奇岩林立、異形の瑞牆山に驚嘆

(1985年11月)

 
瑞牆山
富士見平より瑞牆山

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岩の要塞瑞牆山の眺望は最高だった

11月3日(日) 自宅 5:00 → 8:30 瑞牆山荘 → 9:40 富士見平小屋 → 11:40 瑞牆山 12:00 → 13:20 富士見平小屋 → 14:40 瑞牆山荘 → 19:30 自宅
 初めて瑞牆山という山名を見たとき何と読むのか分からなかった。「みずがき」と読むと知って字面も語感も気に入った。その特異な景観はつとに知られていたが甲州の奥深くにあるその山は容易に見ることはできない。もう少し南に位置していたら中央線の韮崎あたりで甲斐駒ケ岳の偉容と対峙して車窓を賑わしていただろう。
 1985年10月13日に私は息子を助手席に乗せ瑞牆山を目指して家を出た。道路地図を頼りに増富温泉から金山を経由して砂利道を慎重に運転して瑞牆山荘の駐車場に車を駐めた。そこから富士見平小屋に向けて歩き出して間もなく雨が降りだし本降りになってきた。仕方なく引き返した。来たときに通った道を帰ろうとしたが反対側に向かう道路は舗装されていたので黒森方面を下って見ることにした。ずっと良い道で塩川で来たときの道に合流した。
 翌月の3日、文化の日は絶好の行楽日和だった。今回もまた息子と二人で瑞牆山に再チャレンジすることにした。中央高速の須玉ICから前回見つけた黒森経由の道を通って瑞牆山荘に着いた。登山靴に履き替えすぐに出発。紅葉の盛りを過ぎた林の中の緩やかな道を落ち葉を踏みしめて登る。1ピッチで富士見平小屋に着いた。左側の天鳥川の対岸に瑞牆山がそびえていた。名残の黄色い葉を付けた樹林の上に灰白色の岩峰群と隙間を埋める濃緑灌木のツートーンカラーのオブジェが眩然と佇立していた。カッパドキアの奇岩にも似て日本離れした風景だ。この絶壁のどこを登るのか不安を感じるほどだった。
 一休みして、直進する金峰山への道を分け、尾根の左を斜めに下り天鳥川の岸に降り立った。丸太を何本か束ねた橋を渡れば瑞牆山の登りとなる。深閑とした針葉樹の急斜面に一直線に道が付けられている。大きな丸い岩の真ん中が割れている桃太郎岩など至る所に花崗岩の大岩が散らばっている。要所要所にハシゴや鎖が付けられているので効率的に高度は稼げる。木の根や岩角を掴み身体を引き上げる。森林帯なので岩で滑ってもどこかで止まるだろうとそれほど恐怖感はない。シャクナゲも目立つ。開花期はピンクの大輪の花が咲くという。息子はまだ10歳なので段差のきつい登りに手こずると思ったが案外身軽に攀じ登っていく。大ヤスリ岩といわれる巨大な岩峰とその右に瑞牆山山頂の岩塊が見えてきた。その間をよじ登ると反対側からの道と合わさった。灌木の日影になった所に雪が融け残っていた。右に灌木の間をしばらく登ってゆくと大きな岩が積み重なる山頂は目の前だった。
 山頂の大きな岩に立ったとき遮るもの一つない展望が拡がっていた。雲一つない秋空が眩しい。眼下に大ヤスリ岩の垂直の壁面がそそり立っている。南に雪煙をなびかせる富士山がやや逆光でブルーのシルエットで中空を支配している。その右に南アルプスの長大な山並みが続く。南西には鳳凰3山の上に白嶺三山の頂稜が縁取りのように横に拡がり、仙丈岳、甲斐駒ヶ岳と続く。そして西方に八ヶ岳連峰が一望に収められる。その美しい裾野が尾を引く上に遥か遠く純白の北アルプスが筋雲のように棚引いている。さらに東に向けば甲武信岳から国師岳と伸びてきた奥秩父山脈がすぐ隣の金峰山に続いている。目を凝らせば五丈岩もそれと分かる。私の心中は幸福感に満ちていた。息子は富士山以外は知らない山だろう。私も周りの山の名を教えはしなかったが、この山に登ったことは大人になっても忘れないだろう。今年は私の百名山巡りによく付き合ってくれた。
 
瑞牆山頂 富士山
瑞牆山山頂にて長男 富士山
 
富士山と南ア 鳳凰3山越しに白嶺3山
富士山と南アルプス南部 鳳凰3山越しに白嶺3山
 
八ヶ岳 北アルプス
八ヶ岳 遥か遠くに新雪の北アルプス
 
甲武信岳と国師岳 金峯山
奥秩父 金峰山(五丈岩も見える)
 

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