天上の楽園、苗場山から秘湯赤湯温泉へ

(1991年9月)

苗場山
苗場山山頂
苗場山
苗場山山頂

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かぐらスキー場から苗場山へ

9月21日(土) 東京駅 7:52 とき451号 → 9:22 越後湯沢駅 → タクシー 祓川町営第2駐車場 10:08 → 11:45 下ノ芝 → 12:15 昼食 12:50 → 13:15 上ノ芝 → 13:25 小松原湿原分岐 → 13:36 神楽ケ峰 → 15:15 苗場山遊仙閣
 Kさんから九月の連休に山に行こうよと声がかかった。部下のS君が一度山に登ってみたいといっているので連れて行きたいという。Kさんとは久し振りだったので私は喜んで計画を練った。初心者のS君も楽しめるようにと山頂に美しい高層湿原が広がる苗場山に登り、秘湯赤湯温泉に下るコースに決めた。
 当日、東京駅の新幹線ホームに3人が集まった。S君は新調のニッカーポッカにハイソックス、タータンチェックのシャツにベストというオーソドックスな山姿で結構さまになっていた。「大分お金をかけたようだから1回きりの山行では元が取れないね」と冷やかすと、S君は「これからも連れて行って下さいよ」といった。
 新幹線に乗って1時間半で越後湯沢に着いた。タクシーで祓川にある町営駐車場まで行った。運転手に明後日に赤湯から下山するので迎えに来てくれと頼んでおいた。
 さっそく歩き始める。スキー場のゲレンデをリフト沿いに登る。作業員がスキーシーズンに備えて草刈りをしている。ここはみつまたスキー場の上部にあるかぐらスキー場で、一度滑った記憶がある。そのとき苗場山を見た記憶はないので曇っていたのだろう。私は苗場スキー場へは何度も行ったがリフトで一番上の筍山で降りて苗場山はどこだと探したものだった。今回登山コースを調べていて苗場山が苗場スキー場の遥か先にあるのが分かった。「苗場」スキー場というのはいささか僭称ではないかと思った。少なくともかぐらスキー場の方が苗場山に近い。
 20分ほどで和田小屋に着いた。水筒に水を詰め、尾根に取り付く。台風は去ったのに天候はすっきりしない。ときどき薄日も射すが南の空は黒くどんよりとした雲に覆われている。道はぬかるんでいて泥を避けて石や岩の上を歩く。オオシラビソの樹林越しにリフトが見える。開けた草原状の下ノ芝を過ぎて30分ほど登ったところで休憩、紅茶とクロワッサン、ハム、トマトの昼食を取った。
 木道が続く歩きやすい道を、上ノ芝、小松原湿原分岐と通過し、神楽ケ峰で休憩する。視界は100Mくらいで苗場山は見えない。ここから大きく下って250Mも登り返さなければならないことを事前にKさん、S君にいっておいた。気を引き締めて下り始める。途中に雷清水という水場があり味見する。一瞬ガスが通り過ぎて、向かいに黒い台地が立ちはだかっているのが見えた。最後の急斜面を下って最低鞍部に着いた。
 そこから急な登りが始まった。S君も遅れずに付いてくる。順調に高度を稼ぐ。湿ったガスで髪の毛が濡れてくる。苗場の山頂はもうすぐの所に来ていたが、神楽ケ峰から1ピッチ(50分)歩いたので休憩にした。S君は私の「休憩」という声に「神の声だった」といいながら腰を下ろした。バテる寸前だったという。それからほんの少しで苗場山の広大な山頂の一角に出た。視界は40〜50M位しかないが、木道の両側に大小の池塘がひっそりと散らばっている。もう急ぐこともないので写真を撮りながらゆっくりと進む。木道を伝ってゆくと山頂の山小屋、遊仙閣に突き当たった。小屋にはいると先着の2パーティーがテーブルで休憩していた。受付を済ませ先ずはKさん持参のワインで乾杯した。
 ガスが少し晴れてきたので付近の散策に出る。小屋のすぐ後ろに三角点があった。小屋のトイレから10Mも離れていない。ちょっと気の毒な場所に立つ三角点だった。山頂を覆っていたガスがスーッと流れ、突然、眼前に現れた高層湿原の広大さに息を呑んだ。ゴルフ場のような美しさだ。矮小針葉樹の濃緑、小笹の薄緑、草紅葉の薄茶色、自然が作り出す配色の妙に感嘆する。疎林の中には早くも真っ赤な紅葉も散見された。向かいに山頂部を雲に隠した佐武流山の堂々たる山腹が見えた。
 夕食は炊き込みご飯と豚汁だった。豚汁は美味かった。垂直のハシゴを登った2階で休む。同宿は約20名だった。
 
山頂
苗場山頂は雲の中(祓川より)
山頂の一角 苗場山一望
苗場山山頂の一角に到着 苗場山一望、向かいは佐武流山

山頂を散策して赤湯温泉に下る

9月22日(日) 遊仙閣 10:00 → 12:30 ふくべの平 → 13:10 水場で昼食 14:15 → 14:50 清津川越えたピーク 赤倉山分岐 → 15:20 赤湯温泉山口館 
 朝食は6時だった。窓際のテーブルで食事をしていると、空が明るくなってきて青い空が見えてきた。食事を終えるとさっそくカメラを持って散策に出る。小赤沢方面に下り湿原を鑑賞しながら反対の赤倉山方面に向かう。ほとんど人が通らないのか木道がない。湿原の草をそっと踏みしめながら広い草原を真っ直ぐ進む。大小の池塘に青空が映え、処処に深紅の紅葉が鮮やかである。振り返ればなだらかな大草原がゆっくりと天に向かい、左右の稜線が合わさった高みに遊仙閣ともう一つの山小屋が見えた。牧場のような大草原に大きな雲の塊が二つ三つ流れてゆく。太陽が雲に隠れると原色の草原は色褪せ、雲が去って陽が差すと赤、青、黄の極彩色が甦る。たっぷりと山頂の高層湿原を逍遙し小屋に戻った。
 今日は赤湯に降りるだけなので時間はたっぷりある。テラスでコーヒーをいれ、パンで腹ごしらえして、10時に小屋を出た。しばらくは湿原の中の木道を歩く。山頂台地の端に来ると岩場の急斜面になり慎重に下る。100Mほど降りると湿って滑りやすい尾根道となり、2時間半も歩くとフクベノ平に着いた。この辺りの明るいブナ林の道は何ともいえず気持がよい。再び急になった道を下ってゆくと小さな沢に出合い、しばらく併行して歩き、沢を渡った所で昼食にした。ガスコンロでモチいりラーメンを作って食べ、コーヒーを飲んで寛いだ。
 ここからの下りがまた長かった。ようやくサゴイ沢の沢音が聞こえてきて、サゴイ沢の立派な鉄橋を渡った。漸く宿と同じ地平に降りたかと思ったら、向かいの赤倉尾根の末端部を越さなければならなかった。つづら折りの急坂を汗を滴らせながら登り切ると、樹間に清津川の本流が白い帯になって見えた。Kさん、S君も相当くたびれているようなので最後の休憩を取った。
 それからゆっくり下り、清津川の鉄橋を渡り、岩がゴロゴロ転がって歩きにくい河原を300メートルほど進むと赤湯温泉の一軒宿、山口館に着いた。
 受付を済ませ、さっそく温泉に向かう。宿のサンダルを履いて100Mほど行くと沢のすぐ傍に露天風呂があった。赤色というより黄土色の湯が三つあり、一番奥の囲いのあるのが女性専用だった。手前の一番大きい浴槽にはいり、今日一日の汗を流した。やや微温い湯なのでゆっくりはいれる。誠に素朴な山の湯だった。
 宿に戻りビールで乾杯。同宿は明日苗場に登るという男1人女2人のパーティーのみだった。新築間もない宿は高い天井の二階建てで、一階の食堂は吹き抜けになっていた。板敷きの床に胡座をかいて夕食を取った。山菜の天ぷらは美味かった。
 ランプの宿である。二階の六畳ほどの部屋で寝た。廊下のランプが点けっぱなしだったので寝るには少々眩しかった。
ブナ林
ブナ林の下山道

越後湯沢で温泉にはいり、へぎそばを食う

9月23日(月) 赤湯温泉山口館 8:00 → 9:30 棒沢 → 10:45 小日橋 → 11:00 タクシー → 11:40 越後湯沢 町営温泉 → 12:10 中野屋(蕎麦屋) → 越後湯沢 → 東京 
 朝起きて一風呂浴びる。宿の無線でタクシーの予約時間を1時間早めて11時にしてもらった。
 8時に霧雨の中を出発。清津川本流とサゴイ沢を渡りうっそうとした樹林の中を登る。雨は止んでトチノ木やヒメコマツがブナに混ざる樹林を小一時間も登ると中腹をトラバースするようになり、鷹ノ巣峠に至る。ここから下りになりいくばくもなく棒沢の鉄橋を渡り、次の沢を渡った所から林道になった。ここで最後の休憩を取り、後は林道沿いのススキに秋を感じつつタクシーが迎えに来てくれる小日橋までチンタラ歩いた。
 時間通りにタクシーがやってきて、越後湯沢駅近くの公衆温泉まで送ってもらった。きれいな温泉で汗を流し、着替えてさっぱりしてから、へぎ蕎麦で有名な中野屋へ皆を案内した。名物のへぎ蕎麦をたっぷり食べて、後は新幹線で寝て帰るだけだった。
 このところ週末ごとに台風に襲われていたが、今回一瞬でも錦秋の苗場山頂全景を見ることができたのはラッキーだった。

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