温泉に始まり温泉に終わる白馬3山の旅
(1974年9月)
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杓子岳鞍部より白馬岳を見る |
日本一高い野天風呂から山岳展望
9月21日(土) 前夜新宿発 → 白馬 タクシー → 猿倉 → 白馬鑓温泉
昨年の奧穂、北穂に続き、連休山行を企画した。メンバーはKさん、Yさん、筆者のオヤジ3名に紅一点のN嬢が花を添える。今回は白馬3山とした。大糸線に乗ったなら、車窓から三角定規を3つ並べたような山を見つけて、歓声を上げたことがあるだろう。ことに冬期、白く輝く神々しい姿は息を飲むほど美しい。白馬3山は一度は登ってみたい山である。
新宿を夜行で発ち、翌朝、白馬駅でいち早く改札を抜け、タクシーに乗り込んで猿倉へ。
猿倉山荘左手の坂道を登り、すぐに白馬大雪渓への道を分ける。ブナの樹林帯にはいると、もはや喧しい人声はない。小日向山の尾根を越すと、下りとなる。クマザサの中のぬかるんだ道が続く。双子岩を過ぎ、しばらく山腹を捲き、杓子沢の雪渓を横切る。泥の靴跡が雪面を汚している。続いて鑓沢の雪渓を斜上し、あとは小屋を目指して一気に登る。
鑓温泉の小屋は岩壁を背に建っていた。小屋の前に露天風呂がある。高度2050メートルは、我が国の最高所にある温泉ということだ。さっそく風呂にはいる。湯から顔だけ出せば眼前にさえぎるものはない。あれは妙高か、こっちは戸隠か、温泉に浸かりながらの山岳展望は最高の贅沢だった。竹矢来をかけた女性用の浴槽もあったからN嬢も楽しめたと思う。雪崩の起こるところなので、冬には小屋を解体するそうだ。トイレも秀逸。下を湯が流れているから、清潔そのものである。ただし、眼鏡が曇り、長居すると衣類が湿ってくる。
早くも雪を見る
9月22日(日) 鑓温泉 → 白馬鑓ヶ岳 → 杓子岳 → 白馬岳 → 三国境 → 小蓮華岳 → 白馬大池小屋
残念ながら朝風呂にはいる余裕はない。
出だしから急な岩場が続き、薄氷が張っている。緊張しながら登っていくと、ところどころに薄い雪が積もっている。昨夜の雨が、上部では雪になっていたのだ。潅木帯をぬけると草原になる。夏には立派なお花畑だろう。
森林限界を抜け、大出原(おおでっぱら)に出る。わずかに残った雪渓も、もうすぐ新雪で厚く覆われるだろう。薄っすらと雪化粧した白馬鑓の鮮鋭なフォルムに息を飲む。
砂礫をジグザグに登り、主稜線の鞍部に出た。高曇りの空の下、剣岳が真っ先に目にはいる。
北に進路を取り、雪をまぶした砂礫の道を登り詰めると、白馬鑓ヶ岳山頂だった。突然、雲が破れ、青空が拡がってくる。先の尖った白馬岳がすぐ近くに現れた。背後の空より薄い青は日本海に違いない。振り返れば蝙蝠のような形をした鹿島槍も見える。ヤッケを羽織ってたっぷり休憩。
さてと、楽しい縦走再開。富山側に斜めに切られた道をザクザク下る。杓子岳との鞍部に出ると、路は杓子岳の横腹を捲くように付いている。杓子岳近くの岩陰で昼食。Kさんはアルミ水筒に赤ワインを詰めてきた。Yさんはカナディアンベーコンを取り出した。カナディアンベーコンというのは牛肉のベーコンで、わざわざ明治屋にいって買ってきたそうだ。フランスパンにベーコンを載せ、ワインを飲みながら食べると最高にうまかった。
白馬岳との鞍部まで下ると、最後の登りとなる。白馬はさすがに大きい。見上げる姿は雄大だ。富山側は穏やかだが、信州側は断崖になっている。丸山を越え、大雪渓からの道を合わせると、白馬山荘は近い。山荘付近は人が一杯。そのまま通り過ぎて山頂に出る。一等三角点があり、来し方を振り返れば、後立山の峰々が重畳と連なっていた。
痩せた稜線をぐんぐん下れば、三国境だ。名前のごとく富山、新潟、長野の県境である。雪倉岳への道を分け、小蓮華岳の登りにかかる。山頂には大きな鉄剣が2本立っている。前方左手には雪倉岳、朝日岳と女性的でふっくらした山が続いている。眼下には白馬大池が静かに佇んでいる。森林限界を越えたハイマツと砂礫の世界なのに、まるで険しいところがない。残雪の頃、ここらをゆっくり歩いたら気持ちがよいだろう。
大池を目指して緩やかな尾根を下り、池のほとりの白馬大池小屋に着いた。立派な造りの小屋だった。
少し休んでから池の周りを散策。大きな岩を飛び伝いながら白馬乗鞍岳の登り口まで行った。なだらかなハイマツの丘に囲まれた池は明るく開放的だった。
夕食の後、小屋の外に出てみると、満天の星だった。
蓮華温泉で汗を流す
9月23日(月) 大池小屋 → 蓮華温泉 → (バス)平岩 → 新宿
今日は2ピッチの下りのみ。体も軽く、荷も軽く、ダケカンバの林の急坂を抜け、オオシラビソの森にはいる。天狗の庭を過ぎると、ブナ、ツガ、シラビソの深い原生林である。やがて蓮華温泉の赤い屋根が見えてきた。
さっそく風呂に飛び込む。本館とは別の湯場があり、木の板で囲まれた浴槽で汗を流した。着替えをしてさっぱりする。古いガイドブックで見た野原の露天風呂ではなかったが、十分満足できる湯だった。
そこから少し下って、沢を渡ったところにあるバス停に並ぶ。平岩に出て、一路帰京。人気の白馬大雪渓コースを外したので、連休中にもかかわらず、静かな山旅を楽しむことができた。
2007年、逆コースで白馬三山を歩く