マイカー駆使して恵那山、四阿山へ

(1992年8月)

 
恵那山 四阿山
恵那山山頂 四阿山山頂

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冷たい湧き水と深い森が魅力の恵那山

8月20日(木) 自宅 4:30 → 9:10 黒井沢 → 10:23 水場 → 1046 野熊の池 → 12:38 恵那山山頂 → 12:45 山頂小屋 昼食 13:10 → 14:16 野熊の池 → 15:30 黒井沢 → 16:30 中津川グリーンホテル
 夏休みに恵那山と四阿山に登ることにした。少し離れているが車を使えば2泊で回れそうだ。
 お盆の混雑を避けて8月20日の4時半に自宅を出発した。カーラジオをいれると深夜番組で宗教の話をしていた。講師は仏教は「悟り」であるといった。一人一人が悟ることができるが本当に悟ったのは釈迦だけで、5億年後に悟りを得るのが弥勒菩薩だそうだ。突拍子もない話である。7時に駒ヶ根SAでサンドイッチとコーヒーで朝食を取った。
 中央自動車道は中央アルプスに穿ったトンネルで伊那側から木曽側に抜ける。中津川で高速を下り、木曽川の支流、中津川の上流に向かった。川上から未舗装の林道にはいった。しっかりとした林道だが嫌になるほど長かった。漸く黒井沢出合いの駐車場に着いた。山支度をして黒井沢沿いに林道を歩いて行くと恵那山への案内標識があり、「野熊の池 2.5Km、山頂まで5.8Km」となっていた。沢に沿って深い森の中を行くと黒井沢休憩所があった。5〜6人は泊まれそうな小屋だった。そばに大きなオヒョウの木があった。道端の木々に樹木名を書いた表示板が付けられているのは有り難い。黒井沢を2〜3度渉り返す。うっそうとした自然林の中に木漏れ日が射し、せせらぎの音が涼しげである。気持のよい山道だ。1ピッチで水場に着いて休憩。樋で引いた冷たい水が美味い。細くなった沢を詰めて、尾根を登るようになると間もなく野熊の池があった。池の端に木のベンチが3つあった。樹林に隠れた小さな池だが湧き出た清水が水音を立てて流れ出している。相当な湧水量だ。
 枝が針金のようなカラマツの植林地帯を通る。骸骨が並んでいるようで不気味である。恵那山には自然の森がふさわしい。しばらく登ると天然林に戻り、山頂小屋まで1.8Kmの所で休憩。それから尾根の左側を巻き気味に登る。上空に黒い雲が広がって四周の展望を妨げている。山頂小屋の250Mほど手前に岩清水がありビニール管から水が流れ落ちていた。先ほどの水場の水も美味かったが、それよりもっと冷たくて美味かった。正に甘露である。水場の多い山はうれしい。やがて広い尾根にある山頂小屋に着いた。小屋前の広場に二人組が休んでいた。真新しい木造の立派な避難小屋で、中を覗いてみるとストーブのある土間と仕切られた部屋があった。地元の自治体はこの山を大切にしているようで立派なことだと思う。
 恵那山の山頂は小屋から5分ほど緩やかに登った所にあった。途中小さな祠が幾つかあり、頂上手前には道を塞ぐようにやや大きめの祠があった。山頂には三角点の他に「恵那山 2190M」と書かれた標柱があるだけだった。高曇りで眺望に恵まれなかったのは残念だった。晴れていれば濃尾平野とその先の三河湾も見えるという。誰もいない山頂は淋しいので山頂小屋の広場に戻って昼食にした。先ほどいた二人組は下山したようだ。握り飯を頬張りトマトにかぶりついた。
 食事を終えるとすぐに下山開始。野熊の池で先行の二人組が休憩していた。「百名山」なのに黒井沢コースを今日登ったのは3名だけのようだ。他の登山コースもあるから何ともいえないが静かな山である。途中尾根上で展望の開けている所があったが、南アルプスは山頂部分に雲が漂っていて山座を特定することはできなかった。樹林帯にはいると途端に暗くなった。原生林の中を一人で歩いているのはあまり気持のよいものではない。風が吹いて梢がサワサワと音を立てて揺れると何か物の気配を感じて何度も振り返った。野熊の池があるのだから熊がいてもおかしくはない。漸く明るい林道に出てほっとした。
 車に乗り込み、長い中津川沿いの林道を下り国道に合流したとき、シーズンオフで休業中の屋外スケート場に気が付いた。昔名古屋支店に勤務していた頃、このスケート場に来たことを思い出した。こんな所までスケートをしに来たんだと懐かしかった。
 今宵の宿の中津川グリーンホテルは駅近くのビジネスホテルだった。バス、トイレなしの部屋だったが、風呂は6階にあり一番風呂で気持よく汗を流した。
 夕食は近くの蕎麦屋に行った。天ぷら、板わさなどで生ジョッキ2杯を空け、大盛りザルで満腹した。
 夜は冷房が苦手なので切ったがやはり熱くて熟睡できなかった。部屋にトイレがないのは不便だった。
 
野熊の池 山頂の祠
樹林に隠れる野熊の池 山頂の祠

熊笹の海を泳いで四阿山へ

8月21日(金) 中津川グリーンホテル 4:00 → 8:10 鳥居峠 8:35 → 9:56 的岩 → 10:32 休憩所 → 11:42 四阿山山頂 12:10 → 13:00 休憩所 → 13:40 林道終点 → 14:30 鳥居峠 15:00 → 鹿沢、小諸、須玉経由 → 20:15 自宅
 
 3時30分起床。クロワッサンとミカン、ホテルのポットの麦茶で朝食。4時に真っ暗な地下1階の駐車場から車を出した。中央高速の駒ヶ根辺りで日の出を迎えた。ラジオの深夜番組で今日も宗教の話をしている。今日のテーマは煩悩と恐怖についてであった。四苦、八苦、六根清浄の解説があり、宝珠と錫杖はどんな蛇や害虫のいる所でも救いに行く僧の魔除けなのだという。
 長坂ICで高速を下り、国道141号にはいる。長い上り坂で重そうなトラックがノロノロと走っている。排気ガスをもろに受けるが追越禁止でどうにもならない。野辺山を過ぎ下りになると小雨が降り出してきた。天気予報も曇り時々雨、一時雷雨で、降水確率は30〜50%だった。雨の中を登るのはしんどいので、臼田辺りで引き返そうかと思ったが、まあ行く所まで行ってみようと思い直した。小諸から国道18号にはいり、鹿沢への入口を探すが見付からず、高峰高原の標識があったが通り過ぎてしまった。しかたなく上田近くで菅平方面への道にはいると、昨年戸隠からの帰りに通った道にぶつかった。そこからは見覚えがあり、間もなく鳥居峠の駐車場に着いた。店を開けたばかりの茶屋に行って、若いお姉さんに駐車場料金300円を払い、月見蕎麦で腹ごしらえした。
 山支度をして霧の中を出発。轍の残る防火帯の道を歩き出す。真っ直ぐな緩やかな坂道をひたすら登る。樹林帯にはいり間もなく左に「的岩を経て四阿山」、右に「四阿山5.8Km」の導標があった。左の道は熊笹の中の頼りない道なので、しっかりした道が続く右の道を選んだ。砂利道の林道を数百メートル進むと林道の終点となり、四阿山登山口の案内板があった。左側の枯れた沢状の緩やかな道を登ってゆくと、腰から肩辺りまで伸びた一面の笹原にはいり込んだ。熊笹に付いた朝露でズボンが濡れてきた。足許は見えず熊笹の中で靴先に抵抗がない所を探りながら進む。地面が見えないので石や岩が隠れていたらつまずくのは必定だが、よくしたもので笹原にはそういう障害物がないので助かった。ちょうど陽が差してきて青い空が見えてきたので気分は明るくなった。熊笹の原がポカッと開いた所で休憩した。キウイをスプーンですくってビタミン補給。
 針葉樹と熊笹の斜面を登りながら、積雪期にスキーツアーをしたら気持良さそうな斜面だなと思った。20分も登ると的岩に出た。先ほど分岐した道と合流した。的岩は四角い石柱が積まれたような形状で高さ15M、長さ200Mもあるという長い岩稜だった。岩の間に隙間があって弓で射た跡のように見えるので的岩と名付けられたようだ。火山活動の痕跡だろう。
 的岩から稜線上の道となる。右側一面の熊笹の中にニッコウキスゲなどが疎らに残っている。7月頃に来ればきれいなお花畑であったろう。間もなくコメツガ、シラビソの原生林となり途端に暗くひんやりとしてきた。間遠に鳥のさえずりが聞こえてくる。だんだんと岩が露出するようになり傾斜もきつくなった。目の前で赤トンボがスイスイと飛んでいる。汗をポタポタ滴らせながらトンボのように飛べたらなと思う。小ピークを登り切ると小さな休憩所があった。屋根囲いの壁にベンチが並び、真ん中にテーブルがあった。ここで休憩する。後1ピッチほどで山頂に着きそうだ。シジミチョウが飛んできて右手に止まった。なかなか動かないので手を振るとヒラヒラと飛んでいった。
 最後のピッチにかかる。高曇りで眺望は効かない。尾根上の樹林帯をアップダウンを繰り返して高度を上げてゆくと、また熊笹の道となり尾根の左側を巻いて根子岳と四阿山の縦走路に突き当たった。四阿山の頂上は後300Mだった。恵那山と同じような感じの道を上り詰めると誰もいない山頂の一角に出た。「四阿山頂 2332.9米」の群馬県嬬恋村の立てた標柱があった。三角点の標高のようである。山頂は横に長く、石囲いの中にいくつかの小祠があった。一番高いところは標高2354Mであった。周囲の山の展望は得られなかったが山頂の様子を写真に撮り、昼食を取っていると、根子岳方面から登山者が来始めた。3人組のパーティーに続き地元の中学生らしき集団が続々と登ってきた。人が溢れてきたので下山することにした。根子岳の下の方が一瞬見えてきた。なだらかな笹原に一直線に付けられた道は実に明るく気持良さそうだった。菅平の広がりは薄いガスを通してよく見えた。四阿山を振り返ると横に広がった山頂に中学生たちが櫛の歯のように並び、賑やかな声が聞こえてきた。
 鞍部から鳥居峠へ下り始めると二人連れの若者とすれ違った。的岩の近くでは握り飯を食べている老夫婦に出会った。これから頂上を目指すのは時間的に大変だなと余計な心配をした。四阿山へは鳥居峠から往復するより、菅平から根子岳、四阿山を周回するコースの方が人気のようだ。
 的岩から左に熊笹の海を快調に下り、林道に出た。鶯がきれいな声でさえずった。極彩色のアゲハが舞っている。オレンジ色の蝶が2匹飛んできた。鳥居峠までの2.9Kmは長く感じられた。ひたすら足を交互に運ぶ。赤トンボが何匹も私の回りを護衛するように飛行している。スイスイツーと鋭角的に方向を変えながら着いてくる。岩手山の下りでも同じような光景があった。赤トンボにはそういう習性があるのだろうか。シジミチョウも時々現れヒラヒラ飛んでいく。蝶やトンボが疲れた私を慰めてくれた。つま先が痛くなり、足指を丸めて歩く。漸く峠に下り立ち振り返ったが四阿山は雲の中だった。
 車に戻り、水筒で運んだ恵那山の水でタオルを濡らして身体を拭った。それからシャツを着替えてさっぱりした。峠の茶屋でコカコーラとアイスクリームで水分と糖分を補給して帰途に付いた。
 鹿沢から小諸に出て、国道141号を走っていると真夏の陽射しが差してきた。中央高速にはいり双葉SAで居眠り防止にグロンサンを飲んだ。中野坂トンネルで10Kmの渋滞はあったが比較的順調に走り、8時15分に自宅に帰り着いた。
クマザサの道 山頂の祠
クマザサの道 山頂の祠
 

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