥から互い違いにぎゅうぎゅう詰められ、寝返りも打てない。まさに鰯の缶詰だった。

ザイテングラードから奥穂へ

 9月23日(月) 涸沢小屋 8:05 → 10:50 穂高岳山荘 11:20 → 12:12 奥穂高岳 12:40 → 14:20 涸沢小屋
 重く雲が立ち込めていたが、奥穂に向かう。砂の上に浮かぶ島のようなザイテングラードに取り付く。ハイマツの中を登って行くと、近くでハーケンを打つ音が聞こえてくる。着々と高度を稼ぎ、穂高岳山荘の前に出た。
 一休みしてから、小屋の横のハシゴを登り始める。鎖場もあるが特に怖いところはない。展望が効かないので、足元を見ながらひたすら登る。大きなケルンと、展望表示盤がある頂上に着いた。ジャンダルムも前穂もミルク色の霧の中。N嬢、K嬢に穂高の大展望を見せてやれなかったのは残念だった。ストーブで湯を沸かし昼食。登頂後の食事は楽しい。暖かい紅茶がうまい。頂上付近は大小の岩が積み重なっていて、浮石を直そうとしたら、傍の岩がグラッときたのでびっくりした。穂高の頂上で落石を起こしたら大事だ。
 それなりに満足して、同じ道を戻った。
 
前穂北尾根 前穂高岳
前穂北尾根 前穂高岳
 
吊り尾根
前穂と奧穂の稜線、吊り尾根

北穂往復後、憧れの徳沢園に泊まる

 9月24日(月) 涸沢小屋 5:55 → 7:50 北穂高岳 9:10 → 10:30 涸沢小屋 11:45 →13:40 横尾 → 14:45 徳沢園 
 穂高がモルゲンロートに燃えている。今日は北穂に向かう。北穂沢に沿って、ハイマツの急斜面を登る。斜面を横切り、南稜に取り付く。まったく気持ちの良い眺めだ。カールの底のなだらかな線が、徐々に傾斜を増して、涸沢岳、奥穂、前穂の稜線に突き上げる。白い雪渓、グレーの砂礫、緑のハイマツ、黒い岩峰、青い空。爽快な高度感。涸沢は我が国でもっともアルペン的な景観を誇示している。
 なおも乾いた岩場の道を快調に登り、北穂に着いた。恐る恐る滝谷を覗く。垂直に落ち込む暗い谷を見ていると、高所恐怖症ではないけれど、チンチンがムズムズしてきて落ち着かない。かつて槍ヶ岳から縦走途中に泊まった懐かしの北穂小屋は健在だった。それにしても北穂小屋はきわどいところに建っている。背後の滝谷を見たら誰でもそう思うだろう。
 日当たりのよい安全な場所でゆっくり休憩。心ゆくまで四周の展望を楽しみ、満足して小屋に戻った。
 
前穂北尾根 朝焼けの穂高
今日は青空の前穂北尾根 朝焼けの穂高連峰
 
北穂山頂 涸沢
北穂高岳山頂にて 涸沢を見下ろす
 人の出払った小屋は静かなものだ。荷物をまとめて下山する。
 今宵の宿は徳沢園である。「氷壁」の宿として有名であるが、筆者は徳沢の緑の草原にあこがれていた。宿で荷物を解き、緑の芝に寝転んで遊ぶ。それから付近を散策。何があるでもない静かな山荘。夜が更けると、ちょっとロマンティックな気分になる。
 
徳沢園
徳沢園の草原
 
 翌日、明神池をまわって、上高地へ出た。
 
明神池 涸沢
明神池に流れ込む沢 明神岳
 
岳沢と穂高連峰 穂高をバックに
岳沢と穂高連峰 穂高岳をバックに

 松本ではYさんご推奨の「鯛萬」でランチを楽しむ。登山靴でドタドタはいるのは気が引けたが、ちゃんとしたフランス料理で、女性歓迎山行の掉尾を飾った。

40年ぶりに涸沢小屋と徳沢園を再訪

(2013年9月)


初日、涸沢小屋へ

 ワンゲルの岳友O氏と涸沢小屋へはいり、翌日奧穂に登った。今回も天候はイマイチだった。
 
奧穂 前穂
涸沢小屋より奧穂を望む 前穂高岳
 
屏風の頭
屏風の頭

ザイテングラードで転倒、何とか徳沢園に下る

 
奧穂山頂
奧穂山頂は霧の中
 
穂高連峰 徳沢園
徳沢園より穂高を見上げる 「氷壁」の宿、徳沢園
 
梓川から穂高連峰 常念岳
梓川河畔より穂高を見上げる 常念岳が見える
 
岳沢を見上げる
河童橋より穂高連峰を見上げる

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