羊の皮を被った狼のような両神山
(1986年6月)
 |
 |
両神山山頂を見上げる |
山頂にて |
私有地の登山道を通らせてもらう
6月1日(日) 自宅 5:35 → 9:40 白井差 9:50 → 11:15 鏡平 → 11:40 両神神社 → 12:05 両神山 12:30 → 13:55 白井差 → 18:40 自宅
両神山はなじみのない山だった。深田久弥氏が「一種怪異」と賞賛したその山容も見た記憶がない。いや視界にはいったことはあったのだろうが深田氏ほど「注意深い人」ではなかった私が気が付かなかっただけである。イザナギ、イザナミの両神を祀っているとか山名の考証にはさして興味がないが、百名山である以上、行かないわけにはいかない。そこで両神山の登山路を調べて見ると、日向大谷から清滝小屋を経て産泰尾根を登るコースと、白井差(しろいさす)から大笹沢沿いに登り一位ガタワから両神神社に直登し、日向大谷からの道に合流するコースが有力だった。白井差コースの方が距離が短く日帰りが可能だった。最近は楽な方を選ぶようになっているので白井差コースに決めた。ところが白井差コースは個人の所有地にあり、地主が補償を求めて行政と交渉中で、決裂すれば登山道が閉鎖されるかもしれないということだった。現時点ではまだ通れそうなので決行することにした。
日曜日、私は息子を連れて車で自宅を出発した。秩父方面は不案内だったが、関越自動車道の花園ICで下り、ロードマップを頼りに小鹿野町の小森川沿いに白井差の登山口に到着した。細い道路だったがスペースを見つけて駐車した。数台先着した車があったので白井差コースを利用できそうだった。
手早く山支度をして小森川支流の大笹沢右岸を歩き始めた。林道はすぐに終わり、沢沿いの道になった。深い森の中に苔むした倒木や岩が散らばっている。ほどなく滝の音がしてきて木の間から落差20メートルほどの昇竜の滝が見えてきた。沢を何度か渡り返して、いつの間にか沢も消えた。なおも登ってゆくと一位ガタワに出た。真っ直ぐ清滝小屋に向かう道と別れ、左の急斜面を山頂に向かう。右側に産泰尾根の岩壁に威圧される。岩の上を木の枝が網の目のように這う急斜面が続いていた。傾斜のきつい瓦屋根を登るような感じで手掛かりがないのでバランスを取るのに苦労する。ロープや鎖の付いている岩場の方が楽である。一頻り汗を掻いてようやく平らになった所で日向大谷からの道に合流した。両神神社の社があった。鳥居があり狼の狛犬が対座していた。信仰の山、修験道の山だったことが窺われる。しばらく穏やかな登りになって低木に覆われた山頂部が見えてきた。最後は岩場の登りとなり鎖を手繰って山頂に飛び出した。両神神社奧宮の祠があり、その横の岩に山頂標識が立っていて、後ろに岩の上を這った細い幹から枝葉が天に伸びていた。岩の間から生えてくる樹木の生命力に驚かされる。頂上はさして広くないが10名程度の登山者が寛いでいた。私たちも記念写真を撮ってから昼食休憩した。残念ながら薄い雲に邪魔されて山岳展望は得られなかった。
帰りも順調に下り、昇竜の滝で休憩した。息子は靴を脱いで滝壺の水で足を冷やしていた。空身とはいえ文句一ついわずに付いてくるのは大したものだと感心した。子どもの持久力は大人に負けないようだ。それから新緑の森の中を気持ち良く歩いて車に戻った。私有地を通らせてもらった地主に感謝しながら帰途に付いた。
両神山はほとんど樹林帯に隠されているがなかなか手強い岩の山でもあった。
(追補) 白井差コースは現在(2020年)地主に事前に申し込み1人1000円を支払えば利用できる。コースも新しくなり安全性が増したようだ。どのコースを選ぶかは登山者の権利である。
私は登山道の地権者が誰かなど考えたこともなかった。登山道には木道や鎖やハシゴなどが付けられているが誰が費用を負担しているのか深く考えることもなかった。山小屋の関係者が登山道を整備をしている姿は度々目にしてきたがボランティアでやっているのだろうと思っていた。登山者が増えれば登山道周辺の環境が壊される。登山道のメンテナンスは欠かせない。登山は国民の健康のために資するから国や都道府県の支援が望まれるが、登山者が一定の負担をするのもやむを得ない時代になっているようだ。
 |
 |
山頂の両神神社奥社 |
山頂の展望 |
 |
 |
木立の間に昇竜ノ滝が見える |
昇竜ノ滝 |
 |
 |
昇竜ノ滝で一休み |
静かな木立の道 |
Copyright Kyosuke Tashiro All rights reserved